第20話 決戦前夜
翌日。決戦を明日に控えた土曜日の夜。一通の封筒が拠点に届けられていた。送り主はヒルデガルト=バルツェル。そこには、『缶けり』の主なルールが記載されていた。俺はクレアたちも呼び、内容を確認していた。
決闘内容 缶蹴り
参加者 ヒルデガルト=バルツェル、剣条司、7、クレア=シルベスター、8
時間 午前十時
場所 みどり公園
鬼をヒルデガルト=バルツェル側とし、攻撃側を剣条司を含む四人とする。
決闘の内容として、次の項目を特別規定とする。
1 鬼による妨害行動、攻撃側の鬼への妨害行動を許可する。
2 殺傷武器の使用禁止。
3 致死量の攻撃の禁止。
4 今後の生活に支障を来す程の攻撃(目潰し、金的など)の禁止。
これらを守らない場合は即刻失格処分とし、敗北とする。
「あのさ……特別規定の二項目からほぼ被ってない?」
とりあえず金的は俺以外関係ないな。もしかして、このルールなかったらする気満々だったのかよ………恐ろしい、グリズランド。
「妨害行動の許可、というのが解せませんね」
俺の独り言を無視して、話は進められた。
「えぇ。それに殺傷武器の使用禁止という事、そして死に至る攻撃の禁止という二つがあることは、死なずにこれからの生活に不自由がないくらいのダメージなら与えても構わないという事ですよね?」
またなんともややこしいことを8が説明する。物騒極まりない。ここ、日本だよな? ヤバすぎだろ……
「グリズランドで開発される多くの兵器は、暴動鎮圧用の非殺傷武器です。私や8のように実弾や本物のナイフを使用する者もいますが……今回は弾や武器そのものを替えてしまえば問題ありません。……ただ、相手がどう出るか………」
「ちょ、ちょっと待てよ。最初から相手を傷つける気なのかよ」
戦いはするけど、あくまで缶けりだ。痛めつけることなんて………
「バカね、よく読みなさいケンジョウ」
浴びせかけるようにクレアが俺を罵倒した。
「ここにこれだけの条件を付けて妨害を許可しているのよ? しかも条件を決めたのはあっち。これだけ揃ってあの女王様がただお上品に缶けりすると思う?」
甘かった。もうこの三人は戦うことしか考えていない。大真面目に缶けりするんじゃなくて、遊びが戦いなんだ。真面目に缶蹴りをするんだ。真面目なだけに、それは王族としてのれっきとした真剣勝負なのだ。
「………そうだな、悪かった」
しかし……これで大丈夫なのか? これじゃあ、ただ相手を跪かせるのと何ら変わりない。力による支配でしかない。それじゃあ他の候補者と何も変わらない。
「司、一応あなたも持っておいてください」
7からリボルバーを受け取った。ずっしりとした重量感のある物体だ。
「装填する弾丸はゴム弾で、従来の構造と異なり比較的柔らかい素材でできていますから至近距離で発砲してもまず死亡することはないでしょう。ただし、顔を狙うと目に当たる可能性があるので、できるだけ腹部や手を狙ってください。……後は引き金を引くだけなので」
予備の弾を触ってみるとプニプニした感触で、とても人に撃つものとは思えなかった。
「練習は……しませんよね」
呆れたように7は尋ねた。元から返事は分かっているようだが、念のため聞いてくれたようだ。
「あぁ。やり方さえ教えてくれればいい」
その夜、7に銃の扱い方を一通り教えてもらい四人で陣形を確認して解散となった。
準備はばっちり。抜かりはない……はずだ。
一つだけ、引っかかることがある。本当に……本当にこのままでいいのかってこと。相手を傷つけるだけで、それが本当の勝利なのか、と。
もっと違う方法で、ヒルデガルトに勝てないのか……。答えを求めて自問自答しても、結論は出ない。
そんな悶々とした心のまま、夜は更けていった。
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