第63話 ティムの告白
サロメさんが冒険者ギルドに帰ると俺はガーネットと二人きりになった。
彼女は先程からぼーっとした様子で俺を見ており、その視線が妙に気になった俺は気まずい時間を過ごしている。
「それで、ガーネット。出発の日にちについてだけど」
「あっ、はいっ!」
話し掛けると返事が返ってくる。
「……そうだな、ちょうど一週間後で大丈夫か?」
「平気です」
一週間と言ったのには訳がある。現在『指定スキル効果倍』を『取得系アップ』にセットしているが、連中と戦うからには戦闘特化に組み直しておきたいのだ。
そのためには『指定スキル効果解除』のスキルを使わなければならない。
・『指定スキル効果解除』⇒『指定スキル効果倍』で指定したスキルの効果を解除することができる。1日に解除できるスキルは1つまで、解除後『指定スキル効果倍』で別なスキルを選択することが可能。
この説明の通り、解除できるのは1日で1つまで。全部で5つ変更するには最大5日掛かることになる。
今日は一日でどの組み合わせにするかよく考えてみるつもりだ。
「移動はこんな状況だから乗合馬車にしようと思っている」
王都までは馬車で二週間程になる。ガーネットと一緒の時は襲ってこないと思うのだが、より安全を求めるなら護衛付きの乗合馬車を利用すべきだろう。
「俺は外に出られないから予約を頼めるか?」
どこに連中の目があるかわからない。関係者には俺の情報を漏らさないように頼んである。
しばらくの間、俺は生死の境を彷徨っているということにしておいた方が都合が良かったからだ。
「おまかせください。ティム先輩が快適に過ごせるよう、一番良い馬車を予約いたします」
ガーネットは張り切ると返事をした。
「それにしても、ティム先輩」
「ん?」
眉根を寄せたガーネットは俺の姿を観察する。
「具合は本当によろしいのでしょうか?」
聞くところによると血が大量に流れて、傷も深かったらしい。
今の俺はスキルのお蔭で問題ないのだが、そんなことはガーネットにはわからない。フォローをしておこう。
「多分、ガーネットからもらったエクスポーションの効果が絶大だったんだろ。ありがとうな」
「あ……い、いえ」
俺がお礼を言うと、なぜか顔を赤くしてしまう。あの時の凄惨な場面を思い出し、ショックで頭に血が昇ったのだろうか?
ふと、俺は一つ彼女にどうしても言っておかなければならないことがあることに気付いた。
「どうしたのですか、ティム先輩? あまりじっと見つめられると恥ずかしいです」
考え事をしていたせいで、ずっとガーネットを見つめてしまっていたらしい。
「ああ、ごめん。ガーネットに1つ大切なことを言わなければと思って」
「わ、私にですか……それって……」
彼女は狼狽えると右手で胸を掴むと上目遣いに俺を見上げてきた。
俺が死にそうになっていた時、彼女は高価なエクスポーションを惜しまず使ってくれたという。
そんな優しい彼女に対して、俺はこれまで真剣に向き合ってこなかった。
恐らくだが、俺の『ステータス操作』はパーティーを組んだ相手の取得スキルやステータスを弄ることができる。
ガーネットが冒険者を続けたいのなら、望むスキルを取得してやり、ステータスを振ってやればすぐ解決していたのだ。
彼女のことを信頼しきれなかったというのは、彼女からの献身を受けたあとでは言い訳にしかならない。
グロリアに対して「自分が苦しい時助けてくれなかった」と言っておきながら、自分もガーネットに対し、できることをやらなかった。
これを不誠実と言わずして何と言う。
「ガーネット」
「は、はいっ!」
彼女は返事をすると、緊張した様子で俺を見つめていた。
いざ、彼女に秘密を打ち明けてステータスを操作しようと考えた段階で躊躇いが生じる。
この試みが成功すれば、彼女の人生はこれまでとまったく違ったものになるだろう。
突如手に入れた力に戸惑って不安になるかもしれない。
自信をつけてウォルターみたいに傲慢な性格になってしまうかもしれない。
上位パーティーに見出されて一流の冒険者になるかもしれない。
きっかけはどうあれ、俺が彼女の人生に干渉する以上、許可を得るべきだろう。
「ガーネット!」
もう一度名を呼ぶ。もはや彼女は俺から目を離さずじっと見続けている。
俺は真剣な表情を作ると、緊張しながら言った。
「これから言うことで、俺はお前の人生を歪めてしまうかもしれない。俺にとっても初めての試みになる、どうなるかはわからない。だけど、できる限りの責任は取るつもりだ」
突然『ステータス操作』の話をしても受け入れてもらえないかもしれない。
まずはことの重大さを認識してもらい、何かあった時はフォローすると事前に伝えておく。
「人生を歪め……責任を取る……ということは……やっぱり!?」
慌てた様子のガーネット。やはり止めておくべきではなかろうか?
俺のそんな迷いに気付いたのか、
「ティム先輩。大丈夫です! 勇気を出してお願いします」
彼女は俺に近付くと両手を握って微笑んだ。
「わかった、なら言わせてもらう」
「はいっ!」
彼女の言葉に後押しされて俺は告げる。
「お前のステータスを操作させて欲しい」
「はい、喜んでお受けしますっ……って! えっ?」
至近距離で見る彼女は困惑した表情を浮かべていた。
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