第47話

 先ほどのやり取りは思ったよりも注目されていたみたいだ。

 かなりのギャラリーが訓練場を取り囲んでいる。


「殺傷力のある攻撃は禁止。気を失うか降参すれば負けです。はじめ!」


「ん?」


 木刀を持ち構えているとヨハンが1人木刀を肩に掛けて対峙してきた。


「他の2人はどうした?」


「ネイとユラがやるまでもねぇ。オレだけで十分だ」


「ふ~ん。まあいい、来い!」


「死ねやぁぁぁ!」


 ヨハンと打ち合う。

 実力的にはヨハンは初級の上位と言ったところか。

 ヤンキー風な言動の割には基礎をしっかりこなした跡が伺える。


 当然初級の下位である俺では押されるしかなく、時々打ち込まれる。

 奴隷商でロザリナと戦った後に気付いたのだが、打たれた瞬間に回復魔法を施せばいいのだ。

 これで俺はいつまででも戦える。


 更に拳や蹴りを出していく。

 真剣での斬り合いなら怖くてこんなことはできないが、木刀だから問題ない。

 昔のカンフー映画みたいに剣と拳法(もちろんやったことなどなく、うろ覚えである)を駆使してトリッキーに戦っていく。

 スペックごり押しと身体強化スキルのおかげもあってヨハンを圧倒していく。

 せっかく俺が「ハッ!」「ハッ!」って演出してもヨハンが付き合ってくれないのでイマイチではあるが。


 ヨハンをボコボコにしチョークスリーパーに持って行く。

 もちろん締めて落とすようなことはしない。

 なぜならここからがこの作戦の重要な場面なのだ!


「ネイとユラだっけ? 見てみろよ。おまえがこんなにやられてるのに助けようともしないぞ」


「……」


「声を出すなよ。あの2人は見たとこ魔術士と斥候職か?」


 頷くヨハン。


「どちらも人気職だ。しかも女性なら他の高ランクのパーティーに既に誘われてるのかもしれないなぁ」


「そんなっ!!」


「いいか、これからお前を離してやるから彼女達にこう言ってみろ」


「実力が足りなかった。今後は訓練主体で腕を磨くと」


「彼女達が真に信頼できる仲間なら賛成してくれるし、他のパーティーから誘われてるなら本性を表すはずだ」


 チョークスリーパーを解き回復魔法を掛けてやる。


「さあ、いってこい!」


 名付けて悪魔の囁き作戦だ。

 パーティーをバラバラにしてしまえば森に行くどころではあるまい。

 傍らで聞いてたミリスさんがドン引きしてる感じもしないではないが……


 案の定かなり揉めてるみたいだ。

 別に他のパーティーから誘われること自体彼女達に罪はない。

 だが誘われたことを裏切りと錯覚させられたヨハンとはぶつからざるを得ない。

 しかも彼女達が誘いをきちんと断ってなかったりでもしたら火に油を注ぐことになる。

 先輩冒険者にパーティーに誘われてはっきりと断れる人間は少ないだろう。

 特に女性だと。


 目の前で既にケンカに近い感じにヒートアップした彼らを見て仲間を信じることの大切さを学ぶのだ。

 俺はソロだけど……



「ミリスさん例の件お願いしますよ」


「わかりました。けど、ここまでやる必要がありましたか?」


「あのままでは他のパーティーとの協力も連携も得られず遅かれ早かれ彼らは森で消えていたことでしょう」


「自分は彼らにチャンスを与えた。そのように認識しています」


「そのチャンスを生かすかダメにするかは彼ら次第ではないでしょうか?」


「そう…で…すね?」


 上手くまとめられた……かな?




 午後からは西の森の道路工事だ。

 前回終わったところから続きを行う。

 大木・巨木に関しては無理に移動させるのは諦めた。

 直線に拘る必要はない。

 要は西の森の奥まで安全に行ければいいのだから。


 途中川にぶつかった。

 北から南西に向けて流れる幅3メートルほどの緩やかな流れの川だ。

 最初土魔法で橋を作ったのだが、橋を支える柱の部分が水で崩されてしまう。

 固くイメージして作ってもダメだった。

 まぁ所詮土だしな。


 そこで周囲から大きく、なるべく縦長の岩を探し、収納で持ち運び川の流れに沿うように縦向きに置く。

 土魔法で川底に穴を開けガッチリ岩を固定した。

 同じように岩をもう一つ置いたが、高さが合わない。

 高いほうに風刃を放つが少し傷が付く程度だ。

 今度は剣で斬ってみたが刃がかなり欠けた。もちろん予備のゴブリンが使ってた剣だから欠けても問題はないのだが……

 くっ。『一文字〇斬岩剣、この世に斬れぬものはなしッ!』と言ってみたかった!

 結局風刃連打でゴリ押しした。


 橋を架け、更に奥へと続く道を作るが全然オーク集落に辿り着かない。

 本当に西の森の奥にオーク共はいるのだろうか?

 徒労感が増してきたので帰ることにする。

 帰りは走ったが、森の出口まで5分程だった。

 距離にして1キロちょっとか……

 体感ではもう何キロも道を作った感じだったけどまだまだだ。

 最低でも10キロは奥に伸ばさないと……

 残り9キロ、つまりあと18日掛かると考えるとゲンナリしてきた。


 少しやり方を変えてみるか。

 今は幅1メートルの道路とその両側を幅3メートルずつの安全地帯を作る方法だ。

 これを道路だけ先に伸ばしてみようと思う。

 安全地帯は森奥から帰る時とかに追々作っていけばいいのじゃないか?

 森の中でも頻繁に魔物に襲われる訳ではないようだし。

 よし! そうしよう。




「ロザリナ、壁外ギルド職員のミリスさんを知っているか?」


「はい。私達姉妹がこちらに来た当初お世話になりました」


「そうか。ミリスさんにロザリナが剣の指導に参加できるように頼んだからなんとかしてくれると思う」


「ありがとうございます」


「そのミリスという人はどうしてツトムさんのお願いを聞いてくれるのですか?」


「今日ちょっとしたお願いを聞いた交換条件にな…(説明中)」


「何もそのような手段を用いなくとも…」「……」


「敢えて憎まれ役を演じることで彼らを守った訳なんだが……」


 どうも女性には不評のようだ……




「…さん、……ムさん」


「…ム様、…ム様起きてください」


 気持ち良く寝てると体をゆすられた。


「ツトムさん、ツトムさん」


 珍しいな、2人がこんな夜中に俺を起こすなんて。

 初めてのことじゃないかな。


「ツトム様!!」


 なんかカンカン鳴ってうるさい。


「敵襲ですよ!!」


 は?


「敵ってなんだ?」


「しっかり起きてください!! 先ほどから悲鳴が……」


 鐘の音の間になにか聞こえるな。

 壁外区に魔物でも入り込んだか?

 地図(強化型)を表示する。


「はあ?」


「え?」「ツトムさん?」


 壁外区内外と城内そこかしこが魔物の赤点で一杯になってる。


 これ…かなり……マズイ状況なんじゃないか?

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