魔王を辞めてニートでスロウなライフを満喫したいけれど、そうは問屋が卸さないようです。

天宮丹生都

第1話 魔王辞めます

この世界には種々様々な種属がいる―――“エルフ”や“オーガ”、“ゴブリン”等の『魔族』や、“ヒューマン”を主体とした『ヒューマン族』。 中でも特に変わっているのがオレ達、魔族を統べる『魔王族』と言う種族だ。(ちなみにニンゲン族を統べるのは『王』だとか『皇帝』と言った者達であるらしい。)

オレ達魔王族はその想像に難くなく頭から『歪曲角』と呼ばれる角を生やしており、オーガやゴブリンと言った様な鬼種とはまた違ったおもむきの角を持っているのである。 それに能力系統から言っても他の魔族達とは一線を画しており、だから魔族を統べる『魔王』と言う“職業”に就いているのだ。

それに魔王はオレ一人ではない―――他にも複数いる。 その中でもオレは割と中間・中堅どころと言っていい勢力の魔王であり、ここ最近までは割と上手くやっていたのだ。

{*ちなみにこの魔王で“中級”と言った処。 他には“下級”“上級”とあるのだが、“下級”に行くほど奥まった地域に勢力を構えており、“上級”ともなると人族との境に勢力を構え日夜ヒューマンの【勇者】や【英雄】と言った辺りの者達と“ドンパチ戦争”をやっている。 これを見ても判る様に、“上級”と言った手合いの者達は血の気が多く、“下級”になっていくに従いのは薄れている模様。 しかし“上級”がヒューマンと戦争をやらかすものだから、得てして『魔王=悪の親玉』が定着しているようで…}


そしてオレの名前は『オプシダン』、ほんの少し前まで自分の勢力内で魔王をやっていましたが―――辞めました。

なぜ辞めたのかって?そんな事は判り切っている。 オレは“上級”のヤツらよりは血の気は多くないし、かといって“下級”のヤツらよりは引き篭もりではない。 適度にヒューマン達と付き合って勢力内の物流を良くし、勢力内を富ませようと粉骨砕身努力してきたんですけどぉ……なぁんでオレの施策がことごとく失敗するんだぁ!? オレの在任期間の300年間ヒューマン達の顔色をうかがい円滑な取引を成立、持続させようとしてるのにぃぃ~~長くて2・30年で変わってしまうんだもんなあ~~あいつらの政治体制…まあオレ達魔族よりか身体構造・能力的に劣るし?かと言って“上級”のヤツらと張り合うまでのヤツらもいてるて言うし……どっちがほんまもんのあいつらなの??


そんなこんなもありまして、自分の能力に限界を感じ、オレ魔王を辞める事にしました。(ああ勿論後継はちゃんと決めて辞めましたよ。)

思えば300年―――まあ割りと良くやった方なんじゃないか?可もなく不可もなく、勢力内の領民からも良いとも悪いとも言われていない、中庸にして中道だったわけだ。 だからと言って政務おしごとはいい加減にしていたわけではない、これでも“中級”は“中級”なりに腐心しているところはあるのである。 しかしそれはそれでストレスが溜って来ることであり、たまにはのんびり暮らしたい……そう言えば以前取引のあったヒューマンの商人が言っていたのには『悠々自適のスロゥライフを目指してる』だとか、『うちのバカ息子が何も働かずニートを満喫して困っている』だとか言ってたな。 まあ気になる部分はあるにはあったがその時初耳だったオレにしてみれば『えっ、なにそれ羨ましい』と思ってしまったのである。

そしてその魅力ある言葉はその後数百年経った今でも頭に残り、今に至った(魔王を辞めた)ワケなのだ。


        * * * * * * * * * * *


さぁ~て、とは言え何をしよう?『スロゥライフ』にしたって『ニート』にしたって何をしていいか判らずじまいだったが、感じた言葉の影響からしてみても『何もしていなくても怒られない』だとか『気の向くまま赴くままに時の流れを感じのんびり暮らす』……うーんまさに今のオレの理想だ、“混沌”にも“秩序”にもかたむくことなくくまで“中立”となる事に腐心していた頃と比べればまさに『夢幻の如く』である。 まあこれからのオレの生活の方針は後でゆっくり考えるとして、まず取り敢えずの処は生活の拠点となる『家』だな。 それも持ち家がいい……借り家だと家賃が発生してしまうから何もしたくない今現在のオレからしてみたら先行き不安になるのは目に見えているのでこれは却下だな。

