TS魔法少女オトメリッサどもは漢気を取り戻したい

和泉公也

第一章

序章

 外からは雷鳴が轟いている。

 暗い屋敷の地下室、僕は何故かこの場所に連れてこられた。

 人は一応住んでいるらしい。が、その広さの割にどこか静寂すぎて非常に不気味でしかない。

 僕は心を落ち着かせて、暗い階段をずっと降りて行った。

「ここ、かな?」

 降りた先にドアがあって、ノブをガチャリと回してそこを開けた。

「おう、遅かったなッ!」

 大柄な黒いタンクトップ姿の男性が、腕を組みながらソファに座っていた。

「チッ、やっと来たか」

 金髪の、僕と変わらない年頃の少年が、バツが悪そうに睨みつけてきた。

 ちなみに、彼とは面識がある。

「これで全員、か?」

 今度は眼鏡を掛けた、青髪の男性。見たところ僕よりも少し年上ぐらいだ。

「あ、よろしくお願いします……」

 緑色の髪の、小柄な少年がペコリと頭を下げてきた。こんな小さな子もいるのか。


 ――そして。


「よろしくお願いしまぁぁぁぁっぁっす!」


 どうしてよいのか分からないから、とりあえずは元気よく挨拶しておこう。

 さて――、

 僕たちは何故ここに連れてこられたのだろうか。

 先日起こった、「あの事件」に関することなのだろうけど、一体全体、何がどうなっているのか、僕には全く把握できていない。

 そもそも、だ。


 僕は、一体、誰なんだ――?


 あの事件があった直前から、僕の記憶はほとんど無くなってしまった。記憶が無くなった理由さえも正直覚えていない。ま、記憶喪失なんだから当たり前か。

 とりあえず、と僕は空いているソファに座り込んだ。

「全員揃ったようね」

 部屋の奥から、女性の声が聞こえてきた。

 黒くて長い髪に、痩せ気味の体系。右目は眼帯をはめており、左目の下には隈が出来ている。見た感じあんまり健康的ではない。更には薄汚れた白衣の下は白と黒のワンピースという謎のファッションセンスをしている。こんな人、記憶喪失でなければ一生忘れないだろう。

「出たな、てめぇ」

「どういうことか早く話を始めろ」

 金髪の少年と青髪のお兄さんが威圧的に睨みつけた。

「分かったわ、それじゃあこれを見て」


 そう言うと、天井からモニターのようなものが音を立てて下がってきた。

 女性がリモコンを押すと、何かが画面に流れる。



「オトメチャージ、レディーゴー!」


 五つに分割された画面から、同じ台詞が別々の声で流れ始めた。


 右上の画面からは、青い髪のサイドテールの少女が淡い光に包まれて、やがて白と水色の、ややレオタード状の衣装にスカートがついた恰好へと変貌していく。

「くっ……」

 青髪のお兄さんが嗚咽を漏らした。


 左下も同様に、今度は金髪のツインテールの少女が淡い光に包まれたか思うと、今度は黄色い衣装に変貌する。上下別のセパレート状の衣装で、下はスカートになっている。

「おい、これを流すんじゃねぇよッ!」

 金髪の少年が赤面しながら怒鳴った。


 左上の画面には、緑色のポニーテールの少女がまたもや淡い光に包まれていて、やがて黄緑色のチューブトップ状の衣装にストールを羽織った姿へと変わった。

「は、恥ずかしいよ……」

 緑髪の小柄な少年が俯きながら呟いた。


 右下の画面に映っていたのは、黒いショートヘアの少女だった。同じように淡い光に包まれて、やがて黒いチャイナドレスを思い出させるような衣装に変化した。

「おう、こんな風になっていたのか」

 大柄なタンクトップの男が高笑いしながら言った。


 ――そして。


 中央の画面に映っていたのは、ピンクのロングヘアの少女。彼女もまた、淡い光に包まれたかと思うと、ピンクと白のセーラーワンピース上の衣装が露わになった。


 ここに移った彼女らは、決してアニメでも特撮でもない。

 紛れもなく実在する人物だということは痛いほどに理解している。

「全員、見たかしら?」

「見たかしら、じゃねぇよッ! 恥ずかしいんだよこれッ!」

「……本当にどういうつもりなんだ?」

 青髪のお兄さんが尋ねると、女性は顔を見上げて僕らの方を向いた。


「今見せたのが、あなたたちがこの間変身した姿、そうよね?」


 ――そうだ。


 このピンクのロングヘアの少女――。

 これは紛れもない僕自身の姿だ。


 この変わった恰好をした美少女に変身して、僕はよく分からない悪者と戦った。


「水生生物の力を秘めた魔法少女、オトメリッサ・マリンこと、蒼条そうじょうかいさん」

 青い髪の少女が画面いっぱいに映し出される。

「うぐっ、こんな恥ずかしい姿を……」

 青髪のお兄さんが恥ずかしそうに俯いた。


「植物の力を秘めた魔法少女、オトメリッサ・リーフこと、緑山みどりやまようくん」

 画面が緑髪の少女を映し出した。

「は……、はい……」

 小柄な少年が恥ずかしそうに小声で返事をする。


「虫の力を秘めた魔法少女、オトメリッサ・インセクトこと、黒塚くろつかかぶとさん」

 画面が黒髪の少女を映し出した。

「おう!」

 タンクトップの男が意気揚々と返事をした。


「獣の力を秘めた魔法少女、オトメリッサ・クローこと、黄金井こがねいそうくん」

 画面が金髪の少女を映し出した。

「だからやめろって言ってんだろッ!」

 金髪の少年がまた怒鳴った。


 やはり、そうだ。

 この映し出された少女たちの正体――、それこそが、ここにいる彼らだ。


 そして、僕自身も――。


「そして、鳥の力を秘めた魔法少女、オトメリッサ・ウイングこと、桃瀬ももせつばさくん」

「は、はいッ!」

 とりあえず返事をしておこう。



「あなたたちには皆で協力して、魔法少女“オトメリッサ”として『闇乙女族やみおとめぞく』と戦ってもらいます!」


 ――えっと。

 女性は強い口調でこう言っているけど。


 皆、なんか戸惑っている様子だ。無論、僕も戸惑っている。

 この不思議な状況を理解するのにはかなり時間がかかるけど……。


 そもそもの発端となった一週間前の出来事を、僕は思い出した――。

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