第10話 Eランク冒険者に昇格

「………………納得がいかない」


 宿に戻った俺は愚痴をこぼした。


「今日の討伐がコボルト101匹とゴブリン42匹」


 コボルトは一度で多くても3匹、大体は1匹で行動しているので狩りやすかった。

 お蔭で俺は調子よく狩りを進められレベルも3つほど上がったのだが……。


「得られた魔石がコボルトから4つ、ゴブリンから1つってどうなってるんだ?」


 他の連中を見る限り3~5匹倒せば1個は魔石を得ていた。


「おまけに……」


 魔石を冒険者ギルドで換金する際にウォルターとばったり出くわしたのだが、奴は俺が持ち込んだ魔石を見るなり鼻で笑ったのだ。


「今日は傷の治療をヒーリングに頼ったからポーションの使用はない」


 コボルトの魔石は銀貨4枚なので本日の収入は――


 ・コボルトの魔石4×銀貨4=銀貨16

 ・ゴブリンの魔石1×銀貨2=銀貨2


 ――合計で銀貨18枚だ。


「……よく考えると結構おいしい収入か?」


 一人でダンジョンに潜っているので分け前を気にする必要がない。収入だけを見てみれば中々の稼ぎではなかろうか?


「それにしてもあれだけ狩って魔石が5個とは運がないというか…………。まてよ?」


 俺はステータスを確認する。特に注目すべきは『運』だ。


「レベルが上がってきたことで数字も小さくなって来てるけどまだ-6か」


 筋力が上がることで攻撃の威力が上がり、体力が上がることでバッシュなどのスキルを多く使えるようになっていると俺は何となく感じていた。


 どうやらステータスの項目にはすべて何らかの意味があるらしいので、当然この『運』も重要な要素となるはずなのだが……。


「いや……これが原因だとして、上げるか?」


 今日はステータスを振り分けようと考えていたのだが、バッシュでコボルトを一確させるため『筋力』を上げるつもりだった。


 感触から考えてあと少し筋力に振ればコボルトを一確できるようになる。

 倒すまでの手数が半分に減ればそれだけ回数をこなせるようになるのだ。


 さらに言うならあれだけ狩ってもレベルが3つしか上がらなかったことを考えると『取得経験値増加』のスキルを持っていても段々とレベルを上げるのがきつくなってきている気がする。

 つまりここで下手な選択をすれば今後のレベル上げに支障が出る可能性もある。


「どっちが正解だ?」


 この『運』のせいで魔石が落ちない可能性は高い。

 だが、もし『運』に振っても魔石が落ちなければ?

