第81話

 そのまま宿に帰った。

 ベッドに1人というのは随分久しぶりだ。

 ルルカをこの王都で買って以来になるのか……。


 今日の模擬戦のことを考える。

 とりあえず風槌の弾幕はダメだ。

 9割以上無駄玉なのに魔力消費が半端ないし、ダメージもほとんど与えられていない。

 調子に乗って使いまくったが派手な見た目とは正反対な効果だ。

 あれなら工夫して風槌アッパー当てたほうが全然いい。


 あとは魔盾か……

 まさか木刀に破られるとは。

 強化した魔盾は厚さが10倍になっているから近接戦闘で何枚も重ねて使うのは現実的ではない。せいぜい2枚か3枚が限界だ。

 それに魔力消費量も問題だ。厚さが10倍=魔力消費も10倍な上に魔力での強化も行っているので消費量が通常の薄い魔盾の20倍近くに跳ね上がってしまう。

 1回か2回攻撃を防げば勝てる相手ならいいが、長期戦になると魔力が持たない。


 う~~ん……

 別に盾の形をしてなくてもいいのか?

 弓矢や魔法といった遠距離攻撃に対しては体を隠す必要がある為に面積が必要だが、近接戦の場合は斬撃か刺突さえ防げればいいのだから、縦に3本の線のような盾でも十分……なのだろうか?

 よく考えよう。

 そう。あれはオークキングと戦った時だ。

 近接戦の間合いではなかったものの、少し離れたところから巨大な斧の投擲攻撃を喰らったんだ。あの斧なら大きいから問題ないとしても、投げられたのが剣や槍だったらスカスカの盾では攻撃が通ってしまう。

 となると……、薄い盾2枚分ぐらいの表面に厚みのある3本線をくっつける感じか。

 試しに作ってみる。

 魔力消費は4倍ほどか。

 ついでに遠距離攻撃に対応した魔盾も開発しよう。

 縦線だけではなく横にも3本線を通す。

 うむ。いい感じに仕上がった。


 満足感で一杯だが、よく考えると魔力消費量の問題が大幅に改善されただけで、魔盾自体の強化にはなっていない。

 う~~ん。う~~ん。

 そんなにいいアイデアがポンポン出てくるのなら苦労しないか。

 今後の課題として長期的に取り組もう。

 本当にこれ以上魔盾を強化できるのかは知らないけど。

 正直限界を感じてはいる。




 翌朝、以前ティリアさんに教えてもらったパン屋に行き大量注文してから、昨日ギルドで場所を聞いた魔術研究所に向かった。

 王都の第二区画にある魔術研究所はその危険な香りがする名称からはかけ離れた感じの普通な建物だった。

 3階建ての1階で受付をするのだが、


「許可のない者は立ち入ることができません」


「許可というのはどこの許可ですか?」


「軍部の許可です。城で申請できますよ」


「わかりました」



 こういうとこの許可って下りるまで待たされるんだよね。

 まぁ急いでいる訳ではないから1週間程度なら問題ない。

 最悪1ヵ月近く掛かっても砦奪還任務の後で行けばいいかぐらいの気持ちで行ったのだが。


「1年以上はかかります」


「は?」


 城に着いてこの件を扱っている軍務部に案内されたのはいいのだが……


「ですから、通常は許可が下りるまで1年以上かかるのです。審査とか色々な手順がありますので。

 まぁあなたの場合は2~3年は覚悟してください」


「ど、どうして?」


 どうも軍務部の受付を担当しているこの軍務ねーちゃんは苦手だ。

 真面目に対応してもらってるのは表向きで裏ではバカにされてる感じがする。


「当然です。大体なんですか? この出願理由は。

 『闇の軍勢を創設して魔物共を蹴散らしたいから』

 アホですか?」


「なんでだよ! 国の為、引いては人類の為にもなる壮大なプランの第一歩じゃないか!」


 裏どころか直球でバカにしやがって。


「ここを遊び場にしてもらっては困ります。子供はウチに帰ってゴブリンでも倒してください」


「俺は大人だよ! 来月は南の砦奪還を手伝うように軍から依頼されてるんだ」


「ハンッ」


 コ、コイツ鼻で笑いやがった……


「ほら。5等級の冒険者カードもある。これでもそれなりに腕の良い魔術士なんだぞ」


「最近の冒険者ギルドも困ったものね、ほいほい簡単に等級を上げて」


「軍の魔術士なんかよりよほど腕は上なんだがな……チラッ」


「安い挑発ね。子供がどんなに喚こうが軍は動かせないわ」


 ぐぬぬぬぬぬ。

 スーハー、スーハー、落ち着け。


「有力者の紹介があればすぐ許可を出してくれますか?」


「そうね。王国のトップクラスの紹介状ならすぐ許可するわ」


 確か姫様がなんとかというエライ役職に就いていたはず。(←南部総督府顧問のこと)

 明日にでも献上品を持って行って紹介状を用意してもらうか。

 ただまたお礼しなきゃいけなくなるのはなぁ……


「領主様ではダメですか?」


「ダメということはないけど1月前後はかかるわね」


「わかりました。ありがとうございました」


「気を付けて帰るのよ~」


 だから子供じゃないって!!

 ロイター子爵に『お・は・な・し』してなんとか伯爵に紹介状を用意して頂こう。

 許可が下りるまで時間を要するのはこの際仕方ない。




 パン屋で注文した品を回収してティリアさんの家に行く。

 まだ昼前だったのだがもうご飯は食べたようだ。


「それではツトムさん、手紙出しますから迎えに来てくださいね」


「わかりました」


 どうやらティリアさんがウチに遊びに来るのは決まっているらしい。


「ティリア、今回は泊めてもらってありがとうね」


「もっと遊びに来て欲しいぐらいだから気にしないで。

 でも次は私がお邪魔する番だけど」


「ええそうね。待ってるわ」


「ティリアさんこれを」


 収納からプリンとアイスクリームを渡す。


「まぁ! もう1度食べたいと思っていたのよ!」


「保冷の都合上小分けにお渡しするしかなくて」


「ツトムさんからは頂いてばかりで申し訳ないわぁ」


「お気になさらないでください。ルルカに良くして頂いてこちらこそ感謝しています」


「まぁまぁ!! 私の方こそツトムさんに感謝していますのよ。このように」


 !?

 またキスされ……


「ティリア!」


「ん~、レロレロ……チュッ」


「ま、不味いですよ、こんな表からも見えますし……」


 ティリアさんは俺を抱き締めたままだ。

 家を囲んでいる塀である程度見られないとはいえ、玄関先なので見ようと思えば覗けるのだ。


「見られないところならもっと大胆にしてもいいのかしら?」


「ティィリィィィィアァァァァ~」


「あら! また近い内にお会いしましょう♪」


 そう言ってティリアさんは家の中に入ってしまった。

 俺にこの場をどうしろと……

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