第121話 リーフキャット
「ニャーニャー」
「ニャーニャー」
目の前には二匹のモンスターが存在する。
緑色の葉で全身を覆っている、猫型モンスターの『リーフキャット』だ。
前脚の先には爪が伸びており、ひっかきによる攻撃は皮鎧を傷つけると言われている。
可愛らしい見た目をしているので、以前、ガーネットがホーンラビットに対し「可愛いです」と言い出して戦闘にならなかったことを思い出す。
低層沸くモンスターの中には愛玩動物のような見た目のものが多く存在する。
特に女性冒険者は可愛いもの好きが多いので、初見では脅威を察することができず不覚をとることが多い。
「フローネ、一匹倒せるか?」
俺は彼女に戦闘の意志があるか確認をする。彼女がリーフキャットに対して油断していないか様子を見た。
「はい、お任せください。御主人様」
ガーネットの時とは違い、フローネは臨戦態勢をとっていた。
ダガーを抜いており、いつでも飛びかかる準備をしている。
「左を任せる」
俺はフローネに指示を出すと、自分は右のリーフキャットの前に立った。
「ニャーニャー」
リーフキャットは俺から距離をとると鳴き声を上げて威嚇してくる。襲い掛かってこないのならこちらから動くつもりはない。
俺は意識の半分をフローネに向けると、彼女の戦闘を見守った。
「はぁっ! やっ! えいっ! くっ……」
フローネはリーフキャットとの距離を詰めると攻撃を仕掛ける。だが、リーフキャットは素早くその場から飛びのくと攻撃を躱し続けていた。
脚に力をため、飛び掛かると同時に爪を振るって攻撃している。フローネはその攻撃を見切ることができず、スカートやエプロンに爪の攻撃を受けていた。
「落ち着いて、相手の動きをよく見るんだ」
リーフキャットは飛び掛かる際、葉を広げたり閉じたりして緩急をつけている。
そのせいでフローネはタイミングをとれずにいるのだが、落ち着いて動きを追えば見えるはずだ。
これまでの攻撃を受けて、彼女のメイド服が傷ついた様子はない。
彼女のメイド服は『プロテクション』が付与されているので、リーフキャット程度の攻撃では傷がつかないのだ。
攻撃が当たらないフローネと、当たっても傷をつけられないリーフキャット。お互いに決め手がない膠着状況になっていた。
「すぅ……はぁ……」
俺の言葉で冷静さを取り戻したのか、彼女は息を整えダガーを顔の前に構える。
先程からリーフキャットの攻撃を受けていて、攻撃が段々と高い位置になっていることに気付いたらしい。
「ニャーーーーーーーーー!」
リーフキャットは大声で鳴くと、これまでで最大の跳躍をして彼女の顔面目掛けて飛び掛かった。
「今ですっ!」
その動きを読んでいたフローネは、リーフキャットが飛ぶと同時に自分も後ろに飛ぶ。
「やあっ!」
そして、リーフキャットの跳躍の頂点からやや下がるところを狙ってダガーを突き出した。
「ニャフン……」
彼女の攻撃がリーフキャットの首筋を捉え、リーフキャットはそのまま地面を滑ると倒れてしまう。
どうやら、フローネの急所攻撃が成功したようだ。
「それでいい!」
高いジャンプには大きな隙ができる。彼女はタイミングを合わせて後ろに飛ぶことで、リーフキャットの攻撃点を外し、自分が有利な間合いを確保したようだ。
いつまでも傷を負わせられないリーフキャットの焦りを読み切った素晴らしい一撃だった。
「御主人様! 後ろにっ!」
声を掛けられると同時にもう一匹のリーフキャットが飛び掛かってくる。
「問題ない」
ようやく襲い掛かってきてくれたリーフキャットの首をショートソードで斬る。二層程度のモンスターならば動きを見切るのは容易い。
「流石ですね……」
目を大きく見開いたフローネは驚いた様子を見せていた。
「そうでもない。それにしてもフローネこそよく倒したな」
序盤こそ苦戦していたものの、冷静さを取り戻してからはリーフキャットの動きをよく見て仕掛けどころを探っていた。
しばらくして、俺が倒した方のリーフキャットからドロップアイテムが落ちる。出てきたのは二日酔いの薬だ。
「とりあえず、早速ドロップしたから目的は果たしたが、この周囲にあと何匹かいるみたいだし狩っていくとするか」
二日酔いの薬は城のパーティーなどに参加するというウイング氏も欲しがるだろうし、せっかくなので、もう少しフローネにも戦わせてみたい。
「はい、大丈夫です」
彼女もまだまだやる気のようなので、俺は地図を見ると、
「ならこっちだ」
次のモンスターがいる場所まで彼女を連れて行くのだった。
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