第282話 問題ないんじゃなかろうか
親子連れは三組。いずれも親一人に子一人。母親と一緒なのが二組、父親と一緒なのが一組。
チャチャのドローンで見る限り、まともそうなのは二組。残る一組は……
『相変わらずトロいなお前は! さっさと歩けよ!』
『……』
『ごめんなさいも言えねえのかあ? ああ!?』
『ごめんなさい』
『ちっ!』
ちらっと聞いただけでこれだ。こっちの胸が悪くなりそう。
残りの二組はと言えば。
『大丈夫? もう少しだよ』
『うん!』
『……ごめんね』
『どうしてママ、ごめんね言うの?』
『……今は、わからなくていいよ』
『そうなの?』
母親の方が、大分きてるな、これ。悲壮感がこれでもかと漂っている。
もう一組は……
『パパー、葉っぱに手が届くよー』
『そうかー。でも、お手々がかゆくなるかもしれないから、触っちゃ駄目だよ?』
『はーい』
父親が、子供を背負っている。足場が悪いから、子供の体力考えての事かな。
それにしても、この落差よ。
チャチャから送られたドローンスキルの映像を、音声付きで皆に見てもらう。
「これは……」
「この二組は保護すべきじゃないか?」
エーチさんが言葉をなくし、カナタさんはいつになく焦った様子だ。彼にとって、「子供」というワードはそれだけ重いんだと思う。
「あの、もう一組も、せめて子供だけでも保護出来ないかな?」
「でも、親権者から取り上げるのは……」
「だって! どう見ても虐待されてるよ!」
エリーさんとユーキさんは、残る一組の子供を心配してた。
「とりあえず、危険性はなさそうだから、一度敷地に全員入れちゃえば? 母息子の組み合わせも、何か事情があるかもしれないし」
またしても、イクティがまともな事を。彼の隣でジャンは無言で頷いているし、ケンに至っては話し合いへの参加を放棄している。
とりあえず、敷地の転生組の意向は決まった。後はいつも通りさくっとスキルを剥がして、保護するだけだね。既に保護している連中もいるし。
チャチャのドローンスキルを使って、とっとと意識を刈り取った。その後全員敷地に連れてきて、隔離敷地に入れてからスキルの奪取。
今回、どういう訳か子供の方が危険なスキルを持っていた。「首切り」「吸血」「意識操作」。なかなかヤバそうなスキル名だ。
三人全員って辺り、邪神のいやらしさが滲み出ているきがする。スキルを手に入れるのは、あのガチャガチャだったはずなのに。
もしかして、あのガチャガチャにも、邪神の意思が働いていた?
全員のスキルを奪取し終わった途端、スマホがピロリン。
『何を今更な事を申しておる。あの場には、邪神が関与していたのじゃから当然じゃ』
さいでござますか。じゃあ、あの場で幼女女神と交わした会話も、邪神には筒抜けって事?
『あの時点で、わらわの力は解放されておったからな。あの程度の仮の空間くらい、簡単に掌握出来るというものよ』
その割には、崩壊に巻き込まれそうになってたけれど……
「いで!」
何でここで金だらいだよ!
『神の力を疑うとは何事ぞ! まったく。ともかく、幼子に扱いが面倒なスキルを与えたのは、あやつのやりそうな事よ』
やっぱり、邪神なんてろくでもない存在なんだな。頑張って邪神の力を削ぎたいところだけれど、せっかく貯めた力をろくでもない事に使った神様もいるしなあ。
「いでえ!」
またかよ金だらい!
『神のやる事に文句を言うとは、恐れ知らずよのお』
図星指されたからって、これはないと思う。まあ、この金だらいも形を変えて敷地の役に立ってもらうけれど。
『ほんに、人とは恐ろしい』
いや、恐ろしいのは地獄耳の神様の方だと思うが?
