第41話 悪意粉砕
★
「くくくく、行ったみたいだな……」
暗闇に潜んだレッドは笑い声をあげる。
「しかし、お前も悪いことを考えるやつだよ。まさか奴一人に突っ込ませるなんてよぉ」
ウォルターは前を見るといやらしい笑みを浮かべた。
ティムにはまずは暗闇に紛れて数を減らすと伝えてある。
その上で誰かがしくじったら合図を送り、マロンとグロリアを合流させるという説明をしておいた。
「人聞きが悪い、何らかのアクシデントで突っ込めなくなることもあるだろう?」
ウォルターの言葉にレッドは悪びれもせず答える。
「そう言うわりにはおまえ、何もアクシデントなんてねえだろ」
ピンピンしているレッドにウォルターは突っ込みをいれた。
「いやーちょっと武器を落としちまってな。探していたら出遅れただけなんだよ」
レッドはそう言うと地面の武器を拾い上げた。
「俺よりも極悪なのはウォルターだろ。レッサードラゴンの数は当初の依頼と違って倍だったんだろ? 流石の俺もそんなところに1人で突っ込んだら無事じゃすまないぜ?」
「くっくっく、元々の依頼がその数になっていたんだ。……そうだな、今回のこれは伝え忘れたんだ。よくあるだろ? 伝達ミスって奴は」
実際、依頼内容と数が違っていた点についてはウォルターのミスではない。それがわかっているからこそ最大限に利用しようとしていた。
「あいつも俺たちのパーティーメンバーに手を出さなきゃこんな目にあっていないんだけどよぉ」
レッドは苛立ち紛れに歯を噛みしめる。
グロリアがパーティーを抜けようとしている点もそうだが、マロンもティムに興味を持ち始めている。
今はまだ言葉にしていないが、もしティムがこの先成長していくようならマロンも抜けると言い出しかねなかった。
「……そろそろ行くとするか。あまり時間を置きすぎると弱いティムが死んじまうからな」
ライトの魔法が撃ちあがり、レッサードラゴンに囲まれている様子と叫び声が聞こえる。
恐らく今頃ティムが血相を変えて必死に抗っているのだろう。
「奴が囮になって、俺たちは背後からレッサードラゴンを倒していく。……まったく、簡単な仕事だぜ」
ここで助けてやればお互いの立ち位置が確定する。
ウォルターとレッドはティムに気をとられているレッサードラゴンを始末しようと気配を消しながら近付いて行くのだった。
★
『グルルウウウウウウウウアアアアアアアアアッ!!!』
「ちっ!」
2匹目のレッサードラゴンを斬りつけたところで叫び声が上がる。
数が少ないこともあってか、暗闇に紛れて奇襲をかけた俺たちだったが、流石に急所を狙うのは厳しく二匹目で失敗してしまった。
「仕方ない。ここからは正面からやりあうか!」
『ライト』の魔法を使って光源を確保する。こうなった時の対応も打ち合わせ済みだ。
元々、暗闇を利用して群れを全滅できるとは俺もウォルターも思っていない。
先手をとってそれぞれの受け持ちを削ることが出来ればそれだけで難易度が大幅に下がる。
この作戦のため、マロンとグロリアは後方に待機させておきウォルターの合図をまって攻撃をさせる予定だったのだが……。
「妙だぞ? ウォルターとレッドはどうした?」
それぞれが戦う位置は事前に決めてある。だというのに、そちらをみても戦闘の気配がまったくないのだ。
「俺だけがミスってあいつらは既に受け持ちを倒したとか?」
レッサードラゴン2匹を相手取り立ち回っているのだが、残すのはここだけでやつらは高みの見物をしているということだろうか?
「それにしたってそれなら合図を出してマロンに援護させればいいものを……」
勝者が確定したのならこんな危険を冒す必要はまったくない。いち早く片付けてしまった方が被害も少ないに決まっているのだが……。
「えっ?」
気が付けば周囲に大量のモンスターの気配を感じた。
「『ライト』」
俺はライトの魔法を複数打ち上げ前方へと飛ばした。
「おいおい、本気かよ?」
すると、そこには大量のレッサードラゴンが集まっていた。
数える気にならないが、依頼書に記載されている倍はいるように見える。
「もしかして、レッドとウォルターはこいつらにやられたのか?」
依頼内容と実際の数が違うことはよくある。
ウォルターは何も言っていなかったが、恐らく事前情報を得られなかったのだろう。
「ただでさえ、これまでで一番強いモンスターなのに数までいるとなると……」
普通に考えると倒すのは厳しいのだが……。
「奴らが倒されたなら新しいあれを試すチャンスだな」
今まではウォルターたちの目があったので使えなかったが、新スキルを手に入れた今となっては試してみたくて仕方ない。
ましてや、目の前にはレッサードラゴンという経験値の塊のようなモンスターが首を差し出しているのだ。
「職業は……魔道士になってるな?」
俺はステータス画面を確認する。
「『アイスウォール』『魔力集中』」
魔力が上がっているお蔭もあるのだが、例のスキルの影響も感じられる。
「いけるっ!」
徐々に距離を詰めてくるレッサードラゴン。その背後に何かが動くのが見えたが、アイスウォール越しなのではっきりとわからない。
いずれにせよ、ここで倒しきってしまわないと街に被害が行くので加減をする意味はない。
俺はてのひらをレッサードラゴンに向けると、
「『ファイアバースト』」
次の瞬間、暴力的なまでの威力の爆風が放たれた。
マロンの魔法よりも明らかに威力が高く、広範囲を攻撃している。
俺が張ったアイスウォールを一瞬で壊したそれはレッサードラゴンへと到達すると、
—―ドッゴオオオオオオオオオオオオオオッン!!!!!—―
「「「「「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」」」」」
「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」」
レッサードラゴンとその背後にいた影は悲鳴を上げて吹き飛んでいった。
「これは……流石に威力がやばすぎるな……」
爆発の跡をみて、俺はこのスキルの組み合わせのやばさに開いた口が塞がらなくなるのだった。
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