ブルームーン散歩
葵ゆり
ブルームーン散歩
「マタニティブルー」に違いない。
普段ならネガティブな考えも、上手いことポジティブに変換できるのに、今日はめっきりダメだった。
もう日も沈んで暗くなったが、気分転換に少し外を歩こうと思い、寝巻きからワンピースに着替える。
ちょうど旦那の仕事が終わる時間だ。
遠回りして駅に向かえば、迎えに来たということにして一緒に帰れる。
外は雪が降りそうなほど寒かった。でも今の私には、ネガティブで濁った頭がすっきりして心地よかった。
部屋にいては気づかなかったけど、今日は月が綺麗だった。
あまりにも明るくて、満月ではないがほどよく丸くて、月うさぎとはまた違うなにかの模様がはっきり見えた。
お腹の我が子に、「綺麗だよ」と教えてみる。腹帯を巻いてくるのを忘れたのに気づいた。
駅に向かうには、月を背にして歩くのが正しい道だが、少しくらい多めに遠回りしてもいいと思い、吸い込まれるように月に向かって歩いた。
家のすぐ近くだけど何を作ってるのか分からない工場の煙と、それを照らす月の光。
このまま月に吸い込まれたい。
どこまでなら、月に向かって歩いていいんだろう。
私は月を横目にして、川沿いを歩くことにした。これなら駅の方向とあながち合っていた。
川のせせらぎに光る月影と、頭上のオリオンに気を取られていると、皮を横切る線路が見えた。
これ以上、月を追っていたら、帰れなくなる。
そう思って私は月に背を向けた。追うものを、帰宅ラッシュを詰め込んだ電車と、寂しいくらいガランとしている星空に変更して、駅へ向かった。
あまりにも静かな川沿いを通ってきたせいか、電車の音は騒々しく、癒えかけていたネガティブな頭痛を少し引き戻した。
駅が近付くにつれて、オリオンも姿を消し、腹帯を忘れたせいかお腹の重みも強く感じた。
私は駅を通り過ぎると、渡るつもりのなかった踏切を渡り、線路の反対側から、改めて月へと向きを変えた。
いつの間にか月は薄くかかった雲でぼやけていた。私が少し背を向けたからっていじけちゃって。なんて思えるくらいには、心の調子は回復していた。
旦那から駅に着いたと連絡があった時には、私はまだ駅を通り過ぎて徘徊しているところで、迎えに行ったつもりが、結局旦那が私を迎えに来てくれるような形になった。
ぼんやりとした月の下、妊娠してさらに歩くのが遅くなった私に合わせて歩いてくれる旦那と家へ帰る。
「夜ご飯、準備してるよ。」
ただいま、おかえり。
ブルームーン散歩 葵ゆり @navyuriaoao
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ブルームーン散歩の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
烏有文集(うゆうぶんしゅう)2024年版最新/そうげん
★8 エッセイ・ノンフィクション 連載中 329話
MY LIFE/船里葵
★3 エッセイ・ノンフィクション 連載中 6話
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます