第4話 “元”カノ襲来(あらわる)

ひょんな事から魔王を引退したオレはその後の“ゆったり、まったり、のんびり”とした引き篭もり生活を満喫しようとしていたのだが、知り合いの“下級”魔王グラナティスの計略により引退先の安住の地となるはずだったアマルガムはオレが住み易い“街”ではなく、この大陸の各地へと繋ぐ要衝―――“主要中継都市ハブ”へと変貌してしまい、これからオレが住むはずだった隠れ家的な住居もいつの間にかアマルガムを統治・管理しているかのような豪邸にされてしまっていたのだ。 それに大体、オレって日常的には(早い話し業務おしごと以外では)趣味とかに散財をする傾向があり、どちらかと言えば日々の生活様式は二の次―――以前魔王をしていた時の住居なぞは平均的な平民の住居よりやや安めの価値を持つ物件だったのだ。 しかもオレ自身はそうではないのだが、かなり過去に付き合っていたヤツやなにかしらの延長で招いた事のあるグラナティスがオレの住居の内部を視て幻滅していたのは記憶に新しい事だった。


うん、つまりね―――なにが言いたいのかと言うと、オレが住む建物が広かろうが狭かろうが、すぐにゴミ(や不要物)で一杯にする自信はある。 それを知っててコイツ…を―――しかしオーガの巫女……鬼“姫”であるサツキさんはその事を知ってか知らずかオレの配下となる事を率先して決めてしまったのだ。 ま、まあ~~オレは炊事・洗濯・掃除(いわゆる家事全般)なんぞはオレからは進んでしないし?食事なんてこの街の飲食店の『持ち帰り』や『出前』、もっと安価に済ませるなら『生活必需品なら何でも揃う小店舗』―――何でもグラナティスのヤツが言うのには、(飲)食料品や衣料品、筆記具から税金の支払いまで出来、最近では配送の受付までしているという超便利な小店舗でお手頃な惣菜を買って食べればいいとすら思っている。(まあそこでオレがゴミを捨てないもんだから、立ち待ち住居内や部屋の内はゴミの山と化すんだけれどね)


だが……違うもんだなあーーーーと、つくづく感心させられたものだった。 それというのも、オレの配下になりたいって言うオーガのサツキって、実に精力的に働いて家事全般こなしてオレがゴミで埋め尽くす暇もなく、まあーーーー“テキパキテキパキ”と……「はあ~~~こりゃ便利な事もあったもんだなあ。」

「ふふん―――凄いだろう、うちのサツキは。 しかしな、サツキがこうもせっせと片付けをしてる間にも、どおーーーぅしてお前はとっ散らかすんだ!!」

「そんな事を言われてもなあ…これがオレの“持ち味”ってヤツよ。」(フフフン)


こいつ…そんな事をサラリと笑顔で言うような事かあ!ま、まあーーーサツキが自分の意志でしてしまっている事だし、サツキがやろうとしている事に私が一々口出しするまでもない。 とはしてもだなあ~~~どうしてこんな事になったのやら……


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


とまあ、オレが魔王を引退した後の生活はに続いていたのであったが―――その事……そう、とどのつまりオレが魔王を引退する事に関して物を申す者もいるわけでして……


「な、な、な……なんですってぇええ~?あやつ辞めたと言うの?魔王を??」

「は、はあ―――そのようで…」

「あやつ、このわたくしに相談の一つもなく……ええい!誰か―――誰かある!至急わたくしはあやつめに事の如何をただす為に会いに行くぞ!!」

「あ、あのそれはちょっとお待ちを。」

「どうしたと言うの……わたくしの言う事に異論を差し挟むとでも?」

「いえ―――そうではなくて、今がどう言う状況かを……」


「敵襲~~~!ヴェルノア所属の【英雄】が南門を突破!間もなく城下に殺到する模様です!!」


「うぬぬぬ……うぬれえ~~い!今はヒューマンの【英雄】如きを相手にしてる場合ではないと言うにぃ~~~!!」


ここは―――“上級”魔王ヴィリロス伯が治める領内の首都『ユミニクス』。 そこでヴィリロス伯爵は自領内に攻めてきているヴェルノアが抱えている【英雄】を相手に奮戦している最中、オプシダン公爵が魔王を引退したという報を聞くに及び防衛線そっちのけでオプシダンに会おうとしていたのです。 そこを臣下に諌められどうにかヒューマンの【英雄】を蹴散らし撃退させることが出来たようでしたが……それにしてもどうしてヴィリロス伯は国家の一大事に知人らしきオプシダンと会う事を即決したのだろうか―――…


