第11話 朝食



 クレアと8との戦いから、ちょうど一週間が過ぎた。頭の方もすっかり怪我は治ったが、相変わらず7は心配性で、『しばらく安静!』と学校にも行かせてもらえなかったが、勉強については7が教えてくれて助かった。


『さて、後継者問題が続くグリズランド。日本で開始された選挙戦の一時投票が公表されました』


 朝。トーストをかじりながらぼんやりニュース番組を眺めていると、目に留まる情報が一つ。


「………何だこれ?」

「教えていませんでしたね。投票は何度も行われて、その平均と、手に入れたカードで決まるんです。いくら一回がよくても、常に民衆の関心を得なければ王にはなれませんから」


 ジャムのフタと苦闘中の7が説明してくれる。むきになって力任せに開けようとしていた。


『第一位、………』


 名前だけが表示され、隣には票数が並べられる。それから次から次へと上位後継者候補が読み上げられていく。どいつもこいつも知らない名前だ。


『続いて第十四位、突然の候補者となりながらも果敢に戦い、敵さえ庇う器量っぷり……剣条司』


 俺だけなぜかキャッチコピーみたいなのがあったぞ……。意外にも半分以上にランクインしていた。そして、クレアに落ちてくる照明から守ったシーンが映る。


『あわや脳天直撃なるところだったクレア=シルベスターを身を挺して守ったことが国民の票を集めることとなったようです』


 しかし、どんなに順位を上げたところで俺は関係なかった。目指すべきは日本の警察官であって、グリズランドの国王ではない。クレアを守ったのだって、咄嗟に体が動いたに過ぎない。


「スペードの7としては上々の滑り出しですね…………司?」


 7が協力してくれというから、とりあえずほとぼりが冷めるまでやろうかとは思ったが……期間が長くなればなるほど有力候補に挙がって行ってしまう。喜ぶべきなのに、どうしてもそうはなれない。


「……どうかしましたか…?」


 ようやくフタを開けた7が視線をこちらへ向ける。この一週間のことも重なって、段々7を正視することができなくなってきた。目線だけをずらしてトーストをかじる。


「別に……大丈夫だよ」


 平静を装っても、機嫌がよくないというのは7であればすぐにわかるだろう。俺は顔を隠すようにマグカップのコーヒーを飲む。本心をいつ言おうか、迷いは見せられない。


『さて続いて天気予報です。今週はお出かけ日和となる………』


 お天気キャスターが現れて作った笑顔で原稿を読み上げる。沈黙の空気を打開すべく、俺は仕掛けた。


「なぁ、7。今週の日曜、どっかに行かないか?」


 とにかく、この空間に二人でいるのは辛かった。たまには外の空気を吸ってリフレッシュもしたい。


「そ、そんな悠長な………」


 戸惑いを見せる7に空元気で押す。


「いいじゃないか。俺の怪我だって治ったんだし……どこがいい?」


 そういえば、7とどこにも出かけたことがなかったな。これはこれでいい機会なのかもしれない。

 目を閉じてじっくり思案する7。手を一回叩いた。


「ど……動物園……ですね」


 ぎこちない返答に、意外な回答。たまらずむせた。

 席込んでいると、慌てた7が頬を膨らませる。


「な、何ですか失礼な! いいじゃないですか!」


 顔を赤らめて言われても説得力がないんだよなぁ………ただ照れてるだけにしか見えない。


「ごめんごめん! あんまりカワイイこと言うから驚いたんだよ」


 手を合わせて7に謝る。7はきまりの悪い顔をしてテレビを見つめる。


「別に……無理にとは言いません………ただ……行きたかったんです………動物園…………動物園……」


 単なる提案ではなかったようだ。


「わ、悪かったよ……じゃ、今週の日曜は動物園で決まりだな」



 少し機嫌の直った7が表情を硬くしてサラダにがっつき始めた。……ありゃりゃ、悪いことしたかな?

 時間が気持ちを戻してくれることを祈るしかなかった。

 くぅ~やきもきするぅ!


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