―――と言う事で昔からの知り合いのヤツに、オレが引退した後の生活の事も含めて相談したところ最初は渋っていたものだったが説得に説得を重ねどうにか『スロゥライフ』『ニート』を目指すオレにとって“いい加減”の大きさの一戸建てを用意してもらう事に成功したのだ。 しかも立地の条件としては最適で、近くには季節ごとに色んな味覚が採れる“森”や、日中は陽光―――夜中になると月光が映える“湖”があったりなど、中々に『スロゥライフ』『ニート』を満喫したいこのココロを刺激するものが沢山あるのだ。 ああ~~~早く移住すみてえなあーーーオレの『別荘』。


こうしてオレの―――『スロゥライフ』(?)『ニート』(?)は始まったのである。


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


今私達姉妹は森を彷徨さまよっている。 少し説明をすると私達姉妹はエルフだ。 この大陸の奥まった地域にある魔王の一人の領地内で暮らしていたが、妹が『独り立ちをしてみたい』と言うものだから私達を統治していた魔王様に事情を話し、許可を得て餞別せんべつを分けてもらった、もちろん姉である私『アリーシャ』も同行するつもりである。 妹の『リルーファ』と姉の私はまあそれなりに自活できるスキルは備えている、取り敢えずの処としての問題はこれから妹と同棲生……ああいや、同生活を営むにあたって生活費を稼ぐことにある。 幸いな事に以前まで暮らしていた魔王様の領地で冒険者としての登録を済ませているので当面の間は野宿をしても何ら問題ではない。 それどころか私としては大歓迎だぞぉ~~~……と、言いたい処なのだが最近妹の態度が冷たく感じているのだ、ほんの50年前までは枕を一緒にしても文句の一つも言って来なかったのになあ~~~寂しい限りだ。


それはそうと、私達姉妹が生活の拠点とする為に訪れたのが『プレシオス』と言う街である。 ここは地理的にも“中級”魔王様の領地とヒューマンの国家の境にあり、それなりにヒューマンとの交流がある交易を主流とした街だ。 ここで早速その日の生活費を得る為、所有していた冒険者登録証を提示し冒険者としての活動を始めた……そんな矢先の出来事だった。


「なんとか最低限の生活必需品は揃える事が出来たな。」 「それにしてもお手軽価格だったね。 私達の魔王様の領内でも抑えられてはいたけれども……」

「ああーーーここまで辿り着くまでの物価の何と高かった事か……私も魔王様からの餞別せんべつ、貰い過ぎではないかと思ったものだったが。」 「あの方、そちら方面(経済)にもお詳しいみたいで、こうなる事を予測してたんじゃないかなあ……」

「それにここ『プレシオス』を目指すよう仰られたのも納得がいくな。 ここでは以前まで治めていた魔王様が中庸・中道を目指していた事もあり、それなりにギルドの報酬もいい、加えてヒューマンへの待遇も考えられているから滅多と衝突も起こらないとの話しだったしな。」 「けれど、どうして魔王様……後任に後釜を譲ったんだろうなあ。」


その“噂”に関しては数々出回っている。 ご自分の能力に限界を感じた―――のだと言うものから、下からの突き上げに嫌気がさした―――と言うものまで。 それにここプレシオスも“良く”もなく、また“悪く”もなく、一時的に居を構えるにしては絶好の場所だとも言えた。

しかし思う処はある、“噂”の出所はともかくとしてそれなりに治まっている領地をどうして―――…そんな時に穏やかな空気が流れるこの街が少し“ザワ”ついたのである。


「姉ちゃんどうしたんだろう―――」 「オーガか……連中は己の武に自信を持ち、闘争の中で己を見い出すからな。 それより―――何かあったんですか?」

「ああ、あの店の店員さんやけにオーガ嫌いみたいでねえ、ほらあちらの……武器持ってる方が店の売りもんを買いたいって言っても、店員さん中々売ってくれないからちょっと騒動なっちゃったみたいでねえ。」

「それにあちらの……もう一人の“巫女”?っていっていいのかな、あの子相当弱っているみたいだよ。」


その騒動の発端とは、今にも飢えて倒れそうなオーガの巫女をかばってやる為一緒にいた女戦士の身形みなりをしたオーガが食べ物屋の商品を求めた処、運悪くオーガ嫌いの店主から商品を売れない―――との事から女戦士風のオーガが短慮を発してしまったみたいだった。

確かに、この大陸でのオーガの評判とは“乱暴者”の域を出ない……にしても、総てのオーガがだとは限らない。 この2人のオーガの女性の様に大人しめのオーガもいるのだ。 そこの処は同情する―――とは言っても、今の見た目だとオーガ側が不利な事は否めない。

女戦士風のオーガが短慮を起こしたせいで店のショウウインドウは破壊され、砕け散った破片がそこら中に散乱している……私達も一部始終を見たわけではないが心証としてはやはり……