         * * * * * * * * * * *


それはさておき、あれから私達姉妹はアマルガムに留まり、気の赴くままにこの地での暮らしに馴染もうとしていた…「ちょっと出かけてくる―――」 「あ、姉ちゃん出るんだったら切れかけてた調味料買って来てよ。 あとそれから―――ね……」


自分の妹ながら感心する。 第一私達姉妹が未だ以てこの地に留まっているのはある理由からなのだが、それをするにしてもまず周辺の者達―――まあつまるところ、この都市の住人とイザコザをしないまでに溶け込む事、そうすることで“情報”というものが入手しやすくなる。 幸いにしてこの都市はグラナティス公が作った主要中継都市ハブだ、つまりここにはあらゆる“モノ”―――それが物資にしても金銭にしても情報にしても、そして……人にしても集まりやすくなっている。 だから本来の私達の……おっと、これは少し無駄口を叩いてしまったか。

それに、元々はリルーファと共同で生活を営み支障のないかたちで取り組んでいく為、現在では敢えて冒険者の“真似事”などをしてみようか―――との事だったのだが……そこで私は“ある有用な情報”をこの都市で入手したのだった。


「ちょっと待て、今一体何と言っていたのだ?」 「な、なんだよお前ぇは―――」

「ああ済まない、しかし今あなたが言っていた事が気に掛かったものでね。」

「ああ~~なんでもヴィリロス伯領を攻めていたヴェルノアの【英雄】を、ヴィリロス伯が“無双”で蹴散らしたんだと。」


ヴィリロス伯!!なんでも“上級”魔王の中でも屈指の武闘派で美貌も兼ね備えていると言う噂の―――しかも“上級”魔王のお一人を葬り去ったと言われているヴェルノアの【英雄】をたった一人で撃退されたとは……さすがと言うか何と言うか、荒事はさほど好まないグラナティス公も感心していたものな、『野蛮なヒューマン達は彼女一人に任せておいても大丈夫だよ』と……。 うん、いやさすがだよなグラナティス公は、以前お仕えしていた贔屓目―――と言う訳でもないのだが、グラナティス公はあれでも実は“上級”に成れるまでの実力は保有している、だが公は“低級”の道を選ばれて奥まった地にて様々な事を“発明”“開発”に勤しんでおられるのだ。


公が為し得た偉業の一つに“冷凍”も“冷蔵”もできる『冷凍冷蔵庫』の開発―――これのお蔭で暑さのお蔭で足が早い生鮮食品も、数ヶ月単位とは言わず数年保存が利くと巷では早速噂になっているし、一家6人でも一気に“洗濯”から“乾燥”までしてしまうと言う驚異の『乾燥機付き洗濯機』なるものまで……これのお蔭で寒さの中氷より冷たい水で手がかじかむ奥様方が極端に減った―――との報告も聞き及んでいる。

あと……更には、あまり大きな声で言えないのだが、どうやら公はまさに“悪魔的”な商品の開発に着手しているようなのだが―――私の思い過ごしであればよいのだが……な。「ただいま―――」 「あっ、お帰りなさい姉ちゃん。」


          * * * * * * * * * * *


「今―――なんと言ったのです、キサラギ……」 「“上級”魔王のお一人ヴィリロス伯が、攻めてきた隣国のヒューマンの国ヴェルノアが抱える【英雄】を一網打尽に―――と…」

