第26話 ジョーカー・シュタルス
拠点に戻っても、7は帰っていなかった。学校へ行っても、やっぱりいなかった。公園にも、河川敷にも、動物園にも。心当たりには、どこにもいなかった。
「一体……7はどこにいるんだ」
探し始めて数時間。7はどこにも見当たらない。一緒に行った場所を探しても、銀髪の少女はいなかった。丘の上まで行っても、夕暮れ時のそこには、人っ子一人影がなかった。
「……………………」
「随分苦労してるみたいじゃないか、色男よぉ?」
黙って街を眺めていると、背後から聞き覚えのある若い声がした。しかし、今日は声色が少し違った。振り返ると想像通りの赤毛の少年が不敵な笑みを浮かべていた。
「何だよ………今日もノリが悪いなぁ? せっかくオレ様が会いに来てやったってのに」
「俺が………何を苦労してるんだ?」
確かに7を探し回ってはいるけど、言動がおかしい。もしかして、シュタルスは……ずっと俺を見ていた?
「あちゃ~、失言失言」
「答えろ、シュタルス!」
「そこまでだ」
突如、目の前の地面が抉れた。強いて言えば、何かに抉られた。その衝撃で体が宙に浮き、落ちる。
「だから言っただろ? 最初から二人で行けば早い話だと」
シュタルスの隣にはジョーカーが並んで立っている。…………そういえば、ジョーカーは後継者本人と一緒にいたところは見ていない。
「お前が………ジョーカーだったのか………シュタルス」
「せいか~い……で、既に勝っているお前の所に来た理由、分かるか?」
徐々にジョーカーが迫ってくる。対抗する手段は………ない。絶体絶命。
「く……わかるわけねぇだろ!」
咄嗟に、目の前にあった大鎌を手にする。しかし、引っ張ろうにも重すぎて持てない。
「お前じゃ無理だって……おらよ」
大鎌に手をかけたジョーカーは軽々しく大鎌を取り上げた。何て力してるんだ、この男。
「それはな、お前から7を奪い取るためだよ」
シュタルスの応答と共に、隙だらけの俺へジョーカーが大鎌の柄で腹を突いた。局所的な痛みが襲う。
「う、奪う………?」
「お前にはもったいない上玉だ。オレ様が面倒見るんだ。感謝するんだな」
高笑いと共に、シュタルスが二枚のカードを投げつけてきた。スペードの7とジョーカーのカードだった。
「ジョーカーはな、最強の証の代わりにカードを一枚しか持てない。勿論それを決闘でとられたら終わりだ。……でもな、特権としてジョーカーのカード一枚で相手の持つ全てのカードと対等の扱いなんだよ。そのカードは一時的に返してやる。だから、オレ様と戦いな」
痛みが引いて、ようやく言い返せる。
「7は……関係ないだろ」
「どうかな?」
シュタルスは微笑を浮かべながら俺との間合いを詰める。じりじり近寄ってきて、ジョーカーを退かせる。
「確かに○○○と三つの○が書いてあったが……あれは決して三文字じゃない。これが、どういう意味か分かるか?」
「お前が7の相手だっていうのかよ!」
「かもな!」
予備動作もなく、シュタルスは右ストレートを俺の頬に仕掛けた。当然回避することもできずまともに受けてしまう。が、それほど痛くはなかった。
「さぁ、すべてのカードをかけな!」
「上等だ………おらよっ!」
頭に血が上っていたが、関係ない。
勝算など考えていなかった。これは、戦わなければならない。ケースごとシュタルスに投げつけると、難なく受け止められた。……せめて体に当たればよかったのに。
「決闘の条件は成立だ。……勝負は明日……会場はそうだな……聖上教会だ」
「上等だ、受けて立つ………!」
もうその時には、7を探すことなど頭になかった。
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