破滅龍 001
異変に気付いたのはウェインさんだった。
「
「……大きな魔力が二つ、それに加えて複数の魔力が渦巻いています」
ウェインさんは立ち止まって目を閉じた。恐らく探知系の魔法を使っているのだろう。
「……どうやら、数十人の冒険者が魔法を発動しているようです。トラブルが起きているのは確かですね」
言って。
彼女は、腰の刀に手をかける。
「レーバンさん、私は先に行って様子を窺ってきます」
「あ、それなら僕も――」
身体強化魔法を使えるので一緒に走りますよと言う前に、ウェインさんの姿が消えた。
ほとんど瞬間移動に近い速度だ……とてもじゃないが並走なんてできない。
「……」
しばらく呆然と立ち尽くしてしまったが、後を追うため【レイズ】で脚力を高める。探知魔法が使えない僕にはこの先がどうなっているのか見当もつかないけれど、急いで向かった方がいいのは確かだ。
「おい、ベス!」
山道を颯爽と駆けながらベスの名を呼ぶも、返事がない。緊急の時以外起きないと言っていたが、まだそのタイミングではないということか。
ウェインさんの勘違いや杞憂って線も……いや、それはないか。あの人は三大ギルドのサブマスターだ、無根拠に突っ走るはずがない。
ならば――やはり。
「竜の闘魂」で、何かが起きている。
◇
僕が事態の深刻さを認識できたのは、それからしばらく経ってからだった。いくら魔法によって脚力をあげたからといって、僕如き魔力では程度も知れている。故に、完全に出遅れる形で、「竜の闘魂」ソリア支部に辿り着いた。
否――正確を期して表現するなら、僕は辿り着くことはできなかった。
ギルドが、全壊していたのである。
「――っ」
ベスとジンダイさんが喧嘩をした時のような、建物の形がわかる崩壊の仕方ではない――完全に、跡形もなく、瓦礫と化している。
周りには、力なく倒れる何十人もの冒険者たち……何人かは見覚えのある人物もいるが、ジンダイさんやエジルさん、それにウェインさんの姿はない。
くそ、僕はどうしたらいい……街に戻って軍を呼ぶ? でも、自力で戻ったら時間が掛かり過ぎるし……魔動四輪に乗れればいいのだが、運転もできなけりゃ酔ってしまう始末だ。
とりあえず、倒れている人たちの救護を優先した方が――
グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼
突然、鼓膜をつんざく轟音が空気を揺らす。
今のは、咆哮?
何らかの生物が唸りをあげたような、そんな声に聞こえたけれど……。
「レーバンさん‼」
今度は確実に聞き取れる人間の声が、頭上から聞こえてくる。
見上げれば、氷でできた大きな鳥に乗ったウェインさんが、僕目掛けて急降下しているのが目に入った。
そして。
彼女の奥――遥か上空に、小指の先程の大きさをした物体が二つ。
その二つは見る見るうちに大きさを増し――地上へ向けて近づいてきた。
「レーバンさん、乗って‼」
先行していたウェインさんが右手を伸ばし、僕を氷でできた鳥の上に引っ張り上げる。そして乗り心地を無視した急発進で再び空へと飛び去った。
「ウェ、ウェインさん! 一体何がどうなってるんですか!」
「話は後です! 今はとにかく、彼を倒すことだけを考えてください!」
彼、というのは、恐らく「竜の闘魂」を滅茶苦茶にした犯人のことなのだろう……けれど、その言い方じゃあまるで、たった一人の人物がギルドを壊滅させたみたいじゃないか。
「っ! しっかり捕まっててくださいよ!」
何かを察知したウェインさんは、一気に方向転換して宙返りを披露する。捕まるところなんてない僕は仕方なく彼女の細い腰をホールドするしかなかったが、乗り物酔いしそうで幸せを感じる暇はなった。
直後――紫色をした魔力弾が僕たちを掠めていく。
間一髪胸を撫で下ろしつつ、攻撃の放たれた方を見れば。
そこには、二体のドラゴン。
一体は見覚えがある……鋼鉄の鎧を纏ったような漆黒の風体と、全身を覆う荒々しい棘。ジンダイさんが操るドラゴン――鎧龍ヴァルヴァドラだ。
ということは、敵はもう一体の方。
紫紺の色をした鱗と額に生えた角が特徴的な、細く長い蛇のような身体をくねらせるドラゴン。
そして、その頭上に仁王立ちしている黒髪の男。
「ウェインさん、あの男は誰なんですか? あいつがたった一人で、ギルドを壊滅させたんですか?」
「……あの人は、エール王国最強のドラグナー……彼の操るドラゴン、紫電龍イザナギは、全てを破壊する最悪の龍と呼ばれています」
「最強のドラグナーと、最悪の龍……」
その肩書を、僕は知っていた。
僕だけじゃない、エール王国にいる冒険者なら、誰もが一度は耳にする――そんな存在。
ウェインさんは男を見据えながら、苦虫を嚙み潰した顔で口を開く。
「彼は『竜の闘魂』のギルドマスター。闇ギルドへとその身を堕とした、ラウドさんです」
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