第6話 『虹の妖精亭』
「お疲れ様でした。報酬の銀貨十枚になります」
「ありがとうございます」
お礼を言いながら銀貨を受け取り袋へとしまう。
何気にこれまで冒険者をしてきて最大の収入だったりするので嬉しい。
だけどそれを表情に出すと笑われそうなので平静を取り繕った。
「あの、何か?」
気が付けば受付嬢と目が合った。渡し終えた後も俺のことを見ていたようだ。
「いえ、本当にコボルトを倒してきたんだなと思いまして……」
万年ゴブリン狩り専門の俺がコボルトまで倒したことに驚いていただけらしい。
「最近ちょっとコツを掴んだみたいなんですよ」
スキルを得ることができたので嘘は言っていない。稼ぎの差を考えるならこれからはコボルト討伐依頼をメインにしても良いかもしれない。
そんなことを考えていると受付嬢が話を続けてきた。
「そうだ、こちらをお渡ししておきますね」
「なんですかこれは?」
銀色に輝くプレートが付いた鎖だった。
「冒険者はコボルトを討伐してようやく戦力として認められます。こちらはその証でして、ギルドと提携している宿や酒場で見せると支払い時に値引きを受けることができます」
どうやら俺は今までギルドの戦力としても見られていなかったらしい。ゴブリンしか討伐していなかったので知らなかった……。
「ありがとうございます、それで提携している店というのは?」
「ここをでて左手に行った数軒先の『虹の妖精亭』ですね。入店の際に初めてコボルトを討伐したことを伝えていただければサービスしてもらえるはずですよ」
それはとてもお得な情報だ。今まではその日を生きるのに必死だったので安宿で出される食事しか食べられなかった。
銀貨十枚も手に入ったのだから多少は使っても構わないか……。俺は少し考えた末受付嬢にお礼を言う。
「ありがとうございます。それじゃあせっかくなんで立ち寄ることにします」
「いらっしゃいませーー!」
店内は活気にあふれていた。
ぼちぼち陽も傾いてきていたので、依頼を終えた冒険者たちが店をにぎわせている。
酒が入っているのか大声でその日の冒険の反省会やら成功話をしているのが聞こえてくる。
「お客さんは初めてですよね?」
店員さんが現れ、俺の顔を見てきた。
「わかるんですか?」
「ここは新人を卒業した冒険者しかこられませんからね、見たことない顔がくればわかりますから」
そう言われて受付嬢から受け取ったプレートのことを思い出す。
「実は今日初めてコボルトを討伐したんです」
「おっ! おめでとうございますっ! それじゃあ、特別席に案内するので当店自慢の料理と酒を楽しんでください」
俺は店員さんに祝福されるとそのまま階段を上がって二階へと連れていかれた。
「二階の席は本来はゴールド以上のプレートを持っていないと入れないんですけど、始めてコボルトを討伐した冒険者はここに通すことになっています」
二階は下と違って落ち着いた雰囲気で酒を楽しむ冒険者がいる。店員さんの話だと彼らはゴールドプレートを持つ、つまり高ランク冒険者ということになる。
「それじゃあ、早速スペシャルコースを持ってきますので座ってお待ちくださいね」
待っている間、俺は落ち着かない。同じ階には明らかに自分より上位ランクの冒険者がいるのだ。
万が一目を合わせて不興を買ったらどうなるか……。
しばらくの間、下で飲んでいる人たちを見ていると恰幅の良い女性が料理を運んできた。
「はいよっ! 当店自慢の料理盛り合わせとエールだ。おかわりが必要なら声をかけておくんな」
四人掛けのテーブルにこれでもかというほど並べられた料理と並々に注がれたエール。
「こんなにたくさん……いいんですか?」
思わず聞き返してしまう。
「この街で育った冒険者たちはうちの子も当然だからね。今日だけは無料で振る舞うけど次からは有料だから。早く強くなってこうして食べられるようになりなさいってことだよ」
そう言って笑って見せる。
確かにこんな贅沢を覚えてしまえばまた味わいたくなるに違いない。
「ありがとうございます。またこられるように頑張ります!」
俺はそう言うと料理へと取り掛かるのだった。
「美味いっ! こっちも美味いっ! これも最高だっ!」
手に付ける料理のどれをとっても今まで食べたことがない美味しさだった。
揚げ物は嚙みしめるたび肉汁が口いっぱいに広がるし、串焼きも塩が効いていて病みつきになる。程よく茹でた枝豆はほくほくしている。
それらを食べたあとに飲むエールのほろ苦さが口に残った余計な脂を洗い流してくれる。
酒を呑むのは十五歳で成人となり冒険者になる前の一度だけ。その時とは比べものにならないくらい喉ごしが良く、下で楽しそうに騒いでいる人たちの気分が理解できた。
料理を堪能し、エールを数杯呑んで初めて体験する酔いを楽しんでいると……。
「ティムじゃねえか、どうしてお前がここにいる?」
振り返ると、ウォルターとレッドとマロン……そしてグロリアがいた。
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