第42話 『指定スキル効果倍』の効果

「てめぇっ! わざとだろうっ!」


 治療院のベッドに横たわったウォルターが怒鳴り声を上げる。


 昨晩、レッサードラゴンの群れの討伐に出た俺たちだったが、その際にウォルターとレッドが重傷を負ってしまった。

 本人の証言では爆発魔法で吹き飛んできたレッサードラゴンに巻き込まれたと言っている。


「わざとな訳ないだろ」


 俺は毅然とした態度で言い返す。そもそも俺はこいつらの気配がなかったから魔法を使ったのだ。


「うううう、爆風が……レッサードラゴンが飛んでくる……」


 全身に包帯を巻きつけたレッドがベッドへと横たわっている。

 ウォルターよりも重傷のようで、昨晩から悪夢を見ているようでうなされている。


 その様子を見ていても良心が痛まない。なぜなら……。


「そもそも、なぜおまえたちは気配を消して近付いてきた? こっちはお前たちの気配がなかったから倒されたと思って、あの数のレッサードラゴンをまとめて倒したんだぞ?」


「うっ……それは……」


 俺が言い返すとウォルターは言葉に詰まる。じっと視線を向けると目を逸らした。それでも俺が納得できる返答を待っていると……。


「二人の様子はどうですか?」


 グロリアが病室に入ってきた。


「二人とも全治数ヶ月らしいぞ」


 ポーションで治せるのは軽い怪我だけになる。治癒魔法にしてもハイヒーリングでは骨折までは直せない。全身火傷と全身骨折。今のウォルターとレッドを治癒するにはエクスヒーリングの高レベルかダンジョンドロップで手に入るエクスポーション(※滅多にドロップしないうえ高額)が必要になるだろう。


「自業自得よ、変な小細工してティムにだけレッサードラゴンの数が多いことを伝えてなかったんだからね」


「なっ! てめぇっ!」


 マロンがそう言うとウォルターが批難を含んだ声を出した。


「そうなのか?」


 俺がウォルターに聞き返すと、


「お、俺とレッドは絶対安静だ。お前らは出ていけっ!」


 癇癪を起して俺たちを追い出した。





「ティム君が無事で本当に良かったよ」


 部屋からでたところでグロリアが胸を撫でおろした。


「あいつら、一体どういうつもりだったのかしら?」


 マロンが憮然と呟く。

 どうやら俺はウォルターとレッドに嵌められたのだと気付いた。


「これからどうしようか?」


 グロリアが問いかけてくる。二人のリーダーであるウォルターはしばらく治療院に入院することになっているので、この街から離れることができない。


 前衛抜きでは俺たちの街に戻ることもできず、かといって仕事を受けるにも前衛がいないということだ。


「俺は先に帰らせてもらうぞ」


 色々問題がある依頼内容だったが、勝負は文句なしで俺の圧勝だろう。

 何せ、討伐対象のレッサードラゴン16匹はすべて俺が倒したのだから。


「だったら私も一緒しちゃだめ?」


「いいのか?」


 パーティーメンバーのウォルターとレッドを置いて帰って大丈夫なのか確認する。


「いいのよ、汚い手を使って返り討ちにあったなんて情けない。自業自得なんだから」


 言い方は辛辣だが無理もない。当事者の俺が無事だったとはいえ、あのスキルに目覚めていなかったらやばかった。


「わっ、私も……ティム君と一緒したいです!」


 俺が考え込んでいると、グロリアも話に乗ってきた。


「別に構わないけど……」


 どうせ元の街に戻るだけなのだから。俺はそう返事をするとその場を立ち去ろうとする。


「ん、ティムどこにいくの? 良かったら依頼達成のお祝いに飲みにいかないかしら?」


 マロンが俺を誘うことが多い気がする。依頼達成後の飲み会というのに興味がないわけではない。かつて冒険者になったばかりの頃はそんな夢を見ていたのを思い出す。


 だが、俺は二人の前で欠伸をしてみせると、


「なんだかんだでずっと起きてたからな、先に休ませてもらうよ」


 自分の部屋へと戻るのだった。


 



