第2話 あさみの算段

「ただいま」

「おかえり、早かったわね」

「うん、今日は放課後遊ばないで帰ってきたの」

「そう、珍しいわね。いつもアスレチックで遊んで帰るんじゃなかった? あ、手を洗いなさい」

「はぁい」


 ハンドソープのポンプを押す。ツープッシュだ。

 指の間を洗いながら、あさみは考える。

 いつ、言おうか。さりげないほうがいい。


「ねえ、お母さん。もうすぐ七夕でしょ」

「あら、そういえばもうそんな時期ね。忘れてた」

 陽子はカッターシャツにアイロンをかけている。アイロンのスチーム蒸気が暑苦しそうだ。

「去年ね、学校で大きな笹に短冊をみんなでつるしたんだ」

「へえ、クラス全員分なら大きい笹だったんでしょ。そういえば、お母さんが子どもの頃、やっぱり小学校でやったなあ」

「大きな笹だった?」

「そうね、クラス全員分の短冊がつるせるくらいにはね」

「へえ、お母さん、あのね、あさみね、笹が欲しいの」

 思い切って一気に話したが、不自然じゃなかっただろうか。


「何よ、急に。笹なら、学校で用意してもらえるんでしょう」

「それはそうなんだけど、あのね、あさみだけの笹が欲しいの」

「何に使うの?」

 あさみが恐れていた質問だ。

 やっぱりそれを言わなきゃいけないんだろうか。


「おうちでも七夕がやりたいんだ」

「でも、笹なんてこのへんには……」


 あとは簡単だった。

 あさみの祖母である綾子の家の庭に笹があるのだ。

 綾子の家は、そこから少し奥、電車で一駅ぶんの山里の町にある。

 今日は四時間目で学校が終わったから、十分行って帰れるはずだ。

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