「あーーーのーーーーー少しいいですかね?」

「何だあんたは!」

「いや、まあーーーただの通りすがりですけど、見た処そちらのオーガの娘さん、酷くお腹空かせてない?そう言う風に見えるんだけど。」

「だったらどうだと言うんだ。 あんたがうちの店の弁償をしてくれると言うのか!?」

「んーーーその前にさ、そんな娘にこの店のコロッケ売ってあげないって言ったんなら……すこし状況変わって来るんだけど?」


「(!)そ―――そうだ!そう言う事情を話したのに、『お前等オーガに売る品はうちには置いてない』って言われたもんだから……」

「―――だそうだけど?」

「(ぐ…うぅ)し、仕方ないだろ、オレの前いた街でオレはそれなりの店を構えてた―――だが、近くのヒューマンの国と戦争起こして、そのどさくさにオレの店はオーガに蹂躙されちまってな。」


まーーー良くある話だよな。 けどさあーーーそのオーガとこのオーガの娘2人は違うだろうに、なのに……当たらずにはいられなかった―――って言う訳か。

「なるほど、お宅の事情も分かった。 その上で役所に話しを通しな、全額までとはいかんが一部は出るだろ。 それより、あんたらお腹空かしてんなら今日の処はオレがおごってやるからさ、一緒に来るか。」


私達姉妹と同じ“野次馬”の一人と見られていた魔王族の男……その男が見る見るうちにトラブルを収めさせていった。 派手な色と柄のシャツを着流し、ステテコにサンダル、頭にはサングラスを引っ掻けていると言うふざけた格好ではあったものの、一つ間違えば流血沙汰になっていたであろうトラブルを収めさせたという手腕に私は見どころを感じたものだった。


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


私達2人は幼馴染み―――私は代々戦士の家系に生まれ、幼馴染みは神主の家系に生まれた。 そんな私達はオーガ……故郷は上級の魔王であるカーマイン候が治める領地の出身だ。 そんな私達がどうしてプレシオスに居るのかと言うと……突如、隣接しているヒューマンの国から宣戦布告がなされ、カーマイン候も迅速に対応―――私達オーガも呼集に応え最前線で対応に当たったワケなのだが、運悪くその戦線にはヒューマンの【勇者】が投入され、戦線が崩壊……私の家族もサツキの家族も散り散りとなって逃げ惑い、辿り着いた先がこの街プレシオスだったのである。

それにサツキは私の様に戦士として鍛えられていないから身体も弱く、私は1ヶ月もの逃避行でそれなりの生き残りサバイバル術で生き延びる事が出来ていたが、サツキは運悪く“なまもの”にあたってしまいここのところ何も口にしていない―――と言う状況だった。

そんな折、プレシオスに辿り着いた私達は早速おいしそうな匂いを漂わせている食べ物(惣菜)を売っている店を見つけて、商品(コロッケ)を売ってもらおうとしたのだが―――…


「何だお前達、オーガだな。」

「(…)そうだ、この店の商品を私達に売ってほしい。」

「残念だがそいつはダメだな、この店の売り物はお前達オーガに売るようなものは置いていない。」

「なんだと、もう一度言ってみろ!」


そこから先は斯くの如し―――と言う奴だ。 私も少々腹が減っていたから気が立っていたのは否めない。 だが、私達がオーガだと言う事だけで商品を売れないなど……そんな矢先に少々場違いと思える魔王族の男が現れ、私達が困っている窮状を救ってもらった。

そして今はこの男の前言通り、食事処へと来ているわけなのだが…………


「相当お腹空かせていたみたいだなぁ。 まるで猛獣みたいだ。」 「は……はは、もうここ数週間飲まず食わずでしたから―――」

「それにしてはあんたは平気みたいだけど?」 「まあ…私は戦士として鍛えられ、少しばかり生き残りサバイバルの術にも心得がありますから……」

「げふっ!げふっ!!んぐぐぐ……」 「ああほら、ガッついて食べるから……」


仲好いなあ~こいつら、それにしてもすんげえー食べる事(笑)、予算足りるかなあ。


オレはまだオレが治めていた街にいた。 とは言え未練などではなく、これからのゆったりのんびり生活を過ごす為に必要な物資・物品を買い揃える為なのだが、いよいよ出立を明日に控えていた―――ところにこのトラブルに出くわしてしまったのだ。

オレの在任中にはこうしたトラブルもなかったものなのに……オレがこの街から離れるって言うタイミングでのこうした厄介事は勘弁してもらいたいもんだ。 頼むからこの先何もありませんように―――と、言った希望的観測はものの数分で崩されちゃいました。 それというのもあまり目立たない方法でトラブル解決を図ったつもりだったのにあれを目聡く見ていたヤツがオレの前に立ちはだかったのだ。


