第2戦記 神化の胚芽

 南極の上空に突如現れた時空の穴。その穴は赤黒い不気味な渦を巻いていており、穴の中からは地獄の罪人たちの呻き声とも天使たちの美しい聖歌ともとれぬこの世のものとは思えぬ声が響き渡っていた。


 中からは、赤い目と鋭い牙と爪を持った怪獣が現れた。




【南極】


H・R隊員A「あの巨大な時空の裂け目は「EDEN'S GATE《エデンズゲート》」‼︎ それにあの怪物は「魔光牙まこうが」‼︎ もう地球にまで襲来するようになったというのか⁉︎」


 魔光牙の大きさは100mほどあった。


 魔光牙は赤い目を不気味に光らせると、ハーケンローゼスの隊員たちのパンツァーカイルを目がけて赤い光線を目から放った。


魔光牙「グァァァ…‼︎」


H・R隊員たち「うわぁぁぁぁぁ‼︎」


 ハーケンローゼスの隊員たちは光線を避けようと一斉に散開した。だがその内の一機だけはコクピットに光線が直撃し、ハーケンローゼスの隊員が一人死亡した。


科学者「何という恐ろしい怪物だ…。だが、逃げるなら今の内だ…」


 はもう一度、メインブースターに点火しその場を離れた。先程受けた損傷により、上手く高度を維持できなかったが何とかギリギリ日本まではたどり着けそうであった。


科学者「頼む…、持ちこたえてくれ…」


 はそのまま日本へと向かった。



 ハーケンローゼスの隊員たちはパンツァーカイルで魔光牙と応戦している。プラズマライフルやミサイルランチャーを乱射したり、プラズマサーベルで斬りつけているが魔光牙には歯が立たない。


H・R隊員A「くそっ‼︎ この化け物めっ‼︎」


魔光牙「グァァァ…‼︎」


 魔光牙が鋭い爪をハーケンローゼスの隊員たちのパンツァーカイルに向けて振り下ろした瞬間、遠方からプラズマスナイパーライフルが放たれ魔光牙の片目を撃き、魔光牙は氷面に倒れた。


魔光牙「グァァァ…、アァ………」


H・R隊員B「おおっ‼︎ あれは…⁉︎」


H・R隊員C「機甲総司令ゲネラルコマンダント総司令コマンダントか‼︎」


 ハーケンローゼスの隊員たちの背後にある氷山から現れた一体の機影が現れた。


 それは機甲十字軍の量産機「マウザーM2088」を自分専用のアーマード・ギアとして独自にカスタムした「マウザーM2088・ファウスト」で、機甲十字軍の機甲総司令ゲネラルコマンダントにしてハーケンローゼスの長官を務める「ハインリッヒ・フォン・ゼッペラー」が搭乗していた。


 オールバックの銀髪でサングラスをかけた、長身痩躯のダンディーな風貌の「フェニックス星人せいじん」の彼は、歴戦の猛者として機甲十字軍の兵士たちやハーケンローゼスの隊員たちから総司令コマンダントと呼ばれ慕われている。


H・R隊員A「助かったぜ‼︎ 総司令コマンダント‼︎」


※ハインリッヒ・フォン・ゼッペラー=以下、ゼッペラーと略。


ゼッペラー「いや…、まだ安心するのは早い…」


H・R隊員B「ん………、あ、あぁ…‼︎」


 次の瞬間、魔光牙が起き上がった。そして、マウザーM2088・ファウストに向かって襲いかかった。


魔光牙「グガアァァァァァ‼︎」


ゼッペラー「フン………」


 ゼッペラーは、マウザーM2088・ファウストのプラズマバスターライフルを至近距離から素早く魔光牙の喉元に向けて撃ち込んだ。


魔光牙「グァァァ……………」


 魔光牙は再び倒れ、消滅してゆく。


ゼッペラー「おい、消滅し切らない内にサンプルを回収しておけ…」


十字軍兵「はっ‼︎」


 ゼッペラーの後ろから十字軍兵のパンツァーカイルが現れ、魔光牙の細胞のサンプルを採取する作業に取りかかった。ハーケンローゼスの隊員が申し訳なさそうに口を切り出した。


