旅立ち 002
ダンジョン。
この世界の各所に点在するそれは、僕たちの生活になくてはならない存在だ。内部に生成される魔石やモンスターから採れる素材は、貴重な資源としてエール王国を支えている。
僕たち冒険者の仕事は、ダンジョンを攻略して資源を回収することだ。
勇者であるシリーもそれは変わらない。
ちなみに、「勇者」とは国から与えられる高位役職のことである……僕の「戦士」のような下位役職とは違い、名誉ある称号として崇められているのだ。
他のパーティーメンバーはみな中位役職で、そういった面でも僕は軽んじられている。
「下位役職のあなたが私たちと同じパーティーだなんて、反吐が出ますわ」
「ええ本当に。シリー様の幼馴染でなければ、今すぐ追い出しているところですの」
白魔術師のメリルに黒魔術師のレイナ……二人はよく、そんな風に僕をなじってくる。
爆撃師のアンガスだけは特に何も言ってこないけれど、あれは単に僕に興味がないから無視しているだけなのだろう。正直、その方が幾分かありがたい。
ダンジョンに潜れば役立たずと罵られ、ダンジョンの外では雑用を押し付けられる……村に戻ることも考えたが、村の英雄であるシリーのパーティーを抜けただなんて言ったら、村長たちに何をされるかわかったもんじゃない。
……なんて、理由をつけて勇者パーティーに留まり続ける僕は、結局他にやりたいことがないのだろう。
それなりに生きられれば、充分だ。
◇
現在、僕たちはB級ダンジョンを攻略している。
このC級やB級といった難易度は国によって定められ、出現するモンスターのランクによって決まることがほとんどである。中には例外もあって、あまりに危険な地形が生成されていた場合、高難易度に設定されることもあるらしい。
そう、生成。
ダンジョン内の空間は、最深部にあるダンジョンコアによって作り出されている魔法空間なのだ。付け加えるなら、モンスターや各所に散らばる魔石に至るまで、全てダンジョンコアと呼ばれる物体が自ら生成しているのである。
コアについての詳しいことは解明されていない。いつから存在するのか、なぜ存在するのか……だが、そんなことは僕たち冒険者には関係ないことだ。
僕たちの仕事は、ダンジョンを攻略して資源を集める――ただそれだけ。
「ほら、グズグズしないでください! あなたが先頭に立たないでどうするんですか!」
「こんなところでへばるなんて、これだから下位役職は嫌なんですわ!」
そんな仕事の真っ只中、度重なる戦闘によって疲弊した僕の背中を、メリルとレイナが蹴り飛ばす。
階層は二十九階層目……多くのB級ダンジョンは三十階層でできているので、恐らく次のエリアが最深部である。
ダンジョンに潜り始めてから一週間。やっと攻略という一歩手前で、僕は体力の限界を迎えようとしていた。
今日も今日とて、モンスターの攻撃は全て僕のところに飛んでくる……いくら前衛が一人とは言え、中々ハードな状況だ。
「いつまで休憩すれば気がすむのよ、クロス」
剣を杖代わりにして立ち上がると、背後からシリーの冷たい声が響く。
「……ごめん、シリー。もう少しだけ待ってくれ……」
「またあなた、シリー様を呼び捨てにして! 幼馴染だからって馴れ馴れし過ぎますわ!」
「身の程を弁えなさい、このグズ! 弱者は弱者らしくするのが礼儀ですわ!」
お決まりのように二人の魔術師が蹴りを入れてきた。
まだ最深部での戦いが残っているというのに、そういう事情は考えてくれないようだ。
「……すみませんでした、シリー様」
事を荒立てぬよう、僕はシリーに向かって頭を下げた。
……これでいい。
下手に逆らって揉め事が起きたら面倒だ……僕はただ、与えられた役割をこなすだけでいい。
「……本当に、つまらない男」
そんな僕を見て。
シリーは、吐き捨てるようにそう言った。
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