 無意味なステータスを振ったばかりに自分の首を絞めるのはごめんである。


 何度か他のパーティーが魔石を拾っている姿を目撃したが、その目撃回数だってそんなにない。

 彼らの方こそ運が良くたまたまだった可能性もある。


「せめて何らかの確証が得られればな……」


 俺はステータスを振るべきかどうかで一晩中悩み続けるのだった。





「さて、今日もやるか」


 ダンジョンの二層に到着すると俺は気合を入れた。


「毎日こうして通っていると段々慣れてきたな」


 今日は二層に来るまでの間にゴブリンを15匹倒してきた。

 最小限の戦闘回数で済んだのは既に一層の構造は頭に入っているからだ。他にはゴブリンを普通の攻撃だけで倒せるようになったというのもある。


「おっ! 早速コボルト発見」


 進んでいるとコボルトと遭遇する。


 こう毎日顔を合わせていると恐怖も薄れる。

 昨日さんざん倒したお蔭か、足に力が入っているのをみて突進してくるのが予測できる。


『ガアアアアアッ――』


「バッシュ!」


『ギャフン!』


「よし、一確だ!」


 昨晩、けっきょく俺は『運』にステータスを振り分けないことにした。

 魔石をモンスターが落とすかどうかの関連性が証明されていなかったし、何より……。


「魔石が落ち辛いなら倍倒す!」


 そちらの方が確実だったからだ。


 コボルトを一確できるようになった俺はどんどんと進むと現れるコボルトを屠っていく。

 途中、先日見かけた冒険者パーティーとも出くわしたのだが、俺がコボルトを狩っている様子を見るとギョッとした顔をしていた。


 俺はこの二層に出現するコボルトを狩り尽くす勢いで剣を振り、ひたすらコボルトを倒し続けるのだった。




「今日はコボルトが252匹にゴブリンが25匹か……」


 狩りを切り上げてきた俺は冒険者ギルドの椅子に座り呼ばれるのを待っていた。


「ステータスはというと……」


 待っている間暇なのでステータスチェックをしておく。



 名 前:ティム

 年 齢:16

 職 業:戦士レベル15

 筋 力:108+30

 敏捷度:78

 体 力:78+30

 魔 力:16

 精神力:38

 器用さ:62

 運  :-5

 ステータスポイント:40

 スキルポイント:89

 取得ユニークスキル:『ステータス操作』

 取得スキル:『剣術レベル5』『バッシュレベル5』『ヒーリングレベル3』『取得スキルポイント増加レベル5』『取得ステータスポイント増加レベル5』『取得経験値増加レベル5』『ライト』『罠感知レベル5』『罠解除レベル5』『後方回避レベル5』


 レベルが4も上がっており、振り分けたステータスポイントも回復している。


「ん、なんだこれ?」


 既に取得済みのスキルが変化していた。


 これまで『★★★★★』だったものが『★★★★★☆』になっている。


「上限が解放された?」


 こうなっているのは『剣術』と『バッシュ』だけだ。恐らく戦士レベルが上がったことで表示されたに違いない。

 どちらも有用なスキルなので俺は迷わずにスキルポイントを注ぎこんだ。


「ん? 今一度に2もスキルポイントが減ったような……?」


 気のせいかと思ったが、さきほどまで『89』あったスキルポイントが現在は『85』になっていた。


「とりあえず『剣術』と『バッシュ』のレベルは上がっているけど……」


 これ以降のレベルを上げる際にはスキルポイントが複数必要になっているようだ。

 余ってきたから他のスキルを取得しようかと思っていたが、この先も解放されるかもしれないことを考えると早計だった。


 なんとなくで取得しなかったのは運が良かった。


「ティムさん、お待たせしました」


 いつもの受付嬢から声が掛る。

 俺はステータス画面を消して彼女の前に立つ。


「今日はコボルトの魔石12個とゴブリンの魔石2個ですね。合計で銀貨52枚になります」


 大量の銀貨が積まれたトレイが差し出される。

 10枚の束が5つに別で2枚。分かりやすく並べられている。


 俺が銀貨を袋へと仕舞っていると……。


「あとこちらがお預かりしていたギルドカードです。おめでとうございます、昇格してEランクになりました」


「ありがとうございます」


 ギルドに納めた魔石が規定数を超えたらしく、俺は約一年ぶりにランクを上げた。


「最初はゴブリン相手に苦戦していて途中で辞めるか死ぬんじゃないかと心配してましたけど、最近のティムさんの仕事ぷりは凄いですよ」


「そ、そうなんですか?」


 食い気味に話し掛けてくる受付嬢から距離を取る。


「冒険者ギルドがまとめているデータだとモンスターを討伐した際、5匹に1匹が魔石を。100匹に1匹がアイテムを落とすんです」


「へ、へぇ~。そんなデータがあるんですか」


 思わず声が上ずった。


「まあ、あくまで冒険者さんに討伐数を申告してもらった数を元に計算しているのでばらつきはありますけどね」


「な、なるほど……」


「普通、Eランク相当の冒険者パーティーがダンジョンに入って一日で取ってくるコボルトの魔石は15個程度なんです。つまり75匹を相手にしているわけですよ」


 俺は今日一日で250匹あまりのコボルトを倒したわけなんだけど……。


「つまり、ティムさんは一人でパーティーと同じ数を狩っているってことになるんですよ」


 その三倍以上狩ってますと伝えたらこの受付嬢はどんな顔をするのだろうか?


 そんなことを考えていると、ふと嫌な考えが浮かぶ。


「どうかされましたか、ティムさん?」


 受付嬢が俺の顔を覗き込んでくる。


「いや、ちょっと疲れが出たみたいで……そろそろ帰ろうと思います」


「あっ、ごめんなさい。引き留めてしまって」


 俺は受付嬢に挨拶をするとその場を立ち去る。そして宿に着くと……。


「やっぱりこいつのせいじゃないかっ!」


 明らかにおかしい魔石取得確率の原因である『運』を睨みつけると叫ばずにはいられなかった。

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