第30話 『パワーアップスクロール』
「ふぁ……眠くなってきた……」
懐中時計を見ると、もうすぐ朝になることがわかる。
俺は遊び人のレベルと運を上げる為、再び三層に籠っていた。
深夜の三層は相変わらず空いている。俺は他の冒険者の目を気にしつつ自身に『スピードアップ』と『スタミナアップ』を掛けると、剣で戦士コボルトと戦士ゴブリンを屠りまくっていた。
「全体的にステータスが伸びてきたからな、ここらのモンスターは余裕になってきたな」
支援魔法で敏捷度も上がっているので湧いた傍から近付き剣の一振りで片付けられる。マナポーションは最小限でしか使わないので、魔石が落ちた分だけ収入になる。
「少なくとも金銭的にはかなり余裕が生まれてきたな」
この調子ならギルドにしている借金を早く返せる。そんなことを考えていると……。
「出たあああああああああああっ!」
「「「!?」」」
明け方のテンションで大声を出したせいで、周囲で狩りをしていた冒険者たちが一斉に俺を見た。
その表情には怯えが見え、俺が見るとそっと顔を逸らす。
俺はドロップボックスを開けて中を覗き込むと……。
『パワーアップスクロール』
「おおっ!?」
前回の外れと違って有用なスキルのスクロールがでた。
このスキルスクロールがあれば緊急時に自身の力を上げてくれるので冒険者が重宝している。
『ファイアアロー』は威力が自分の魔力に依存しているのは間違いないが、支援スキルは魔力依存ではないらしく、ソロで使ってもそこそこの効果が得られるとか。
冒険者ギルド価格で言うと銀貨25枚になるので普通に売っても美味しいのだ。
「そうだ……ステータスは?」
恐らく現在の運のステータス付近がドロップボックスが落ちる条件なのだろう。俺が慌てて確認すると……。
「運330+75か……。多分400超えたあたりかな?」
明け方で眠かったせいでレベルが上がっていることを見逃していたが、戦士コボルトは現在のステータスでスクロールを落としたことは間違いない。
「これは売るよりも取っておいて使うべきだな」
まだ自分で扱えないスキルだけに貴重なので確保しておいた。
「こうなったらこっちのものだ! 狩り尽くしてやるっ!」
完全に目が覚めた俺は立ち上がるとその場に湧くモンスターを凄い勢いで狩り始めるのだった。
「うーん、レベル上げがきつくなってきたな……?」
三層でスクロールが出るようになってから三日目。俺はステータス画面をみて悩んでいた。
「遊び人レベル21、以前籠った時は三日で魔道士を25まで上げたのに明らかに上がり方が違う」
ステータスで見てもあの頃より強くなっているので、狩ったモンスターの数は落ちていないはず。にも拘わらずこうまでレベルが上がらないということは……。
「職業ごとに必要な経験値が違うということか?」
そう結論づけるしかない。
「一応目標は25までだったんだけど……」
今日の狩りを切り上げたら二日休むようにサロメさんから言われている。
そうすると、ウォルターとの対決まで残り1週間を切る。
まだ上げやすい『商人』と『斥候』を残しているからにはそちらを優先してステータスを上げるべきだろう。
「仕方ない、一旦次に行くとするか……」
幸いなことに転職しても良いレベルの想定は越えている。俺は『商人』へと転職するのだった。
「あれ? ティムさん、今日はお休みのはずではなかったんですか?」
あれから、ダンジョンを切り上げて宿で寝ていた俺だったのだが、どうしても気になる部分があったので冒険者ギルドの資料室に来ていた。
「ええ、そのつもりだったんですけど、少し調べ物をしたくて」
「ティムさん、熱心なのは良いけど休むべき時は休まないと……」
呆れた様子を見せたサロメさんはそれでも俺の横にくると……。
「それで、何を知りたいんですか?」
どうやら付き合ってくれるつもりらしい。
「スキルについてなんですけど『遊び人』や『商人』ってどんなスキルがありますかね?」
「商人はわかるとして……遊び人? それって真面目な質問ですか?」
俺の質問に彼女は首を傾げる。無理もない……。
「いや、わからないならそれはそれでいいです」
あくまで冒険者の役割として『戦士』『斥候』『魔道士』『僧侶』と共通認識されて使っているが、戦士のスキルと魔法スキルを同時に使う人間も、僧侶の支援スキルと斥候の罠感知スキルを使う人間もいたりする。
職業スキルは『このスキルを使えるからこの職業だろう』という程度の認識でしかないのだ。
俺のようにステータス画面が見えるわけではないからには、あくまで冒険者が組む時に『自分は何ができる』という役割をはっきりさせる程度のものでしかない。
つまり、戦闘をしないので冒険者をしない商人とそもそも認識すらされていない遊び人についてはスキルの情報がほとんどなかったりする。
「商人のスキルについては商業ギルド経由で情報を調べておきますよ」
「ありがとうございます。助かります」
遊び人に関しては不明のままだが、現状スキルを取得すらしていないので問題ない。これまでなくても困らなかったので、情報がつかめるまで保留で良いだろう。
「そうだティムさん」
早速情報を得に行くつもりなのか部屋から出たサロメさんだったが、入り口から顔を覗かせる。
「ん、なんでしょうか?」
「今日は私もそろそろ上がる予定なんですけど、もし良かったら飲みに行きませんか? おばさんがティムさんに会いたがってるんですよ」
そう言えば最後にサロメさんと行ったきりだったことを思い出す。
「そうですね、俺はここで待ってるんで終わったら呼びに来てください」
「わかりました。それじゃあパパっと仕事終わらせてきますね」
サロメさんはそう言うと鼻歌を歌いながら立ち去って行く。
前回は二日酔いになってしまったので、今回は呑み過ぎないように注意しようと考えるのだった。
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