 部屋へと戻ると俺はステータス画面を開く。

 自分の状態がどうなっているか確認するのが楽しみで、マロンの誘いを断ったのだ。


「今回の討伐は本当に美味しかったな」


 レッサードラゴンはこれまで相手にしてきたモンスターよりも経験値をたくさん持っていたのは間違いない。


 今回、俺はモンスターを独占させてもらったお蔭で、これまでにない勢いでレベルを上げることができた。


 設定していた職業は魔道士なのだが、元々27だったところがレッサードラゴン討伐終了時には39まで上がっている。


 たった一度の討伐でここまで稼げたのは今回が初めてなので驚いている。


 もっとも、こんな大物を一度に仕留められる機会なんてそうそうないだろうから、ダンジョンに戻ったら逆に不満が溜まってしまいそうな気がして怖い。


「それもこれもすべてはこの『指定スキル効果倍』のスキルのお蔭だな」


 ここに到着するまで転職していた『見習い冒険者』。そのレベルが30を超えたところ、俺の予想通りに新たなスキルを取得できるようになった。


 レベルが30に到達した際『取得経験値増加』『取得スキルポイント増加』『取得ステータスポイント増加』の上限が解放されていないかとワクワクしながら確認したのだが変わっていなかった。

 どうやらこのスキルの上限はレベル5までだったらしく、落胆した俺だったが取得スキル一覧に新たなスキルが出現していることに気付いたのだ。


 今回、出現したスキルは『指定スキル効果倍』『指定スキル効果倍解除』の二つ。


 内容を見る限り前者は指定したスキルの効果を倍にするものだと思われた。


 取得にはスキルポイント30を使ったが、ちょうど155残っていたのでギリギリレベル5まで上げることができた。

 どうやらレベル1ごとに指定できるスキル枠が1つ増えるらしく、レベル5の俺は5つ選択できるのだと考えた。


 そこからは結構悩んだ結果、まず最優先で効果を倍にするなら『取得経験値増加』『取得スキルポイント増加』『取得ステータスポイント増加』の3つだろうと考える。

 経験値が倍になればレベル上げも捗るし、スキルポイントとステータスポイントは多いに越したことはない。

 これらは今の俺を支えるベースともなっている部分なので悩む余地がなかった。


 俺が悩んだのはそこからだ。

 あと二つのスキルをどうするかについてだが、いくつか推測を立てなければいけないことがある。

 それは『指定スキル効果倍解除』というスキルの存在だ。

 現時点で押してみても反応がないことから取得条件はスキルポイント5以上が確定している。

 こちらのスキル効果は、恐らく既に指定してある効果倍のスキルを解除して普通の状態に戻すもの。それができるのなら、お試しで効果を上げてやったり、その時に特化して効果を倍にしたいスキルを選択することもできる。


 そうすればこれまでよりも戦場の選択肢が広がるので色々な方面で活躍することができるようになるのだ。

 問題は解除の条件がはっきりしていない。一度解除すれば終わりなのか、それとも何度でも付け替えることができるのか?

 そう考えた末に、今回は無駄になるであろうと考えつつ、俺は『アイテムドロップ率増加レベル5』を指定することにした。


 考えが間違っていたとしても、その時はダンジョンの安全な層で稼げばよい。

 そうなったときに最も安定するのはこのスキルなので、解除する余地がなかったからだ。


 そして最後に俺が選んだのが『バーストレベル6』こちらのスキルは現時点で俺が出せる最大火力の魔法になる。

 剣術では一気に戦況をひっくり返すことはできない。だが、魔法ならばそれが可能。『バースト』は他の魔法と組み合わせることができるので、汎用性も高いとふんだのだ。


 結果、この選択が正解。『魔力集中』で威力を上げたうえで効果が倍になった『ファイアバースト』のお蔭で敵を(ついでにウォルターとレッドも)粉砕して見せた。


「ふぁ……流石に眠い。間違えて振り分けるのも怖いし、ここは一度寝るか……」


 俺はそう考えると、ステータス画面を見ながら眠りへと落ちていくのだった。



 名 前:ティム

 年 齢:16

 職 業:魔道士39

 筋 力:311

 敏捷度:311

 体 力:341

 魔 力:336+78

 精神力:226+39

 器用さ:307+39

 運  :450

 ステータスポイント:180

 スキルポイント:149

 取得ユニークスキル:『ステータス操作』


 指定スキル効果倍:『取得スキルポイント増加レベル5』『取得ステータスポイント増加レベル5』『取得経験値増加レベル5』『アイテムドロップ率増加レベル5』『バーストレベル6』


 取得スキル:『剣術レベル7』『バッシュレベル6』『ヒーリングレベル6』『ライト』『罠感知レベル5』『罠解除レベル5』『後方回避レベル5』『アイテム鑑定レベル6』『短剣術レベル5』『ファイアアローレベル6』『アイスアローレベル6』『ウインドアローレベル6』『ロックシュートレベル6』『瞑想レベル6』『ウォールレベル6』『魔力集中レベル6』『祝福レベル6』『キュアレベル6』『ハイヒーリングレベル6』『セイフティーウォールレベル6』『スピードアップレベル6』『スタミナアップレベル6』『アイテムボックスレベル4』『指定スキル効果倍レベル5』

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