Fランク冒険者の成り上がり～俺だけができる《ステータス操作》で最強へと至る～

第58話 ティムの決意

「それで、どうでしょうか、あの子は？」

　その日の採取依頼を終えて冒険者ギルドに戻ると、ガーネットは依頼達成の報告をして宿へと引き上げていった。

　相変わらずニコルとかいうAランク冒険者がサロメさんのところにいたので、俺は一度ダンジョンに潜り深夜まで時間を潰してきた。

　周囲には他に人気もなく、薄暗くなったギルド内では俺とサロメさんの声だけが響いていた。

「どうもこうも、真面目で素直な良い子だと思いますけど……」

　一生懸命仕事に取り組んでいるし、何よりも気遣いができる。今日のような他人が手間と感じ採取依頼ならば普通にこなせるだろう。

　懸念しているモンスターと遭遇した時の対処だが、最悪、森の仕事でなければ逃げることもできる。

　この二日見ていてわかったが、ガーネットは体力もそこそこあるからだ。

　それらを踏まえて考えるなら、彼女が冒険者を続ける道もありだと思った。

「ふーん、ティムさんは年下好きでしたか」

　サロメさんが流し目を向けてくる。何やら探るような様子に俺は慌てて言い返した。

「いや、そう言う意味で答えてないですよね？」

　冗談は止めて欲しい。もし、今のような言葉が彼女に耳に入ってしまったら、俺も警戒されてこの先の指導がやり辛くなる。

「それより、彼女のスキルはどういうことです？　『アイスアロー』に『ヒーリング』と異なる系統のスキルを身に着けているかと思えばどちらも微妙という」

　どのような経緯でああなったのか、事情を知っているサロメさんに問う。

「あの子が貴族の娘というのは話しましたよね？　彼女は、パセラ家の三女なんですよ」

　本人からも聞かされていない出自についてサロメさんが語る。

「貴族ではより早くスキルを身に着けるために家庭教師を雇うことがあります。平民に後れをとるのは恥という意識があるみたいですね」

「純貴族の考えですか……馬鹿らしい」

　国に存在するのは貴族同士の血縁を維持する純貴族と、有力な冒険者が成り上がって貴族になった家、もしくは有力なスキル保持者の血を取り込んで力を維持している貴族の家などがある。

　純貴族の考えは『自分たちは生まれながらにして尊い血を持つ者』となっており、成り上がりの貴族や純貴族以外の血を取り込んだ家を蔑んでいるらしい。

「そんなわけで、彼女はまず魔法の家庭教師に師事して魔法のスキルを覚えたのですが……、結果はもう知っていらっしゃいますね？」

　サロメさんの確認に俺は頷く。

「彼女には魔法スキルを扱う才能がありませんでした、それで次に雇われたのが治癒スキルを扱う家庭教師です。スキルを覚えるまでにかなりの時間が必要だったようで、それまでに血のにじむような苦労をしたらしいです」

　貴族のメンツにかけてスキルを習得させられたということなら、俺の努力の比ではないだろう。

　明るく笑って魚を食べていたガーネットの姿が思い浮かんだ。

「結果として治癒スキルは習得できたものの、あまりの能力の低さに他の純貴族の家に嫁に出すわけにもいかなくなったのです」

　実の親から見放され、冒険者になるしかなかったとサロメさんは付け加えた。

「経緯はわかりましたけど、それならなぜ俺に彼女が冒険者を諦めるように仕向ける依頼を出したんですか？」

　話を聞く限り、ガーネットの両親は望んで娘を冒険者に追いやった。それで生活しているのなら問題はないのではないだろうか？

　俺の疑問にサロメさんはしばし無言を貫くと答えた。

「…………純血の貴族との縁談が見つかったからです」

「なんだって？」

　俺は驚くと、まじまじと彼女の目を見た。今聞かされた理由が冗談であって欲しいと思ったからだ。

「相手方からの申し出だったようで、パセラ家も驚いたようです。ですが、自分たちから『冒険者になるように』命じたのでいまさら戻って来いとは言い辛いらしく、自ら戻ってくるように仕向けたいらしいんですよ」

「なんだそれっ！　ふざけているっ！」

　俺はテーブルを叩いた。

　家の都合で追い出しておきながら今度は家の都合で戻って来いと。挙句の果てに見も知らぬ貴族に嫁がされる。

　ガーネットの親に対してこれ以上ない程の怒りが湧き上がる。

「決めましたサロメさん」

「何をですか？」

「俺はガーネットを一人前の冒険者にする。誰にも文句は言わせない」

　宣戦布告するようにサロメさんに鋭い視線を送る。たとえ彼女が専属サポートから外れようが知ったことか。

　ところが、そんな俺の言葉に対し、サロメさんは……。

「ええ、ティムさんならそう言ってくれると思っていました」

　笑顔を向けた。

　その時になって、俺は気付く。彼女がどうしてガーネットの生い立ちと依頼の理由を俺に話したのか。

「……もしかして、また俺のことを掌で操ってました？」

　サロメさんも今回の依頼に納得がいっていなかったのだ。

「操ってたなんて人聞きの悪い。ティムさんが本当にあの子を救ってくれるのかわからなかった。だから伏せていたのですよ」

「まったく……、今回の件は貸しですからね。何かあった時のバックアップは頼みますよ」

　俺がためいきを吐くと、

「その時は私も一緒にクビが飛ぶので、どこかでやり直しましょうか？」

　冗談とも判断がつかぬことを笑顔で言うのだった。