第18話 炎上商法
「いや、これはあくまでも俺の想像だ。神崎まどかに兄がいたとか、お前なら聞いたことあったんじゃないかって思ってな」
たしかに神崎まどかには六つ歳が離れた兄がいるって、付き合っていたときに聞いたことがある。
自分よりも明るい性格で、イケメンで、よく家に女の子を連れて来ていた兄がいるって。
「顔写真はあるか……?」
「神崎修二は顔出し配信者じゃないから顔写真はない。代わりといっちゃあなんだが、俺なりに調べてまとめた資料がある」
黒鉄から受け取った資料。
そこには神崎修二がどんな人物像で、どうして三股をしていることが暴露されたのか、その経緯が記されていた。
神崎修二は、知る人ぞ知るようなマイナーなゲームばかりを好んでプレイし、それをLIVE配信ではなく動画として投稿していた配信者だった。
顔出しはしておらず声のみで、俺でも知っているような有名な配信者だった。
顔出しも、LIVE配信もしていない神崎修二。
どうやっても素性を、ましてや三股がばれることのないような配信者だったが、彼はSNSの取り扱いがかなり残念だったことでも有名だった。
週に何度か上げる写真付きのつぶやき。
その写真には、よく女性の私物が写っていたり、男一人では絶対に行かないようなお店の写真だったりと、交際している女性がいるのではないかと思わせるような匂わせるつぶやきが多かった。
最初は興味本位でこのつぶやきは拡散され、注目を浴びた。
誤って写ってしまったのだろうと誰もが思ったが、それからも度々、こういった匂わせのつぶやきが投稿された。
一度目であれば間違いだったで済むが、何度も匂わせが行われると、多くの人たちが”注目を浴びる目的”で投稿しているのだと感じた。
「んで、こいつには本当に女がいるのか、それとも注目を浴びたいが為に吊りの匂わせをしたのか、この当時は不明だった……が、結果的にこの件で注目を浴びたこいつのチャンネル登録者数も、SNSのフォロワー数も一気に増えたらしい」
「あー、その時のこと、メイも覚えてますよ。あちこちから叩かれてましたから。ただ炎上商法って言葉もありますから、叩かれることはどうでも良かったんでしょうね。メイは叩かれてお金を稼ぐなんて嫌ですけど」
「まあ、普通はそうだね」
俺は頷き、資料に目を向ける。
「黒鉄の言うように、注目を浴びたことがきっかけで嬉しい数字は増えたけど、面白がって探ろうとする厄介な連中も増えたわけか」
「こいつにとっては、チャンネル登録者数やフォロワー数が増えたところまでは良かったんだろう。そこで止めとけば良かったのに……目に見えて注目され、数字になって返ってきて、下心が出て止まれなくなったんだろう」
そして、そこで止まれなかったことによって最悪な結果へと繋がった。
誤って投稿してしまった匂わせのつぶやきだったら『これ投稿して大丈夫?』とか『マズいんじゃないの?』とか、心配してくれる声もあった。
だけど注目を浴びるのが目的だってわかった途端、今まで心配していた連中も”騙された”と感じて、味方でいてくれる人はどんどん減っていった。
「良い意味でも悪い意味でも、こいつは目立ち過ぎたってわけだな」
「その結果、大衆の目は”真実か嘘”かが重要じゃなくて、その”真実か嘘かを暴いて懲らしめたい”という感情に変わったわけか」
「これで、みんな大好き”ネットで叩いていい奴”が生まれたってわけだ。ただまあ、ここで止まればこいつも被害は最小限だったろう。まだ好意的に思ってくれるファンも当時はいたからな。だが──後戻りできないと思ったのか、こいつは凝りもせず周囲の連中を煽り続けた」
「バカだね、この人」
メイの率直な感想に、俺と黒鉄は頷く。
「おそらくプライドだけは高かったんだろうさ。今までの件を謝罪することも弁明することも嫌ったこいつは、そのまま突き進んだわけだ」
「まあ、炎上商法で突き抜けても動画の視聴数が増え続ければお金は稼げるからな。……好意的なファンが消えても」
「だから煽り続けて、敵を増やし続けて──結果、こいつには大量のヘイトが向けられ、大勢の人間が”不幸になってほしい”って考えるようになったわけだ」
「そんな誰もが不幸を願った奴を地獄に突き落としたのが、神宮寺か」
「そういうこと。誰もあいつのネタを掴めなくて、当の本人は「おい、捕まえてみろよ!」って散々煽って。そんな奴の情報を手にして暴露した神宮寺は、その日から英雄みたいな扱いをされることとなったとさ。めでたしめでたし、だな」
確かにこれを聞くかぎりだと、一瞬で人気暴露系配信者になった理由がわかった。
「それで、誰も手にできなかった秘密を、その妹である神崎まどかから聞いた可能性がある……ってのが、黒鉄が調べてくれた情報で導き出した考えか?」
「今までずっと顔出しもしなかった奴の秘密を、こいつが暴けるとは思えないからな。なんらかの裏技を使っただろうと思っていたが、まあ、神崎まどかに兄がいるならこの方法が近いだろう」
一息つくようにコーヒーを飲むと、メイと目が合った。
「だけど先輩、それがわかったところでどうしようもないですよね? 神宮寺先輩に、神崎さんがお兄さんの情報を流したとしても、その証拠もないですし、ましてや真実だったからって問題にはできません」
「そうだな……」
「こいつの言う通りだな。これはあくまで、どうやって神宮寺が人気者になったかの俺たちの想像ってだけで、他人からしてみればそれが悪いことにはならない。残念ながら、お前らの過去のことを暴露しようとしている神宮寺を止める手段には使えないだろう」
二人の言った通り、ここで話したことが真実だったとしても打開策にはならない。
俺たちがやらないといけないのは”神宮寺に暴露させない”ということなのだから。
「だけど、この情報を手にしたのは大きい……」
直接的には使えない情報かもしれないが、これを手にしたことで打開策が
掴める気がした。
「先輩、どうでしょうか……?」
不安そうな表情のメイに見つめられ、俺は笑顔で頷く。
「大丈夫。俺が守るから安心して」
「さすが、メイの大好きな先輩です♡」
「……おい、俺の前でのろけんな」
「あっ、まだいたんですね」
「おい! ……ちっ。んで、どうやってあいつを追い詰めるんだ? 神崎修二の件をネタにこっちから脅しても意味ないぜ?」
「そうだな。だけど最初の一件に神崎まどかが関わっている可能性が出てきたことで、神宮寺はネタを手に入れる為ならどんな手段でも使うことがわかった。だったらその後の暴露動画も、ヤラセの可能性が高くなった」
「そうだな。それで?」
「その可能性が真実だと仮定して狙うなら、神宮寺でも神崎でも、ましてや一件目の神崎修二でもなく……」
俺は黒鉄から貰った資料を指差す。
「こいつだな」
♦
※下部の♡や☆ボタンを押していただけると助かります。作者のモチベーションに繋がります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます