クロロ一行のダンジョン攻略 ①


〜ローランと別れた翌日〜



―――「最果てダンジョン」 5階層



「《煉獄連弾(パーガトリー・ラッシュ)》!!」



 クロロは8つの特殊な火玉を創造し、逃げようとする蝙蝠子鬼(バットゴブリン)『B』を駆逐する。


「流石だぜ! クロロ!!」

「やっぱり、クロロは最強ね!」


 ゴーンとメリダはクロロが魔物の蹂躙した事に感嘆の声を上げるが、ローランの荷物を背負っているミザリーの表情は暗い物だった。


 クロロは次から次へと湧き上がる憎悪を少しでも晴らすためにダンジョンに入ったが、いくら魔物を屠ったところでローランの去り際の清々しい表情が浮かんでは憎悪を深めた。


(クソッ、クソッ! クソッ!!)


 許すことは出来ない。

 『虫ケラ』が自分を笑った事が、我慢ならない。


 全てが煩わしい、全てが憎たらしい、全てが自分を苛立たせる。


(……このままじゃダメだ……。アイツを、アイツを這いつくばらせないと……)


 クロロは頭が割れるような頭痛に耐えられず頭を抱える。


――クロロは本当にすごいヤツだ。


(うるさい……)


――きっとクロロならいい領主になるな!


(うるさい……!)


――クロロと友達で俺は幸せ者だよ。ありがとうな。


(うるさい……!!)


 クロロの頭にはローランからの言葉が鳴り響き続けている。


 自分は上手くやっていたはずだった。


 ローランからの賞賛を受けるたびに『絶望』する顔が楽しみで、楽しみで堪らなかった。


 ローランに魔力はない。

 『アレ』は魔法ではない。


 ローランにはスキルも使えない。

 『アレ』は恩恵(スキル)ではない。


 クロロの頭には自分の【煉獄焔】を斬り裂いたローランの鋭い紺碧の瞳が焼き付いて離れない。


 『ローランには何もないのに……』


 その固定概念がクロロの頭を混乱させる。


(ずっと、ずっと『力』を隠してやがったのか……? 心の中では俺をずっと嘲笑っていたんじゃ? 俺は『上手く』行ってるなんて、ただ煽てられ、『虫ケラ』に操られてたんじゃないか?)


 急変したローランの自信満々の表情がチラつく。


(俺がアイツの手のひらの上で踊っていたのではないか? 手のひらの上で操った気になって笑っていた俺を、アイツは笑っていたのではないか?)



 クロロはそれ以外考えられなかった。

 その度に憤怒に身を焼き、憎悪を溜め込んだ。



「絶対に……、絶対に……」


 クロロはうわ言のように呟き、


(殺してやる……!!)


 心の中で固く決意した。


 もう『本物の英雄』なんてどうでもよかった。『秘薬』を手にし、世界の救世主として、『神』と崇められなくてもよかった。


 ただただローランを殺せればよかった。

 もうローランを絶望させられれば何だってよかった。


「俺はこんなとこで何をしてるんだ……?」


 ダンジョンに潜る必要なんてない。

 ローランを苦しめられれば何だっていいのだから。


(地上に帰って『アイツ』を探すんだ……。こんな事をしている暇なんてない。……シャルロッテだ。アイツは絶対にシャルロッテの場所に帰る!)


 クロロはふぅ〜っと息を吐き出しながら、地上へと一歩を踏み出したが、その足はすぐに止められた。


「クロロ! また強くなったんじゃない?! すごいね! スキルの威力も上がってるみたいだし、今日はまだ剣も抜いてないよね?!」


 メリダはクロロの腕に自分の胸を挟み込み、わざとらしく上目遣いで微笑みかける。


(強くなってる……?)


 クロロはメリダの言葉に沈黙する。


「今回の攻略が終わる頃にはどれだけ強くなってるんだろう!? ウチなんて必要ないくらい強くならないでね? ずっとクロロのそばに居させてよ?」


 メリダは更に胸を押しつけながらクロロに擦り寄る。


「離せ、メリダ……」


「え? あ、うん。ごめんね?」


「いや、別にいい。今回は30階層までだったか?」


「う、うん。そうだよ! あの無能の作戦は初日で4階層までってなってるけど、この調子でいけば、3日もあれば攻略できるんじゃない?」


「ふっ、そうかもな……」


「本当、逃げるなんてクズよね? なにが、『油断は命とりだから気を引き締めて行こう』よ! 何も出来ないくせに! 偉そうでムカついてたから精々したわ!」


「……」


「このペースなら初日で半分はいけるでしょ? 本当に無能なんだから! ウチらの力量をわかってないのよ!」


 クロロはメリダの話を聞き流しながら、ふぅ〜っと息を吐き出す。


(アイツを屈服させ絶望させるためには、もっともっと『力』がいる。真正面から四肢を斬り落として、残った身体をじわじわ焼いてやる……)


 ローランが『隠していた力』には確かに驚いた。ちゃんと戦闘すれば負ける気はないが、クロロが望むのは圧倒的な惨殺。


 どれだけの力を隠していようが関係ない。


(もっと感覚を研ぎ澄ませて、ゆっくり、じっくりと絶望を味合わさせてやる……)


 クロロは下層へと続く道に足を踏み出した。


 クロロは知らない。


 ローランを既に1度、囮として追放し、『絶望』を与えていた事を。


 ローランが100年もの時間を剣に費やしている事や、無限の『時間』を手にしている事を……。


 そんなスキルがこの世に存在している事を……。


 クロロは選ばれた自分こそが至高であり、ローランは所詮『虫ケラ』に過ぎないと軽んじた。クロロは、この選択が更なる悲劇の幕開けになるとは思ってもいない。



ーーーーーーーー


【あとがき】


次話「クロロ一行のダンジョン攻略 ②」です。


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