第16話 ロザンナ嬢を学習する
「今日はどちらへまいりましょうか?」
「どこでもいい。君の好きなところで」
ロザンナ嬢は、要領がいい。別に約束していない日でも、ちゃんとルイスがいる場所を
ルイスは特に何も考えていなかった。
「ルイス様……それでは良くありませんわ」
「どうして?」
ロザンナはツンと
「私の好きにばかりさせていれば喜ぶとお考えですの? 私を喜ばせようとは、お思いになりませんの?」
「だって、どうすれば、女性が喜んでくれるかわからないから」
「ダメですわ。私を驚かせてくださいませ。私が何を見て喜んだか、何をもらって嬉しがったか、お勉強なさってくださいまし」
めんどくさいなと思ったのは、内緒である。
「そうか。ロザンナ嬢。相手をよく見ることが大事なのだな」
「もちろんですわ。愛しい相手なら、その人のことを知りたくなりませんか?ルイス様」
ロザンナは要求が多い。
女性に怒ってはいけないと、四人がかりで叱られたルイスはじっと我慢していた。
だが、勉強にはなった。どうして怒るのか聞くと、ロザンナは懇切丁寧に教えてくれるのである。メリンダは笑っているだけだ。
「今日はこのお店に行きましょう! とってもカワイイのです!」
ルイスは
その店は、最後にメリンダ嬢と話をした店だった。
あの、例の可愛いものだらけの、どこがいいのかポイントがルイスにはわからない店である。
猛烈に居心地が悪い。なんと言うか場違い感が半端ない。
だが、今となっては、女性がこう言うものを好むものだということは多少わかってきた。
それから、女店員の視線の意味も。
ルイスは顔が赤くなるような気がした。
なぜなら、前の時と違い、彼はロザンナ嬢オススメの服を着ている。
どんな服がいいか、今まで考えなたことがなかった。
演舞の際には、見栄えや全体の色調、動きを考えてあれほど冴え渡った勘が、自分が着飾る段になると、さっぱり稼働しない。
だが、以前にここへ来た時、来ていた服と今の服を比べて考えてみた時、ルイスは急に恥ずかしくなった。
彼は今日、割と派手な、縞の入った流行のフロックコートを着ている。
前の時は、確かに適当な黒い服だった。
彼は地味だが、シックなものを好む傾向があった。
自分の考えは全部ダメだと思って、ロザンナのいいなりに服もあつらえてみたのだが、以前の自分を知っている者たちの目に
恥ずかしい。まるで自分がないみたいだ。これではダメだと。
彼は背中を丸めた。
ロザンナが、とうとうとしゃべっている。
彼女の考え、彼女の好み、彼女の世界。
気がついたのだけど、ロザンナはルイスを彼女好みの男に導いている。
それはどういうことなんだろう。
メリンダ好みの男ではなくなってしまう。いや、そもそもメリンダはルイスを好きで居てくれたのだろうか。
子どもの頃、学園に入る前、メリンダとは一緒によく遊んだ。女の子は特別で、なんとなく照れくさかったけど、いつも一緒にいたかった。
何をしたら怒られるか、喜んでもらえるか、よく知っていた。
だから、親衛隊をしても笑って許してくれると思っていた。ルイスはナタリー嬢とモニカ嬢に怒られた時の話を思い起こしていた。王女殿下は、女性だという位置付けだった。そして、ダンスパーティのパートナーは絶対譲ってはいけなかったのだ。何がなんでも、捕まえとかなきゃいけなかったのだ。
今から考えると、大失敗だった。顔に血が上る思いだった。
ロザンナ嬢は、それを見るとちょっと嬉しそうになった。
「私、こういうお店が好きなんですの。探してくださったら、喜んでお供しますわ。私をセンスの良い店に連れて行って、驚かせて喜ばせてくださいな」
「驚かせる? どうやって?」
「まずは、意中の方をよくご覧になって。何を喜んで、何を嫌うか。その方のご希望を見抜いて、喜びそうなポイントを見極めてくださいな。好きな方のことは喜ばせてあげたいとお思いになりませんか?」
ルイスは顔を上げて、ロザンナの顔を見つめた。
急に、メリンダの顔と被った。
もし、彼がメリンダをこの店に連れてきたら、彼女は喜んでくれたのだろうか。
この店に、メリンダと、もう一度来ることがあったら、その時は、きっとメニューは自分で選べるし、メリンダの代わりにメリンダが好きなメニューを選ぶことができるかもしれない。
そしたら、メリンダは喜んでくれるかもしれない。ニコッと笑って。
ルイスは自分で気がつかないうちに、目をキラリとさせて口元を歪めて少しだけ笑った。
「そうだね。ロザンナ嬢」
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