公務員冒険者は安定したい! ~勇者パーティーを追放されたから公務員になったのに、最強エルフや猫耳少女とSS級ダンジョン攻略してます~

いとうヒンジ

第一部

旅立ち 001



 幼馴染が勇者になって帰ってきた。


 そんな抜かす腰が行方不明になるくらいのビッグニュースが僕の耳に届いたのは、今から一時間前のことである。


 シリー・ハート。


 僕ことクロス・レーバンの唯一の幼馴染であり。

 寂れた故郷の村を飛び出して、王都ランダルを目指して旅に出た少女。

 冒険心と野心に溢れた僕の幼馴染が、六年越しに帰郷してきたらしい。


 勇者になって。



「久しぶり、クロス」



 ぼろ屋の戸を勢いよく開け放ったシリーは、仰々しい白銀の鎧を身に纏い、昔と変わらない意地の悪い緋色の目を輝かせて言った。



「私のパーティーに入りなさい。あんたみたいな陰気な奴でも、少しは役に立つでしょ」



 そう――昔から。


 シリーは僕のことが嫌いで。


 僕も彼女のことを、そんなに好きじゃなかった。





 勇者パーティーの一員になって三カ月が経った。


 これまでにC級ダンジョンを三つ攻略してきたけれど、恥ずかしい話、僕はほとんど毎回


 戦ったモンスターはD級やC級ばかりなのに、こうも遅れを取るなんて……自分事ながら情けない。


 パーティーに前衛職が僕一人しかいないというのも関係しているのだろうが、そんな言い訳を聞き入れてくれる程、仲間たちは甘くなかった。


 幼馴染の勇者――シリー・ハート。

 白魔術師――メリル・ウィッド。

 黒魔術師――レイナ・ショーン。

 爆撃師――アンガス・ルデラ。


 戦闘で目立った活躍をしない僕を、彼女たちは笑い者にする。


 ……愚痴っぽくなってしまったけれど、それを誰かに漏らしてはいない。


 最低限生きるのに困らないだけの給金は貰っているし、変に波風を立てるよりも、大人しくこの環境に身を置こうと決めたのだ。


 そんな事なかれ主義な僕を見て――シリーは言う。




「昔からよね、クロスって。まあ、いいけど」




 その言葉が胸をチクリと刺す。


 やっぱり、彼女は僕のことが嫌いで。


 僕も彼女が嫌いなのだろう。



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