第37話

 あっ。

 なんかお腹から熱を感じるようになってきた。

 痛みを感じ始める前に早く矢を抜かないと。

 前方に投げ出すように倒れるんだ。そうすれば一気に抜ける。

 深呼吸して意を決して前方に倒れる。


 ドサッと不格好に倒れたが。

 くそう。

 建物から矢尻ごと抜けやがった。

 土魔法で建物と矢尻を固めておけば……

 背中に手を伸ばすとなんとか矢を掴めた。


 もはやお腹からズキズキと痛みが襲っている。

 抜いたらすぐ回復魔法を……いや、まずは浄化魔法、次に回復魔法だ。


 (せーのっ!)


 …×!×□?□!×?◇?!!


 ズズっと体の中から嫌な感触を感じたが痛みでそれどころではなく。

 意識を失わないように魔法を……

 なんとか浄化魔法→回復魔法の順に発動させた。

 更に回復魔法を掛け痛みがなくなると下半身がぐっしょり濡れてるのがわかる。

 漏らしちゃったか。あの痛みなら仕方ないと起き上がろうとしたが立ち上がれない。


 地面が赤い。

 大量の血が……

 って俺の血だよ! てっきり漏らしたと勘違いしたじゃないか!

 ある種のプライドは守られたものの状況的には最悪だ。

 大量の血を失ったせいかショック性なんとかの為か体が動かせないのだ。

 まるで力が入らない感じ……

 回復魔法では体力は回復しないが血の量も回復しないらしい。


 とにかく顔だけでも上げて地図(強化型)を表示させ、風刃でオークを倒していく。

 しかし弓を射てるオークまでは風刃では届かない。

 土槍(回転)だと貫通すると他の人に当たる可能性が……


 大体なんで街中にオークがいるんだ?

 地図(強化型)を表示してなかったとはいえ、敵感知にすら何も感じなかったぞ。

 別に撃たれるまで何らかの異変は一切なかったし……


 くっ。

 どうやら弓を射てるオークがこちらに気付いたらしい。

 飛んでくる矢を魔盾2枚重ねでガードす……抜かれた!

 だが軌道を逸らすことはできたみたいだ。

 次に飛んで来た矢を魔盾3枚を斜めに配置して軌道を変える。


 ノーマルな土槍を10本ほど発射するが、持ってるデカい弓や盾を使ってガードされた。

 距離があるので判別が微妙だが、どうも通常のオークではなくオークリーダークラスではなかろうか?


 さて。どうする?

 体は一向に動かせない。

 手や足は動くのだが起き上がれないのだ。

 このまま矢を防いでいればいずれは兵士が来てくれると思うが……


 悩んでいると東から多数の赤点が……

 どうやら東門が魔物に突破されたみたいだ。

 城内に10……20……と魔物が入り込んでくる。

 城壁の上から守備兵が激しく攻撃してるが魔物の突入を完全には防げていない。


 この状況でもやれるだけのことはやろう。

 地面に両手を置きイメージする。

 弓オーク達の足元から槍をたくさん突き出す感じだ。

 魔法を発動させる!


 やった!

 そしてレベルも上がったぞ。

 向こうでは道路の真ん中から土槍が多数突き出て弓オーク達が串刺しにされてるというシュールな絵面になってしまっているが……


 ん?

 東門からかなりのスピードで赤点が何個か向かって来ている。

 段々視界に捉えてきたのはゴブリンが犬に跨って駆けてきている。いやあれは狼か?

 さきほどの土槍を地面から出して串刺し……略して土刺しで狼諸共貫いた。

 後続のゴブリン騎兵?も土刺しで仕留めたのだが……

 道路の絵面がかなりヤバイことになってる。

 道を完全には塞いでいないので通行自体はできるのだが、魔物が串刺しにされて血が大量に撒き散らされてる中を歩くのはかなり勇気が要りそうだ。


 動ければ土魔法で直して魔物を収納して何もなかったことにできるのだが。

 ん? 地面から槍を突き出せたなら引っ込めることも可能なんじゃないか?

