第120話 植物系ダンジョン一層

 ガーネットの二日酔いを治すため、俺とフローネは王都の商業区近くにある『植物系』ダンジョンを訪れていた。


 基本的に低層のモンスターは無視するため、目の前に現れる敵を一振りで片付けていたのだが、後ろで見ているフローネの動きが気になった。


「どうした、フローネ?」


 もしかして、初のダンジョンということで緊張しているのではなかろうか?


 俺はそう推測して彼女に聞いてみるのだが、 


「いえ、御主人様と一緒なのでそこは平気なのですが……」


 彼女は左手を顔に持っていくとある物の位置を調整していた。


「この色付きメガネはなんなのでしょうか?」


 現在、彼女はメイド服に加えて色のついたメガネをかけている。

 それと言うのも、できる限り他の人間にフローネと認識されるのを避けるためだ。


「一応、フローネが奴隷になった経緯もあるからな。妙な連中に絡まれないように変装も兼ねている」


 そのために目元を隠す色付き眼鏡を掛けさせている。


「そういう事情でしたか……」


 もっとも『地図表示』と『索敵』のスキルがあるので、敵対者の位置も冒険者の位置も把握できている。

 俺が出会わないようにしようと考えれば、不測の事態にはならないはずだ。


「それに良く似合ってるし問題ないだろう」


「そ、そう言うことは恥ずかしいのでおっしゃらないでください」


 サロメさんから「女性が何かを身に着けたら褒めるようにしてください」と酒の席で教わっていたのでやってみたのだが、フローネの反応を見る限り微妙に見える。


 ガーネットには試していなかったが、この調子ならやめておいたほうがいいだろう。


「まあ、どのダンジョンも低層はモンスターもたいしたことないからな」


 俺たちは現在『植物系』ダンジョンの一層を進んでいる。

 湧いてくるモンスターはトレントといって、膝くらいの高さの木型のモンスターだ。


 王都の中でも低難易度ダンジョンに分類される『植物系』なので、一層に湧くモンスターの強さはたいしたことがなく『ステータス操作』を行ったフローネなら余裕で倒すことができるだろう。


「とりあえず今日のところはガーネットの体調を戻してやることが最優先だから、二層を目指そう」


「はい、御主人様」


 俺がそう促すと、フローネは優しく笑いかけてきた。





「それにしても、御主人様は本当にお嬢様のことを大切にされておられるのですね」


 二層を探索していると、フローネが話し掛けてきた。


 俺は少し考えると返事をする。


「まあ、そうじゃなきゃパーティーを組んでないだろうしな」


 ガーネットとパーティーを組むまでに色々あったことを思い出す。

 自分の気持ちを押し殺し、結果として彼女を泣かせてしまったこともあった。


「御二人の間には確かな絆があるのがわかります。それが私にはとても羨ましく思えるのです」


 彼女はそう言うと、少し寂しそうな表情を浮かべる。


「俺もガーネットも、冒険者としては落ちこぼれだったからな。お互いに共感する部分が多かったんだ」


 俺はスキルが発現しなくて周囲から見下され、ガーネットは伸ばすべき能力を間違えていたため芽が出なかった。


 俺たちが知り合った経緯を話していると、


「つまり、御主人様のユニークスキル『ステータス操作』が発現したからこそ、私たちはいまこうしているということですね」


「そうなるだろうな」


 でなければ、ガーネットやフローネみたいに優しく美しい女性と行動を共にすることなどなかっただろう。


「話を聞く限り、私の『錬金術士』も御嬢様の『剣聖』も、御主人様がいらっしゃらなければスキルを取得する前に諦めるしかなかったと思います」


 確かにその通りかもしれない。

 ガーネットの『オーラ』は取得にスキルポイント10も使う破格の効果を持つスキルだ。


 それだけに、普通に取得するには相当な時間が必要だったはず。当時、ウイング氏から、冒険者を続ける条件を突きつけられていたので、普通なら諦めていたに違いない。


 そう考えると、今の関係は奇跡のようなものだと思える。


「フローネも、大切な仲間だからな」


「ありがとうございます」


「そろそろ、モンスターと遭遇するから、気を引き締めてくれ」


 俺はフローネにそう促すと、武器を構えるのだった。

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