第23話

 ここ数ヶ月でゴブリンの目撃情報が増えていき、自らのとこに報告されたモノは握り潰していたがドルテス(北の街)やメルク(東の街)から王都の商業ギルド本部に報告が行き、街道の安全を確実に確保するよう2度に渡る本部からの勧告を受け再び冒険者ギルドに街道の見回りを依頼しようとしていた矢先の出来事だった。


「乗合馬車が襲われたなんて犠牲者が出てなくても商業ギルドにとっては大事件だからね。是が非でも揉み消したかったのだろうけど、彼は3年もこの街に居て南部領における冒険者の重要性を理解できてなかったのだね」


「ゴトスは如何なりましょうか?」


「王都で裁判にかけられることになるかな。王国としてもこの機会に商人達に睨みを効かせたいだろうし。

 罪状は横領罪になるよ。揉み消しそのものは南部防衛に影響大だとしても法的には正式な護衛依頼でもなく怪我人すら出ていないでは罪に問えないからね」


「ゴブリンを放置し馬車が襲われた原因を作った責任があるのでは?」


「そこは微妙なんだよね。結果的には君の言う通りなんだけど、元々商業ギルドにゴブリンの討伐や街道の安全を確保する義務なんてないからね。あくまで商売を行う上で必要だったから予算組んで冒険者ギルドに依頼してた訳で。

 横領は別にして、ゴトスの判断が間違っていたとは言えないのだよ。

 どこに居たのかわからないゴブリンに対して討伐報酬を払い続けることへの根強い反対意見が商業ギルド内にあったのは事実のようだ。見回りについても冒険者の裁量如何によるから以前より効果が疑問視されていたし」


「軍隊で討伐するという訳にはいかないのでしょうか?」


 確か5日前にも西の森の魔物を殲滅したらしいし。


「さすがにゴブリン相手に軍は動かせないかな。1体につき冒険者に依頼する数十倍の費用が掛かると思ってくれていい。それに防衛任務を疎かにすることはできない。

 もっとも実戦演習も兼ねて定期的に西の森の掃討は行ってはいるけどね。


 ちょっと話はズレたけど、君にはお詫びの意味も含めて商業ギルドから馬車を救った感謝料として20万ルク。揉み消そうとしたことへの謝罪料として50万ルク引っ張ってきた。はいどうぞ」


 大金貨7枚渡される。


「過分な御配慮に深く感謝致します」


「私が出した訳ではないから気にしないでいいよ。商業ギルドの一件は以上かな」


「では次は私から」


 金髪ねーちゃんは何の用なんだ? 初対面のはずだが……

 普通から微の間ぐらいか? どこのこととは言わないが。


「私は帝国から派遣されてる白鳳騎士団長エルカリーゼ・フォン・ビグラムです」


「初めまして。ツトムと申します」


 帝国って確か王国の北にある強大な軍事国家だったな。

 グラバラス帝国だったか。


「本日この場に同席しましたのは貴方に聞きたいことがあったからです」


「なんでしょうか?」


「なぜ商業ギルド長の首を要求したのですか?

 戦いをなかったことにされた。報酬を貰えなかった。貴方が受けた仕打ちに比して要求が過大あるいは大仰過ぎると思うのですがいかがですか?」


 もう済んだことを蒸し返しやがって。

 物理首とは思わなかったなんて今更言える雰囲気ではないし……


 待て。首が勘違いだとしても、元々城側と戦闘に発展する想定はしていたんだ。

 そのことについて言えばいい。


「失礼ながら。大仰過ぎるという感じ方は城内の様子を良くご存知の方の見方でございます」


「貴方は違うと?」


「はい。商業ギルド長があのような無法を行うのは統治されてる方々の後ろ盾があるからだと考えました」


「となると私も容疑者になってしまうね」


「ただの想像でしかありませんでしたが、その直後に冒険者ギルドで城からの出頭命令を受けてしまいます。

 当然私としては2つを関連付けて捉える他なく、私を害するか捕える目的での出頭命令と考えます」


「なので連れに城のほうで騒ぎや爆発音がしたら街を出るように言って後事を託し登城致した次第であります」


「なるほど。納得しました。ロイター子爵」


「なんでしょう?」


「一昨日伯爵が誠意を持って迅速に対応なさらなければ無益な戦闘が行われ多くの犠牲者が出る事態になっていたかもしれません。改めて伯爵の対応に感謝申し上げると共に貴国の先人からの教えを胸に刻みたいと思います」


「伯爵にお伝えしましょう」


「ところでツトムとやら。貴方貴族に興味ありませんか?」


「お貴族様にですか?」


 何だ?


「帝国では子爵の推挙があれば簡単に騎士爵や準男爵ぐらいにならなれますよ」


「困りますなビグラム子爵。我が国の有望な若者を引き抜こうとされては」


「ふふふ。最後までお聞きください。

 ツトムとやら。叙爵後に私と結婚なさい」


「なっ!?」


 なぜにそうなる??


「子爵家は私が継いでるから当主は無理だけどビグラム子爵家のナンバー2になれるわよ?」


 や、やばいやばい。

 貴族なんて謀殺暗殺毒殺なんでもござれの超危険地帯じゃないか。

 しかも正室と側室がはっきり分かれててギスギスしてる感じの嫌なハーレムだろ?

 俺が望むのはイチャイチャハーレムであって方向性がまるで違う!

 お、落ち着け。

 ここの断り方は慎重に。

 この手の金髪貴族はプライドを刺激するに限る(もちろん二次元知識)


「恐れながら。ビグラム様は自身が与えた地位や立場を有り難がりそれに執着するような男性に興味を持たれるのでしょうか?」


「!!!!」


「小人の妄言と言われようが、自身の力で掴み取り築き上げた事にこそ価値を見出しとうございます」


「ふふふ。あはははははははははは!!」


「ビグラム子爵?」


「ベルガーナ王国侮り難し! 一介の冒険者ですら尚武の気質を持つ手強き国なり!!

 本国に送る報告書にこう記させて頂きます。失礼」


 金髪ねーちゃんは颯爽と部屋を出ていった。

 残されたのは俺とロイター子爵である。


「何とも君は大胆不敵だねぇ」


「いえ」


「どうだい? ウチに仕える気はないかい?」


 こっちもかよ!


「ビグラム様からのお誘いをお断りしたからには……」


「せめて同等以上の条件でないと帝国に対して角が立つか……上手い断り方をしてくるものだ」


「過大評価にございます」


「まぁいいさ。本題である訓練場に行こうか」


 所持金127万4,720ルク→197万4,720ルク

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