宇宙はロボ娘と旅をする

@KBT3104

第1話

 VR MMO《GALAXY EXPLORER》は宇宙をテーマにしたゲームだ。

 広大な宇宙マップと自由度の高さで絶大な人気を誇り、冒険者や商人など多種多様なプレイスタイルが出来るとあって一時は社会現象にまでなった。

 しかし、すでに発売から10年。

 群雄割拠のゲーム業界で新しいゲームが次々と発売されていき、その度にプレイヤーも徐々に減って今では過疎サーバーだらけとなっている。

 本当に時の流れってのは残酷だ。

 だが、俺はこのゲームをやり続ける。

 いや、辞めるわけにはいかないんだ!

 だってこのゲームには俺が愛してやまない人……じゃなくてロボットがいるからだ!

 俺は昔から人間の女の子に興味が持てなくて、初恋だってアニメの女性ロボットだった。

 そんな俺の恋愛観を満たすのは現実世界では到底無理だ。

 いくら俺でも掃除ロボットに恋する事はない……フォルムは嫌いじゃないけどね。

 俺は恋がしたいんだ!

 ロボ娘と恋がしたいんだ!

 結婚したいんだ!

 出来ればハーレム生活がいいんだ!

 そんな俺の欲望を全て解決してくれるのはこの《GALAXY EXPLORER》しかない。

 このゲームには様々な種族が登場しているんだけど、その中になんとロボ娘がいるのだ!

 正確には《アーマロイド》なんだけど、俺はロボ娘と呼んでいる。

 他にも獣人の《アニマロイド》やエルフやドワーフの《デミューマン》って色々な種族があるけど、そんなのは眼中に無い。

 とにかく俺はゲーム内とはいえアーマロイドと一緒に生活するためにこのゲームをやり続けているのだ!

 ロボ娘のためにボーナスを全部課金した事もあるし、超難易度クエストのために有給をとった事もある。

 それだけ俺のロボ娘への愛は深いのだ!

 

「おっと、もうこんな時間か」


 チラッと目に入った時計の数字が俺の夢の時間に終わりを告げた。

 やれやれ、明日も仕事あるし今日は終わりにしないとなぁ。

 

「うーん、このままログアウトするのも名残惜しいし、家にいるロボ娘達に会ってからログアウトするか……って、あれ?」


 ログアウトのために開いたメニュー画面がいつもと変わっていた。

 セーブやログアウトをするためのオプション設定の項目が無くなっているのだ。

 おかしいなぁ、ログインした時には会ったんだけどどうなってるんだ?


「アイテムとパラメーター、マップの項目はあるなぁ。アップデートのバグか? いや、ここ数年はメンテナンスはあってもアップデートなんかなかったし……困ったなぁ。運営への問い合わせもヘルプもオプション項目からだったから何も出来ないぞ。やばいなぁ、強制ログアウトなんかしたらデータ破損もあり得るし、どうしよう……」


「何か困ってるのか?」


 解決策を見出せないまま狼狽えていると、背後から声をかけられた。

 ログインした時には気がつかなかったけど、他のプレイヤーもいたのか?

 

「ああ、困ってるんだよ。実はメニュー画面が……なっ!?」

 

 振り返った俺は声の主の顔を見て固まってしまった。


「どうした? 顔色が悪いぞ?」


「えっ!? あっ、いや……」


 男は心配そうに俺を見ている。

 いや、男と言っていいのだろうか?

 見ていると言っていいのだろうか?

 声色は確かに男性のそれだし、覗き込むのうな姿勢もしている。

 だが、その姿はドロっとした液体で覆われていて不定形な物体がウネウネと動きながら瞳のない凹みだけの眼でこちらを見つめているのだ。

 こいつは……ス、スライムだっ!

 

「なぁ、大丈夫か? この星にはヒューマン専門病院はないけど、全種族対応の病院はあるから送ってやろうか?」


 ドロっとしたスッと手が差し出された。

 俺はその手を払いのけようとするのを必死に耐えた。

 一応、心配してくれてるんだから。


「い、いや……だ、大丈夫だよ。ありがとう。ちょっと、考え事をしていてね。心配かけてすまない」


「そうか? なら、いいんだけど……この辺りにはヒューマンには良い感情持ってない奴らがいるから気をつけろよ」


 スライムはそのウネウネした身体の一部を伸ばして俺に耳打ちするように小声でそう言うと、別の一部を振りながら去っていった。

 あれが口だったのか手だったのかは俺にはわからないが、わかった事が一つだけある。


「俺は《GALAXY EXPLORER》の世界にいるんだ。ゲームじゃない現実の《GALAXY EXPLORER》の世界に」

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