H・R隊員A「総司令コマンダント…、に一機撃墜されて逃げられちまった…。それから隊員が一人魔光牙に殺された…」


ゼッペラー「そうか…、俺がもう少し早く到着していればな…」


 ゼッペラーは少し息を飲んだ後、こう言った。


ゼッペラー「だが、の方なら大丈夫だ。あの機体には発信機を取り付けてある。

 念のためにも、超小型の監視映像発信機を取り付けておいた。どこにいてもすぐに見つかるさ…」


十字軍兵「総司令コマンダント、サンプルの回収作業が終了しました‼︎」


ゼッペラー「よし、全機ターミナル・コアへ帰還するぞ‼︎」


十字軍兵たち&H・R隊員たち「了解フェアアインシュタンデン‼︎」


 十字軍兵たちがサンプル回収作業を終えると、ゼッペラーとハーケンローゼスの隊員たちは、ターミナル・コアへ帰還していった。




【新東京湾 上空】



 窮地を脱してから数時間後、のパンツァーカイルは「新東京都しんとうきょうと」の新東京湾の上空を飛行していた。


 数時間前の戦闘による損傷でエネルギーが漏れ、今にも墜落しそうな状態であった。


科学者「頼む‼︎ あともう少しだけでいい‼︎ 何とか持ちこたえてくれ‼︎」


 はパンツァーカイルの出力を上げた。だが、のパンツァーカイルはゆっくりと下降していった。


 そして、そのまま新東京都の新江東区へたどり着いた。


科学者「ようやく日本にたどり着いたか…、だがこのままでは…、うわぁぁぁ‼︎」


 は飛行速度を落とそうとしたがブレーキが壊れてしまい速度が下がらず、のパンツァーカイルはそのまま墜落してアスファルトを削りながら高層ビルに衝突した。


 は頭から血を流した。だが、辛うじて一命を取り留め、機甲十字軍から持ち逃げたも無事に守り抜いた。


科学者「つっ…、急がなくては…、奴らの追手が来る前に…」


 はパンツァーカイルのコクピットから降りた。


 辺りでは街の住民たちが騒ぎ、騒ぎを聞きつけた「機甲警察きこうけいさつ」のパトカーや消防車、救命隊員が集まっている。



女性住民「きゃあぁぁぁ‼︎ ロボットがいきなり墜落してきたぁっ‼︎」


男性住民「何なんだ⁉︎ あのロボットは…⁉︎」


 住民たちが、パンツァーカイルに寄ってたかって騒いでいる。この衝突により、負傷した住民もいるようだ。


機甲警察A「ほら、危ないから下がれ下がれ‼︎」


 機甲警察の指示に従い、パンツァーカイルの周囲に集まり騒いでいた住民たちはすぐに黄色い線の外へ下がった。


 何人かの機甲警察と救命隊員たちは他にケガ人がいないかどうかを事故現場へ確認に向かった。


 残った5、6人の機甲警察たちは、パンツァーカイルの調査と分析を始めた。


機甲警察B「それにしても何だ⁉︎ このロボットは…⁉︎」


機甲警察C「「宇宙連邦政府軍うちゅうれんぽうせいふぐん」の新型アーマード・ギアか…⁉︎」


機甲警察D「いや、こんなタイプのものはデータになかったぞ」


機甲警察E「それに宇宙連邦政府軍から「新日本政府しんにほんせいふ」へ支給された、最新鋭のレーダーにも引っかからなかった」


機甲警察A「それにしても、かなり高度な技術で設計・組立されているようだ。

 レーダーに映らない、最新鋭のステルス型所属不明機か…」


 機甲警察たちが立ち上がった。


機甲警察A「今すぐ宇宙連邦政府軍に連絡だ‼︎ それから、パイロットの確認を急ぐぞ‼︎」


機甲警察たち「了解‼︎」


 パンツァーカイルの周辺で住民たちが物珍しそうに騒ぎ立て続けているのを横目で見ながら科学者は負傷した体を引きずり、ゆっくりとその場を去った。



 この事故はのちに「地球ちきゅうエリア 日本国にほんこく 新東京都新江東区新しんとうきょうとしんこうとうくしん台場地区だいばちく ステルス型所属不明機墜落事故がたしょぞくふめいきついらくじこ」として世間では知られた。



