黒ヤギさんと白ヤギさん

@uisan4869

第1話

この話はとある高校に通う男女二人の不器用な日常を描いたお話です。


4月。とある高校の通学路は桜のアーチを思わせる桜並木が春一番の強風によって綺麗に彩られた桜の木を激しく揺らし風にピンク色の装飾を施して新入生たちを歓迎する。この路を通る新入生たちはこれからの三年間をどのように過ごしたいか理想を夢見て歩いているものが多いだろう。しかしその中に夢見る新入生とは思えないほど暗く不安そうな表情をしたものが二人、高校へ向け鉛のように足取りを必死に動かして歩いていた。

正門の前には入学式の三文字が達筆な文字で書かれた看板と新入生を笑顔で歓迎する先生と生徒会の腕章をはめた在校生が路なりに等間隔に立っていた。皆が意気揚々にその中を通っていく中、その二人は正門の前で立ち止まりそのまま向かうか引き返すかの二択で迷っていた。不安ばかりが募る第一歩目は消して踏み外すわけには行かない。だが踏み外す可能性があるのであればこのまま引き返せば踏み外す心配は愚かバイクのエンジン音のように鳴り止まない心臓の音を抑えることも出来るはずだ。二人の意志は赤の他人のはずが恐ろしいほどにシンクロし、考えも一致していた。通学カバンのリュックの紐を強く握りしめ踵を返し引き返そうとした瞬間、誰かにぶつかった。二人はその場で尻もちをつき同じような反応、同じような立ち上がり方をし自分がぶつかった人物の顔を確認した。もし怖い人物でなければ文句の一つでもいってやろうと思っていたがお互いの目が合うと何も言えなった。ぶつかった衝撃で周囲の人間たちの視線が二人に集まる。そのせいかなるべく人に関わりたくない二人はお互いに「すいません」の一言だけを言い残し仕方なく正門に向かって再び歩き出した。生徒会の在校生が爽やかな笑顔で見送る中を歩き続け新入生が行き交う下駄箱に自分の履いてきた靴を入れ、ひとまず入学前の説明会で事前に渡されていたスリッパに履き替え、これから入学式が行われる体育館に向かった。体育館へ向かうと既にいくつかの友達グループが出来ているものもいれば一人でいるものもいて人の在り方は十人十色。もちろんこの二人も誰かこの場に友達がいるわけもなく指定された席に腰を落ち着かせ、携帯を触りながら入学式が始めるを待つことにした。奇しくも前後の席に座った二人は同じゲームアプリを開き、同じキャラを使っていた。しかしそのことを本人は愚か他の誰も知らない。ただそこにあるのは単なる偶然のでしかない。その偶然が今後二人の間には度々起こり、それが二人を引き寄せる出来事に繋がることを二人はまだ知らない。

二人が自分達でも自負しているほどの引っ込み思案だと言うことを。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る