第2話 職人の今
「それで、どうなったの?」
「おばあちゃん、悩んだんだけど京都を離れて独立することにしたの。ちょうどその頃、おじいちゃんから、一緒になろうって言ってもらってね。踏ん切りがついたのよ」
「へえ」
「そのことをお話したら、親方もおかみさんも喜んでくださってね。親方は、向こうじゃ見つからないだろうからって、織り機を手配してくださったし。工房じゅうの職人さんたちが集まって、おばあちゃんのために送別会を開いてくださって、京都をあとにしたのよ」
「香奈さんも喜んでくれた?」
「そりゃあもう。あの人、手紙が来るのを見ては、いつもおばあちゃんをからかっていたからね。喜び方も尋常じゃなかったよ」
ふふふ、と綾子は目を細める。
「織物教室はいつ始めたの?」
「たしかまだ、お母さんが小学生だった頃だから、二十年も前だよ」
ああ、もうそんなになるんだねえと、綾子はつぶやいた。
「香奈さんは今はどうしてるの?」
「今も現役で織っていらっしゃるよ。京都の女性織物職人の中で、最年長のベテランだよ」
「へえ~、そうなんだ」
あさみは不思議な気がした。
綾子から聞いた話の中で生きている人が今も現実に生きていて、存在している。ずっと遠い昔の話のように思っていたけれど、そんなに昔のことではないのかもしれない。
過去と今は確かにつながっている。それが分かったような気がした。
そういえば、とつぶやいて綾子が立ち上がる。
隣の部屋のたんすの上から二段目の引き出しを開けて、何かを探している。しばらくすると戻ってきた。
「あったあった。これ、香奈さんの写真よ」
差し出された写真の中には、織物をバックに綾子と背の高い白髪の女性が写っていた。
「へえ、この人が香奈さんかぁ。なんかしゃきっとした人だね」
祖母の綾子よりも年上だから、おばあちゃんと言ってもいい年齢だろう。だけど、凛とした雰囲気のおばあちゃんだ、とあさみは感じた。
「これは、去年、京都の展示会で会った時の写真なんだよ」
「へえ、今もおばあちゃん、京都に行くんだね」
「そりゃ、行くよ。やっぱりあそこは、おばあちゃんの織物の原点だからね」
そう言うと、綾子はにっこりと微笑んだ。
おばあちゃんって笑うと女の子みたいだ、とあさみは思った。
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