十二人全員を一時保護し、目が覚めるのを待っている。チャチャの使う闇魔法は強力で、どんな相手でも丸三日は眠らせる力があった。
十二人の世話に関しては、うちの子達がローテーションを組んで行ってくれる。並の男性よりも力が強いので、寝ている成人男性を動かす事も一人で難なくこなせるのだ。
そろそろ、最初に連れてきた六人が目を覚ます頃だという。
「私一人だと舐められそうなので、カナタさんとエーチさん、同席してもらえませんか?」
話し合いの場に、見た目子供の女が出て来たら、何事と思うだろう。捕縛した六人のうち、四人はどう見ても成人済みの男性だ。
「わかった。同席しよう」
「相手が男なら、こちらも我々二人がいた方がいいだろうしね」
カナタさんもエーチさんも快く同意してくれた。
まずは、男性四人を入れている建屋に向かう。うちからは、カナタさんとエーチさん以外に、ルチアとセレーナが同席する。
二人は私の護衛代わりだ。彼女達では、スキルを剥ぎ取った転生組は敵にもならない。
男性四人の襲撃者は、ようやくお目覚めらしい。
「ここは……」
「あなた達が襲おうとした敷地ですよ」
「何?」
四人のうち、一人は起き抜けだというのに、臨戦態勢だ。手が脇を探ったから、無意識に武器を探しているのだと思う。
彼等の装備は全て没収済みだ。危ないものを敷地内に引き入れる訳ないだろうに。
いや、冒険者達は武装しているけれど。彼等も、敷地内で暴れた場合は側退場だ。
「おとなしくしていてくれ。こちらは、君らが攻撃を仕掛けてこない限り、何もするつもりはない」
「嘘だ!」
カナタさんの言葉に、臨戦態勢の男性は反論した。
「女神が言っていたんだ! ここにいる連中は、やがて俺達を殺しに来るって! だから、やられる前に殺せと教えられたんだ!」
邪神め。ろくな事を吹き込まないな。
「落ち着いてくれ。俺達は本当に――」
「うるさい! お前らも殺してやる! ……?」
スキルが使えない事に、今頃気付いたか。ちなみに、彼のスキルは「次元斬」。次元の狭間を使って何でも斬ってしまうスキルだ。
その関係か、それとも日本にいる頃から使っていたのか、メインウェポンは剣だったらしい。他にも短剣などを隠し持っていたので、余程刃物の扱いに自信があったようだ。
もちろん、それらも全て没収済みである。
「スキルなら、使えませんよ」
「な、何だと!?」
「あなた達が使っていたスキルは、邪神が作ったものです。それらは、元々の力の持ち主である主神に戻しています」
ちょっと違うけれど、概ね間違っていない。邪神のスキルは一旦幼女女神の元で邪神の力を抜かれ、それが私にインストールされる……らしい。
奪取からインストールまでがほぼ一瞬で終わるので、そんな動きをしているとはまったく気付かないけどな。
スキルが使えない事に愕然とする臨戦態勢の男性とは別に、残りの三人はおずおずと申し出てきた。
「スキルが使えないって、本当なのか?」
「あれがないと、困るんだけど。俺、冒険者くらいしか仕事出来ないし」
「そういえば、もうあの変な声が聞こえなくなってる。じゃあ、あれは本当に邪神だったのか?」
現実が見えてきたな。臨戦態勢の男性は、未だにショックから抜け出せない。
刃物を持たせず、スキルもない状態なら、うちの子達の敵ではないだろう。このまま、落ち着くまで待つのも手だ。
「まだ混乱しているようですから、もう二、三日ここで休んでください。食事は提供しますので、ご安心を」
「あ、ありがとう」
お礼を言えるくらい、精神は安定している人もいる。でも、残りはまだまだだな。
その後、女性二人のところへ行ったら、こちらは楽だった。
「あの変な声が聞こえなくなったんだけど、理由、わかりますか?」
「あなた達から、邪神に繋がるスキルを抜き取ったからですよ」
「本当ですか!? よかったあああああ」
「あの変な声、もう本当に鬱陶しくて。本当にありがとう」
感謝されるとは。
ともかく、彼女達もしばらく休んでもらい、それから今後の事を話し合う事になっている。
彼女達なら、敷地に残ってもらっても問題ないんじゃなかろうか。
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