「それは判りました。 ではその後ヴィリロス様の足取りは。」 「その事―――なんだが……」

私とキサラギの故郷カーマイン候領は、このヴィリロス伯領と“隣接”―――はしているものの、やはり同じくして“隣接”しているヒューマンの国家ブリガンティアやヴェルノア、その他中小のヒューマンの国家の侵攻から私達魔族が暮らす土地を護るために一致団結してこれに当たっている。 奇しくも今回私達の故郷であるカーマイン候領は敗れ、領地は著しく減少はしたもののまだ滅ぼされてはいない。 私とキサラギがこちらの地方に落ち延びてきたのも、こうした故郷の窮状をなんとか救ってもらおう―――との事だったのだが……

話しを幾分か戻す事として、実は私達は“隣接”しているヴィリロス伯の事はよく存じている。 ええそれはもう―――“隣接”しているのだから。 それと言う事もないのだけれど、今回の【英雄】撃退の報は、私達にしてみればあまりにも“早い”と言わざるを得なかった。 それというのも、ヴィリロス伯は女性魔王の中でも一・二を争う美貌の持ち主にして、武勇にも優れているからなのだが、ヴィリロス伯ご自身が言うのには…


『このわたくしが本気を出すまでもないもの―――だって、本気出しちゃったら戦なんて立ち処に終わってしまうもの。 だから…わたくしは抑えて闘ってあげるのよ。 それも『あっ、これ、もうちょっと努力すれば勝てるんじゃね?』と、思わせぶらせたところで―――その時の、相手の絶望の表情ったらないものねえ~? ねえ…あなたもそう思うでしょう?鬼“姫”ちゃん。』


コレを聞かされて私は、ああこの方は本当に、本当の意味で闘いを愉しんでいるんだなと思った。 しかし、その伯が自分の愉しみを脇に置いてに向かっていると言うのだ。 その事を知り、何故だか私は猛烈に嫌な予感に包まれた。


         * * * * * * * * * * *


「おい―――今、なんつった?」 「――――――……。」

「おい!今なんつったんだよ!黙ってないでなんとか言え!!」 「(はあ~~)今報告して差し上げた通りですけど―――」

「いや……だからさあ、なんでがこのアマルガム―――いや、オレの処に向かってんのお?! なあぁ~~~ちゃんとした“工作”はしてるんだよなあ?」

「ええ~~まあ一応…主上―――ああ“元”ね、あなた様のご意向を受けた後継者も、ご自分が引退したとしても裏で隠然とした権力を振るう―――見せかけてはいるんですけどねえ~~いやあーーーははは…女の情念てコワイもんすね。」(ケラケラ)


他人事ぢゃねえよおぉぉ~~~なんでこうも、誰も彼もがオレのニートでスロゥなライフを邪魔したがるのお?放っといてくれていいじゃん!もうね、オレは疲れたの!他人の顔色伺って他人様に気を遣うなんて、そんなの全然建設的じゃないし、オレのやりたい事も極力抑えなけりゃならない。 だから、オレは引退した後ニートでスロゥなライフを満喫したかったのにいぃぃぃ~~~(ギリギリ)

と、まあーーーなんでオレがこうまで悶絶しているかと言うとだ。 前述の通りヴィリロスのヤツが、自分の趣味そっちのけでこの地(と言うよりオレ)を目指して邁進しているらしい。 つまりは、この事に対してオレは非常に危機感を―――いや、恐怖を覚えてしまっているのだ。 それというのも、あいつ外見そとみは美形だが、中身は修羅か闘神が入っているのではないかと疑わしいくらい気性が激しい。


しかもなあ~~~~頭が痛い事に、あいつはーーーー


         * * * * * * * * * * *


「えっっ、ヴィリロス伯がアマルガムに?」 「ああ―――私が仕入れて来た情報はそう言う事だ。 しかも伯は【英雄】を蹴散らした後に、すぐさまこの行動に移ったらしい。」