 再び地面に両手を置きイメージする。

 引っ込め~引っ込め~

 魔力を発動させる。

 数本土槍を引っ込めることに成功したのだが……


 果たしてこんなことに魔力を消費していいのだろうかと不安になる。

 なにせこの、引っ込め~魔法は土刺しと同程度の魔力を消費するのである。近くに行って土魔法でやればかなりの魔力を節約できるのだ。

 東門付近では激しい戦闘が行われているし、城内の東区画には50体やそこらの魔物が暴れているようだ。


「ツトム君!」


 !?

 誰かが駆け寄ってくる。

 ロイター子爵だ。


「大丈夫か?」


「不覚を取りました」


「今手当を……」


「傷自体は回復魔法で治したので平気です。それよりも東門が突破されて城内の東区画に多数魔物が侵入しています」


「わかった」


「おい! 君達はこのまま東門に行って守備隊に加勢しろ。途中で魔物を見つけたら分隊単位で分かれて対応するように。それから……」


 ロイター子爵は指揮官らしき兵士に指示している。


 俺の近くにはロイター子爵の護衛だろうか? ガタイのいい兵士が待機しているので声を掛ける。


「あの~すいません、俺をおぶってもらえませんか?」


「構わないが……」


 護衛の兵士さんに支えてもらって立ち上がり、自分に浄化魔法を掛けて血でぐっちょりだった服を綺麗にしてからおぶさる。


「地面から槍が出てるとこに行ってください。直したいので」


「わかった」


 突き出た槍をある程度まで引っ込め魔物を収納してから完全に元通りにして浄化魔法を掛ける。

 この作業を何度も繰り返した。


「すいません。お手数お掛けしてしまって」


「構わんよ。君は軽いし大した手間でもない」


「ありがとうございます。終わりましたのでロイター様のとこへ」


「うむ」


 ロイター子爵の指示出しも終わってるみたいだ。


「ツトム君、道路直してくれて助かったよ」


「自分の魔法の後始末をしただけですのでお気になさらずに」


「そうか。城から帝国と第2、両騎士団も繰り出しているからもうすぐ沈静化できそうだ」


 地図(強化型)を見ると魔物の数がかなり減ってる。掃討作戦は順調のようだ。


「さて、君に事情を聴きたいのだけど」


「事情と言われましてもいきなり自分の体を矢が貫いたので……」


「さっきツトム君が収容した弓のオークがどこから来たかわかるかい?」


「それが全くもって見当つきません。オークを認識したのも矢が刺さった後のことです」


「う~ん。東門を突破してきたということは?」


「それはあり得ません。東門が突破されたのはここでオークが暴れてしばらく後のことです」


「確認するけど、矢を受ける直前に悲鳴や騒ぎといった魔物の存在を匂わす事象は?」


「全く何もありませんでした。いきなり現れた……としか言いようがありません」


「なんとも困った事態になったねぇ」


「地下から侵入したのでは?」


 俺をおんぶしたままの護衛さんの見解だが……

 地下からでも敵感知に引っ掛かるはずなんだけどな。


「ゴブリンならともかくオークだと下水道すら入れる大きさではないよ」


「転移魔法ということは考えられませんか?」


 瞬間移動ぐらいしか敵感知スキルをすり抜けられないだろう。


「そんな伝承クラスの魔法を良く知っているね。

 でもこれは自分だけを転移させるのではなくオーク達と一緒の集団転移ということになる。転移魔法でさえ存在してるかどうかもわからないのにその上位魔法ともなると……」


「では魔道具か特殊な魔法陣とかによる転送現象はどうでしょう?」


「集団転移よりかは現実味があるけど」


 他に何かあるか?


「逆にここから召喚したとか?」


 だとしても召喚した奴が敵感知に引っ掛かるはずなんだがな。

 人間が召喚した?

 人族側の裏切り者、あるいは金で雇ったか。


「まぁもう少し情報収集して検討してみるよ。ツトム君これからどうする? 城で休むかい?」


「できましたら家に帰りたいのですが……」


「わかった。このまま家に運んであげて」


「了解しました」


「すいません。ご迷惑お掛けしちゃって」


「今回の事件では君の働きも大きいのだから遠慮することないよ。家でゆっくり療養しなさい」


「ありがとうございます」

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