あかりもちのアンドロイド

4

#1

夜空は濃紺のびろうどに、銀色のビーズやらスパンコールを縫い付けた上等なドレスのよう。

 さながら満月は胸元に止められたりっぱなブローチに見えるほど、目にもまぶしく輝いていた。


 シェードは短い草に隠れかけた古いわだちが刻まれた道をそんな夜の日に歩いていた。手には液体で満たされてほの青く光る年代物のカンテラじみた硝子瓶。歩くのに合わせてゆらゆら揺れる液体の中で、五角形だか六角形だかに結晶した鉱石が揺蕩っている。

 ────灯石。

 かつて、このまちの一大産業だった灯石の採掘。今ではもう、鉱毒なんかする石よりもずっといい電気が引かれていて、灯石を必要とする家なんてこのまち以外にはないのだろう。

 しいていうなら、地質学者の先生の家くらいなものだ。


 シェードはわだちに沿って歩いていく。

 慣れた足取りで、誰かがいるように後ろを気にしながら、背中に秋の虫の声をうけて、誰もが記憶の向こうへ追いやりかけている山の方へ。


 シェードは灯をもって歩いていく。


 中毒してもおかしくない石のカンテラから人を守るように、夜の暗さで働き疲れた人たちが困らないように、その歴史がなかったことにならないように。

 誰もがみんな、すぐに思い出せるように、変わらない笑顔を楽しげに浮かべて歩いていく。



 短い草が風に揺れる。

 吹いた風は薄荷水のかおりで、シェードを満たしていくのでした。

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