「(……)それってちょっとまずいよ―――姉ちゃん。」 「(ん?)どうしてだ?別にアマルガムに来るだけでは問題ではないだろう。」

「違うんだよ姉ちゃん……私、“エーレクトラ”から聞かされた事があるんだ。」 「お、おいリルーファ滅多な事を口にするもんじゃ……」

「大丈夫、そこについては外部とは遮断してあるから……それにね、ヴィリロス伯がこちらに向かっているの―――その目的は判ってる?」 「いや……詳しくまでは―――」

「あのね、私達姉妹の一人“エーレクトラ”が言ってたのは、かのオプシダン公とヴィリロス伯…………」


         * * * * * * * * * * *


「お、おいどうしたんだ―――サツキ!」 「早く急がなくては!このままではオプシダン様が危ない!」

「だからどうしたと言うんだ、どうしてあの男が危ないと??」 「一度、私は折に触れカーマイン候とお話しする機会がありました。 そうした時に候は『ヴィリロスには気を付けろ』と……何故なら彼女は女性ながらにして“上級”の魔王に成ったお方の一人。 外見みかけは傾城の美女の如くといわれていますが、中身は闘神の様に気性が荒いとも言われています。 それにご自分が欲しいと思ったモノは必ず手に入れてきた―――そう、“”を除いては。」

「ま!まさか……その“ある一つ”というのは……」(ゴクリ)

「一つ興味深いお話しをしてあげましょう。 カーマイン候とお話しする機会があった時、私は同時にオプシダン公とヴィリロス伯が『学生時代』にお付き合いしていた事も聞いたのです。」


えっ…ナニソレ―――そんな事で事に及べるものなのか?そこの処はそうした機微きびうとい私だから理解出来なかったのだが、普段は冷静であり沈着なサツキの様子を見ていると、今現在進行しつつある出来事が“大事件”にまで発展してしまうのではないかと思ってしまえる私がいたのだ。


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「見ぃ~~つけたわよおーーーわたくしのダァーリーン♡」 「う゛っ゛げ!ヴィリロス!!」

「うっふふふふ、ようやくわたくしと一つとなる為に魔王を辞めるという一大決心!このわたくし重く受け止めましてよお~~~♡」

「あっ、でわあ~あとはお若いお二人でごゆっくりとお~~~」(皮肉)

「あ゛っ!おいこらちょっと待て!!主人を置いて逃げるなあ~~~!」 「え゛ーーー言っても“元”ですよねえ……」

「(うぐぐ…ふぐぐ…)わ、判った、この騒動収まらせてくれたら(再雇用)考えてやらなくもない。」 「(……)ま、不満残るっすけど、今ン処はこれが妥協線てとこですかね。 じゃ、救援呼んできますんでしばらく持ち堪えててください。」


「……と言う事でまずは落ち着けな、ヴィリロス。」 「ええ~~待ちますとも、あなたをわたくしのモノとする―――それが長年のわたくしの本願成就なのですらン~♡」

「(え゛え゛え゛え゛……)いや、けどなあーーーなぜ皆してオレなんかを構おうとするんだよ。 オレって至って何の特徴もないぜ?“善”でも“悪”でも“秩序”でも“混沌”でもなく中道・中立を保つことに腐心しているヤツのどこがいいと言うんだよぉ、全く…」


折角手に入れた安住の地を棄ててアマルガムから出ようとした処に、運悪くヴィリロスのヤツと鉢合わせとなってしまい、あいつの顔を見るなり逃げ出したオレを踏ん捕まえるヴィリロス。

まあーーー確かにこいつとは、オレ達魔王族が魔王となる為に修行なり勉学に励む『学校』に通っていた時に、付き合っていた時期がある。 しかしあの当時、今よりチャラついていたオレにしてみれば“遊び”的な感覚だったのだが、当事者でもあるヴィリロスはそうではなかったみたいで『学校』を卒業するに伴いそうしたものも自然消滅するものだと思っていたオレの前に立ちはだかり、無闇矢鱈と求婚を迫ってくるのだ。 まあーーー皆が皆まであいつが悪いというわけではないが、遊び感覚であいつと付き合っていたオレの方にも責任はある………………のかなあ?


いや―――それにしても……だ、何かオレ、重大な事を、見落としてない???????


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