第44話 ウォルターたちの処分と勧誘多数

「それでは、確かに依頼達成の確認をしました」


 サロメさんはそう言うと、町長からもらった依頼達成のサインが入った書類を受け取った。


 実に二週間ぶりに顔を合わせたのだが、彼女の表情は思いのほか険しかった。それというのも……。


「今回の依頼で起きたトラブルについてはさっき話した通りです」


 リーダーのウォルターが不在のため、マロンが変わって依頼内容の報告を行った。


 その際に、ウォルターとレッドが俺を嵌めた点についても報告されていたからだ。


「まさかとは思いましたが愚かなことをしましたね」


 サロメさんはためいきを吐く。


「二人の証言に加えて町長がレッサードラゴンの数を誤魔化していた件と、それをウォルターさんが知っていて情報を伏せていた裏付けも取れています」


 町同士では交信手段がある。

 マロンが報告すると、すぐさま交信を行って裏付けを取ったらしい。


「同じ冒険者の……それも上のランクの人間が下のランクの人間を陥れるというのはとても重い罰になります」


「具体的には……?」


 俺は喉を鳴らして内容を確認すると、サロメさんはパラパラと書類を捲り何やら計算を始めた。


「ギルド規約でいうと、退院後から一年、依頼斡旋拒否に加えてパーティーランクを一つ下げることになっています」


「それは、事実上廃業じゃないか?」


 冒険者は一定の期間に一度は依頼を受けなければならない。

 この期間というのはランクによって異なるのだが、Aランクで最長1年となっていたはずなので、Bランクのウォルターたちはそれより短い。


「そうですね、さらに付け加えると、入院期間も日付はカウントしますし、Cランクまで落ちた場合の期限は半年ですから。どう考えても除名は免れないかと」


「除名になるとどうなるんですか?」


 グロリアが眉をひそめて質問をする。


「除名の場合、再登録までには最低3年開けてもらうことになりますね。その上Gランクからやり直しです」


「それは……随分と厳しい処分なんだな」


 以前俺に嫌がらせをしてきた新人たちも半年ダンジョンに入れない処分を受けたことを思い出す。


「ティムさんがどう思うかは知りませんが、冒険者ギルドの秩序を保たなければなりませんから。確かに仲間を犠牲にしなければ乗り越えられないという場面は存在していますが、自己の利益のために他者を陥れるような人間は害でしかありません。たとえ能力があろうとも罰を与えます」


 サロメさんの毅然とした言葉を聞いた俺は自分に言われているような気がした。


 事実その意味もあるのだろう。彼女は俺が道を踏み外さないようにこうして釘を刺してくれているのだ。


「あの……私たちが申請した件については……?」


 マロンは右手で胸元を掴むと不安そうな表情を浮かべる。


「お二人のパーティー脱退の件ですね、こちらに関しては冒険者ギルドに記録されている素行調査では問題なしとなっておりますので、今回の件も無関係であることからスムーズに手続きができます」


「良かった……」


 マロンは安心したのかためいきを吐いた。


 ウォルターとレッドがしでかしたことに巻き込まれるのは流石に可哀想だと思っていた。


「ただ、パーティー実績がなくなりますので、抜けた場合はそれぞれCランクに降格となりますね」


「構いません」


「構わないわ」


 この瞬間、ウォルターたちのパーティー消滅が決定した。







「それじゃあ、改めて今回の依頼お疲れ様」


 諸々の手続きが済んだ俺たちは現在、冒険者ギルドに併設されているテーブルでエールが入ったコップをぶつけ乾杯をした。


「なんだか巻き込んでしまったようで済まないな」


 俺に実害がなかったからピンとこなかったのだが、思いのほか大事になってしまったせいで二人はパーティーを脱退してしまった。


「いいわよいいわよ、あんたの命を狙ったのもあり得ないし、レッドに言い寄られてうんざりしていたから」


 マロンはエールを飲むと愚痴をこぼす。


 これまでも口実を見つけてはレッドに買い物や食事に誘われて辟易していたらしい。


「私も、今回のウォルターたちのやり方には心底腹を立てていますから」


 グロリアはそう言うとエールを一気にあおって見せた。

 彼女が酒を飲む姿を見るのは数度だが、このような飲み方は身体に悪い。


「それより、あんたの方がこれから大変よ?」


「ん、どうしてだよ?」


「周りを見なさいな」


 マロンは右手を上げると俺に見るように周囲を指差した。


 すると、そこには様々な冒険者がいてこちらを……いや、俺を見ていた。


「レッサードラゴン16匹をたった一人で倒しちゃったわけだもんね。どのパーティーもクランもあんたのことを欲しがっているわよ」


 人の口に盾は嵌められないと言ったもの。

 ウォルターとレッドが起こした不祥事が伝わった結果、その経緯となった俺の討伐も知れ渡ってしまったようだ。


 サロメさんに勧誘は食い止めてもらっていたのだが、ここまで実力がバレてしまうと流石に止まらないようだ。


 しばらく三人で酒を呑んでいると何人かが話し掛けてきた。


「よう、ティム。随分と活躍したみたいじゃねえか」


「一人でレッサードラゴンを殺せる魔法を打てるんだって? うちは今後衛を募集しているんだが……」


「剣もかなり使えるらしいじゃねえか? 中衛として来てくれるなら高待遇を約束するぞ」


 有名なクランの代表やAランクからDランクパーティーの人間まで、とにかく多くの人間が俺に話しかけてきた。


 随分と長い間勧誘を受け、俺が答えを濁していると突然グロリアが立ち上がる。


「ど、どうした?」


 随分酒を呑んでいるようで顔が赤い。


「ちょ、グロリア……今は止めた方が……」


 彼女は俺の両手を掴むと瞳を潤ませて言った。


「ティム君、私たちとパーティーを組んでもらえませんか?」

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