第118話 ドラゴン肉料理
「はふぅ……美味しかったです」
「本当にな、まさかフローネの料理の腕がここまでとは……」
目の前には空っぽになった皿がいくつも積み上げられている。
「そんな……、御二人が取ってきた食材の手柄ですよ。私は素材の味を引き出しただけです」
先程まで、そこにはドラゴン肉を使った料理だけではなく、様々な料理が並べられていたのだが、そのあまりの美味しさに心を奪われてしまい、俺とガーネットは口を開くことも勿体ないとばかりに奪い合うように料理を食べまくった。
「そんなことないぞ、こんな美味しい料理なら毎日だって食べたいくらいだよ」
「そ、そうですか……?」
フローネはエプロンを弄ると、はにかんで見せる。どうやら照れているらしい。
「野営の時も凄いと思いましたけど、今日のはさらに凄かったです! お肉の皮がパリパリしてましたし、付け合せのお野菜も甘くて美味しかったですよ!」
「流石に野営だと調理する方法が限られていますから。これだけ設備があればこのくらいはできます」
キッチン周りにある設備のメンテナンスも終わったということで、フルに能力を発揮できたらしく、フローネは今回様々な調理方法を用いて料理を作っていた。
謙遜してはいるが、こんな美味しい料理、パセラ伯爵家でも滅多にお目に掛かれない。最近、舌が肥えてきたとは思っていたが、俺もガーネットの主張に同意だ。
「惜しいのは、この料理はお酒と相性が良い点ですね」
「ティムさん。私にもワインを……」
「駄目だ! ウイングさんと約束したからな」
ここに戻ってくる前、ガーネットの衣類や寝具などをアイテムボックスにしまうため、パセラ伯爵家を訪れた。
その際に、改めてガーネットの面倒を、パセラ伯爵ことウイング氏に頼まれたのだ。
こっちに住ませる条件として「親に顔向けできなくなるようなことはさせず、ティム君が監督してほしい」と告げられている。
両親から頼まれている以上、俺はウイング氏の言う通りにするつもりだ。
「たしかにチェリーワインはこの料理によくあっているな。肉の脂を甘みのあるワインが流してくれて口の中がさっぱりするよ」
相性のことを言われて、俺は先程の料理の評価について振り返る。
「そうなんです! そもそもドラゴン肉の料理というのは実は扱いが難しく、私も初めてなんですけど、チェリーワインがあれば料理の味を格段に引き立てることができるんです。でも、このワインが市場に出回ることは少ないですし、ドラゴン肉も滅多に出回りません。つまり、この両方を同時に味わった人間というのはそれこそ王侯貴族の一部や大商人だけど言われています。当然料理をする側も選ばれた一流のシェフが担当するので、今回こうして私に任せてもらえて感激しているのですよ」
どうして火が付いたのかわからないが、彼女は多弁になると一気にまくし立ててきた。
「ティムさん……どうしても駄目ですか?」
一応、15歳で成人を迎えているので酒を呑んではいけないということはない。だが、パセラ伯爵家では彼女に酒を呑ませない方針だったので、勝手に呑ませてよいか判断がつかなかった。
「駄目だって……まだガーネットには早い」
俺はウイング氏が言いそうな言葉を口にする。だが……。
「私はもう大人です!」
そう言って右手を胸の前に持っていく。部屋着のため、胸元が強調されているので言葉と合わさってドキッとした。
「御主人様。チェリーワインを炭酸でわったものはいかがでしょうか? アルコール度数も下がりますから酔うこともないかと」
フローネがそんな提案をしてくる。
二人から訴えかけられるような視線を受け続けると……。
「はぁ、わかったよ。でも一杯だけだからな?」
「はいっ! ありがとうございますっ!」
俺が許可を出すと、ガーネットはフローネからコップを受け取ると、美味しそうに呑むのだった。
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