魔導大会 003
「では時間になりましたので、みなさん速やかにダンジョンに移動してください~。制限時間は六時間です~」
そんなゆるっとしたエリーゼさんの合図とともに、冒険者たちが一斉に走り出す。
「ここからは敵同士ですからね、クロスさん! そちらにはベスさんがついていますが、負けませんよ!」
ニニはかっこいいセリフを残し、獣人特有の軽い身のこなしで颯爽と駆けていった。
僕はと言えば、まあ無理して急いでも仕方がないしゆっくりいこうと決め、マイペースに魔法陣へと向かう。
「いや、走れよお主。何を余裕ぶっこいておるんじゃ」
休憩から目覚めたベスが杖の中から罵倒してきた。
「時間はたっぷりあるんだし、せかせかしても意味ないだろ? 僕たちは優勝を目指してるんだから、どっしり構えていこうぜ」
「……お主、現実から目を逸らそうとして変に達観するモードに入っておらんか?」
見抜かれた。
いやだって、マルコさんに負けたら五百万Gの負債を抱えることになるんだよ? とても正気ではいられない。
「安心しろ、儂がついておる。ダンジョン内に放たれているというA級の召喚獣を根こそぎ倒せば、優勝は堅いじゃろ」
「そこの説明は聞いてたんだな」
「まあ、寝ぼけ眼でうつらうつらとな……ちなみに、マルコに喧嘩を売っていた女がいたじゃろ?」
「ああ、綺麗な髪の色をしたお姉さんな。あの人がどうかしたのか?」
「儂が見るに相当の手練れじゃ。まあ人間の中でという話じゃが……あれはジンダイに匹敵する魔力を持っておる」
「まじ?」
「
まあ元々、この魔導大会は腕試しの側面が強いというし、力のある冒険者が集まっていても不思議じゃないとはいえ……超有名ギルドのサブマスターレベルか。
ベスの見立てに間違いはないだろうから、あのお姉さんは優勝候補の一人に数えた方がよさそうだ。
「まあどんな猛者がこようと、儂にとって問題ではない。問題は、じゃからお主がやる気なくトボトボと歩いておることじゃ。あの女に先を越されて召喚獣を倒されたら堪ったもんではないぞ」
「……あいわかりました」
僕はベスにせっつかれ、重い足を進める。
◇
ほとんど最後尾でダンジョン内に入った僕を待ち構えていたのは、何と言うか、想像すらしていなかった光景だった。
氷。
巨大な氷の塊が、周囲の木々を薙ぎ倒して天高くそびえていたのだ。
「……」
その氷の上に――人影。
青い髪をした綺麗なお姉さんと。
氷漬けにされたマルコさんがいた。
「そっくりそのままお返しすると言ったはずですよ……まあ、聞こえていないでしょうが」
軽やかな素振りで地上に降り立った彼女は、ダンジョンに入ってきたばかりの僕と目が合う。
「あなたは、さっきの……」
もしやマルコさんと賭けをしていた僕のことまで氷漬けにする気だろうか? それはいくら何でもとばっちりだと思いかけたが、魔導大会で賭博をするなと言っていた彼女にしてみれば、どちらも同じ穴の貉だ。
自然と全身に緊張が走る。
「……カイ・ハミルトンという方をご存じですか?」
「……え?」
思わぬ名前の登場に、一瞬で力が抜けてしまった……えっと、カイさんのことだよな?
「はい、知っていますけれど……ソリアの市長ですよね? 僕、あそこの役所で未踏ダンジョン探索係をやっているので」
「ああ、やっぱりそうだったんですね」
青い髪のお姉さんは、得心がいったという風に頷く。
「杖を持った青年と猫耳を生やした獣人が、この魔導大会に参加すると聞いていたんです。その二人と杖の中にいるエルフが、闇ギルド『
「そう、だったんですか……。えっと、僕はクロス・レーバンと言います。杖の中のエルフはエリザベス、森を走り回っているであろう獣人がニニ・ココです」
「ご丁寧にどうも。私は『
……ん?
今の短い自己紹介の中で、とんでもない単語が二つ程出てきたような……「天使の涙」のサブマスター? このお姉さんが?
「うちのシリーのことではご迷惑をおかけしてすみませんでした。まさかあの子がギルドを抜けるなんて……」
「あ、いや、迷惑とかは全然……」
どうやら聞き間違いではなかった。
目の前にいる青い髪と瞳をした綺麗なお姉さんが、この国の三大ギルドの一つ――「天使の涙」のサブマスターらしい。
……気まずい!
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