、早くこっちへ‼︎」



 建物の影から一人の男が現れた。この男は、が機甲十字軍にいた時から密かに連絡を取り合い、日本への亡命の手助けをしただ。


 は、新東京テレポート駅の構内から地下通路へ向かった。駅の構内ではニュースが流れている。



女性アナウンサー「こんにちは、「宇宙公共放送局うちゅうこうきょうほうそうきょく」、SBS地球サテライト緊急ニュースです。


 たった今入りましたニュースによりますと、本日未明、地球エリアの日本国、新東京都新江東区のお台場地区にて、所属不明の謎のアーマード・ギアが墜落する事故が発生しました。


 機甲警察と宇宙連邦政府軍の調べによりますと、パイロットの姿は確認できず、パイロットがいたのかも不明、防空レーダーに反応しないステルスタイプで、機体には十字架をかたどったエンブレムが施されていました。


 また、今まで宇宙連邦政府軍が開発したどのアーマード・ギアともタイプは一致せず、ラニアケア超銀河団内の地球外惑星のアーマード・ギアや、「第二次宇宙大戦中だいにじうちゅうたいせん」時に交戦した、「超銀河団連合国家ちょうぎんがだんれんごうこっかギャラクシア・ヴァース帝国ていこく ラニアケア超銀河団方面偵察艦隊ちょうぎんがだんほうめんていさつかんたい」のアーマード・ギアと比較しても全く別系統の技術で建造されていることが判明いたしました。


 政府や軍の見解では、ギャラクシア・ヴァース帝国本国の新型アーマード・ギア、またはラニアケア超銀河団外の異星人のテクノロジーで建造されたアーマード・ギア、あるいは事故の数時間前に南極上空にて、EDEN'S GATEの出現が確認されたことから、異次元からの来訪者のものではないかと推測しています。


 政府軍は直ちに機体を解析へと回し、分析と解明をした上で未知の勢力の出現と侵略も検討し、今後はより一層警備を強化し防衛対策を急ぐ方針です。


 尚、この事故による重軽傷含めた負傷者は20名ほどで、救急で病院へと搬送されましたが、全員に命に別状はないとのことです。


 以上、ニュースでした」



 は少し申し訳なさそうな表情をしながら駅の構内を抜け、駅の地下にある扉を開けた。

 扉は少し古びた感じで所々錆び付いており、「STUFF ONLY」というステッカーが貼られていた。


 人目につかないように辺りを見渡しながら中へ入ると、は薄暗い地下通路を通り、エレベーターを使って極秘裏に建造された地下のラボへと向かった。


研究員「、頭を少し下げて下さい」


 の頭のケガを手当てした。



 しばらくして、エレベーターがラボにたどり着いた。ラボの中には赤や青、水色や緑の液体で満たされた培養槽がたくさんある。


 がラボの奥にある厳重にロックされた鉄の扉の前でパスコードを入力しロックを解除すると、そこには青黒い液体で満たされた巨大な培養槽があった。


研究員「こちらです」


 が培養槽の前の装置でパスワードを入力すると、装置からをセットする容器が現れた。


科学者「よし、の蘇生を始めるぞ…」


 をセットすると、赤い大きなボタンを押した。するとは装置の中に入り込み、培養槽の液体は青黒い色から光輝く緑色へ色を変化させ、部屋中を明るく照らした。


 培養槽の上部のチューブからは、アメーバのような細胞が発生し始めた。


研究員「おおっ‼︎」


科学者「成功したか…‼︎」


 は歓喜の笑みを浮かべ、それに見とれていた。


科学者「、いやだけがだ…」


 培養槽の液体がゴポゴポと激しく音を立てている。



 このの正体、培養槽の中のは一体何なのか?


 の言うとは?




【次回予告】


ナレーション:大和悠理やまとゆうり


 やあ、はじめまして。僕は大和悠理。


 所属不明機墜落事故から1年後、ついに強大な宇宙の大帝国、ギャラクシア・ヴァース帝国がラニアケア超銀河団に向けて宣戦を布告‼︎


 第三次宇宙大戦が勃発して、宇宙連邦政府の人たちが大慌て‼︎


 これから人類や地球、宇宙はどうなるのかな…?


 次回、宇宙創戦記XTENTION‼︎


 【第2戦記 勃発】


 って、お話らしいよ。お楽しみに。

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