第38話
護衛さんに家のドアのとこまで運んでもらった。
きちんとお礼を言って、一応中でお茶でもと申し出たが任務中だからと遠慮された。
自分の家のドアをノックする。
しばらくしてドアが開きロザリナが顔を出す。
オイオイ。不用心だな。
収納から鞘に入れてる剣を出しロザリナの首筋に当てる。
「俺が刺客だったらお前はもう死んでるぞ」
「ツトム様のお声が聞こえてきましたので」
小声で話した訳ではないから聞こえて当然か。
「普段用心してるのならいいが、油断だけはしないように」
「承知しました。ところで、どうかされたのですか?」
「ああ。すまないが肩貸してくれ。説明はルルカと一緒に」
「は、はい」
ロザリナに肩を貸してもらってリビングに行こうとしたのだが、座り続けるのもしんどいので寝室に連れてってもらう。
「ツトムさん何があったんですか?」
「えっとだな……(事情説明中)……
という訳で動けるようになるまで療養することになった。数日もすれば大丈夫だと思う」
本来であれば大量出血からの回復はもっとかかるだろうが、
回復魔法は自然回復力を高めるから早めに動けるようになるはずだ。
「わかりました。私達が2人できっちりと介護致します」
「お任せください!」
2人とも妙にやる気だな。
「傷自体は回復魔法で治してあるので、あとは体力回復させるだけだから介護というほどの作業にはならんと思う。
そ、そうだ。こんな機会滅多にあるもんじゃないから2人に休暇を……」
「要りません!」
「私も一昨日買われたばかりですので……」
「そ、そうか……、なら午前午後1人ずつ交代で自由時間にするというのはどうだ?」
「まぁそういうことでしたら……」
なぜ不承不承なのだろうか?
俺なんか休みもらえるとなったらウキウキハイテンションになるのは間違いないのに。
「ただルルカは自由時間であっても外出する際はロザリナを護衛として連れて行くように」
「わかりました」
「ツトム様、本当に城内にオークが?」
「ああ。気付いたら自分の体を矢が貫いていたよ。ロザリナは城内に魔物が侵入した事例を他に知っているか?」
「聞いたことありません。恐らくはここ20年~30年なかった事態かと」
「ロザリナ。護衛の時も1人の時も戦闘は可能な限り避けろ。兵士や冒険者の援護を期待できるなら戦闘参加も構わないが」
「かしこまりました」
川端努 男性
人種 15歳
LV21
HP 91/192
MP 557/1662
力 53
早さ 66
器用 73
魔力 241
LP 20P
スキル
異世界言語・魔法の才能・収納魔法Lv5・浄化魔法Lv6・火魔法Lv4・風魔法Lv6・水魔法Lv1・土魔法Lv6・氷結魔法Lv4・回復魔法Lv6・魔力操作Lv3・MP回復強化Lv4・MP消費軽減Lv4・マジックシールドLv7・身体強化Lv3・剣術Lv1・槍術Lv2・投擲Lv1・敵感知Lv4・地図(強化型)・時刻・滞空魔法
レベル20台から貰えるLPがまた増えるかと期待してたのだが据え置きだった。
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-バルーカ城の会議室にて-
本日の出席者は、
エルスト・グレドール伯爵(バルーカ領主)
エルカリーゼ・フォン・ビグラム子爵(白鳳騎士団長)
カダット・ロイター子爵(領軍司令官)
他副官数名。ゲルテス男爵は現場での指揮を継続中なので欠席である。
「……それで軍の損害は?」
「東門を守っていた者、詰所で待機してた者、東門広場を警邏してた者、初期段階で東門の援護に向かった者、合わせて35名です」
「領民の被害は?」
「現時点で114人。負傷者も同程度で、死者は最終的には200人を超えてくると思われます」
「100体を超える魔物が城内に侵入したことを鑑みればまだ犠牲は少ないほうか……」
「商業区画まで魔物が侵入しなかったことが幸いしました。買い物客で混む時間帯でしたので」
「うむ。引き続き被害状況の把握に努めよ」
「ハッ」
「次にロイター子爵。問題の中心部に現れたオークの集団については?」
「出現方法は未だ不明です。手掛かりすら掴めていません。目撃者の誰もが『突然現れた』『見たら既にそこにいた』と言い、現れたその瞬間は誰も見ていない点まで証言は全て一致しております」
「メルク(東の街。国内のもう一つの対魔族最前線都市)には伝令を出したな?」
「はい。魔術士を飛ばしましたのでもう着いてる頃合いでしょう」
「恐らく誰もがわかっていて溜息を吐きたくなってると思うが念の為に聞く。ロイター子爵、この件に関する防御法は?」
「城内並びに壁外区の各所に警備兵を配置するしかありますまい」
「やはりそれしかないのか……、それにしても壁外区にもか?」
「土魔術士による壁外区の防壁化の承認も頂きとうございます。対魔物に専念する為にも壁外区が新たな火種となる前に手を打つべきでしょう」
王都から赴任して来たグレドール伯爵がバルーカの地を治めるようになって10余年。先代の領主が城内都市と壁外区域の対立構造を壁外区にとって直接的な脅威となっていた西の森の魔物を討伐し、演習と称して定期的に掃討することによって融和に導いたことを伯爵は知識として知っていても感覚的には理解してなかった。
かつて壁外区は自分達も税を納めているのに領軍が守ってくれないのを不満とし、未だその不満の残り火が燻り続ける中で領主側が何も手当てせずに今回のような魔物による襲撃が壁外区に起こったらどうなるか。
代々この地で重職を担ってきたロイター子爵との認識の差が出た場面と言える。
「防壁化は許可しよう。しかし警備兵に関しては城内だけでも手が回らないのではないか?」
「伯爵」
「いかがなされた? ビグラム子爵」
「我が白鳳騎士団にもバルーカ防衛の任をお与え下さいますようお願い申し上げます」
「それは大変有難い申し出です。帝国軍の方々に通常の防衛任務まで負担して頂くのは心苦しい限りなのですが」
「バルーカ防衛に直接貢献できて騎士団の士気も上がりましょう」
「そう言って頂けると助かります」
伯爵は丁寧に一礼する。
「帝国軍の御助力で当面の警備の目処は立ったが、根本的な解決は可能なのか?」
「次の襲撃の際には配置された兵士が現れた瞬間を目撃できるでしょう。そこから何らかの糸口を見つける他ありますまい。
ただ……、
解決が不可能又は解決することが無謀だった場合に備えて防衛と警備両計画の見直しを始めておくべきです」
「……期待できない以上備えは必要か……
草案作成を始めさせよう。
明日一番で王都に伝令を出すが、更なる援軍も要請しておく。
次の南部哨戒の件はこの任に当たっているゲルテス男爵と詰めることとし、この場では東門の防御に関して討議したい。
ワシとしては方法は2つしかないと考えている。門を閉めるか、門を開けたまま守れるように東門周囲を要塞化せしめるか。メルクとの往来を妨げる訳にはいかないので後者の選択をしたい」
「伯爵のお考えに賛同致しますが、守備要員は如何なされるのです?」
「ゲルテス男爵と当座哨戒を緩めてでも人員を回せないか協議するつもりだ」
「壁外区の防壁化の前に最優先で土魔術士による東門の仮の要塞化をしなければいけませんな」
「うむ……」
新種の魔物に対する対抗手段がようやく見通しが立つ段階に来た途端に新たな難問に直面してしまった。
果たして中央(王国府)は動いてくれるだろうか?
これから胃の痛む日々が続くであろうことにげんなりする伯爵であった。
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