かたじけない、このお礼はどう返していいか……」 「ああーーーいいのいいの、この街は割かしトラブル少なかったしねえ。 それに、見た処あんたらはカーマインが治めていた処の住人だろ?」

「私達の魔王様の事を知っておいでか?いや…だがあなたも魔王族―――ならば知っていて当然か。 疑ってしまって失礼した、私はキサラギと言う者で、こちらはサツキと言う。 そんなオーガの私達がこの街に来た事情と言うのは……隣国のブリガンティアから突然宣戦布告を受けてな、ブリガンティアとの最前線で交戦していた私達はブリガンティアから派遣されてきた【勇者】達の前に……」


なあーーーるほど、そう言う事情ねえ。 それにしてもブリガンティア…やり方エゲつねえ事。 まあ、あいつもあいつだが、もうちっと上手くやれないもんかねえーーーオレやあいつみたいに。 まあどうせ戦争の口実も取ってつけたようなもんなんだろうけどさ、お互いに血を見て何がいいもんなんだか…

「そいつぁ災難だったなあ。 まあこれから先何があるか判らんが達者で暮らしていきなよ。」

こうしてオーガの娘達と別れたわけなんだが、どうもここまでの一連の事を見られてたみたいで―――


「すまない、少しばかり話しをよろしいか。」 「えっ、あっ、はあーーー」


銀の長髪を後ろで大きな一つの三つ編みにした、金色の眸を持つ長耳―――エルフか。 それにもう一人…金の長髪を後頭部で一つにまとめたポニー・テイル、銀色の眸を持つ長耳、見た処容姿の方もよく似ている……てことは姉妹のエルフかな。 しかしそんなエルフがこのオレになんの“話し”だって?


        * * * * * * * * * * *


「突然に失礼いたします。 その『歪曲角』魔王族とお見受けしましたが間違いありませんか。」 「ええまあ一応……オレは魔王族ですけど何か?」

「先程の出来事を見させて頂きました。 本来なら流血沙汰もおかしくはなかったあの出来事を…それをあなたは上手くまとめられるとは。」 「ええっと、まあーーー往来を血の大惨事にしちゃうのはイヤじゃない?だからそうならないようにしたわけなんだけど。」

「(……)それはこの街がそうだからなのか―――それともあなたがそうなのか……」 「なぁにを言ってるのか、また言いたいのか判りませんですケドね、なにも特別な事はしたりはしてませんよ。 それに“立つ鳥跡を濁さず”って言うでしょ?」

「何か事情でも?長年暮らしたであろうこの街を離れて何を求めるとでも…」 「あのねぇお姉さん方……そんなんオレの自由でしょうに、長年暮らしてきたから愛着もある―――って言いたいんだろうけれど、その分そのまた逆も然り……だよ。 それじゃ、明日には新しい土地に着かなくちゃならないんでね。」


そう言ってその魔王族の男は私達と別れた……いや、と言うよりうまく私をかわしたと言うべきか。 確かに言っている事には間違いはない。 間違いはないが、どこか……こう……


「姉ちゃん―――やっぱあの人怪しいよ。」 「お前でもそう思うかリルーファ。」

「うん……それになんて言っていいんだろう、褒められるでもなくまた責められるでもなく、しかも未練など残らない様に……残さない様にも見える。」

それに……まるで何かから逃げるかのよう―――あなたは一体何に怯えているの?何に畏れているの?けれどそれは多分、これからあの人が移り住んでいく土地にある。 だとしたら私達が取る手も一つ―――

「姉ちゃん、尾行つけようあの人を。 私達の疑問もその先にあるかもしれない。」


全く……我が妹ながら恐ろしいものだ。 いわゆる≪先見≫というのだろうか、確たる実証まではされてはいないけれどリルーファには少し未来の行動の予測が出来るみたいなのだ。 それに言ってしまえば今回の旅に関してもリルーファからの進言を私達を統治してくれていた魔王様―――グラナティス公が聞き入れてくれたからに外ならない。 本来ならエルフの小娘如きの戯言ざれごと―――と一蹴されてもおかしくない事を、グラナティス公はすぐに二つ返事で返してくれた。 なんとも度量の広いお方だと感心する反面、公には不釣り合いな噂が付き纏ってもいた。


私達エルフ姉妹はグラナティス公が治めている領内の一区画の出身である。 そしてグラナティス公は“下級”魔王でもあるのだ。 そんな公に不釣合いな噂――― 一体何者がそんな噂を……以前までこの領内を統治していたオプシダン公以上に領民の安寧に心を砕き、今やこの大陸一富める領内と讃えられているのに。


         * * * * * * * * * * *


「ふ、う……」 「少し落ち着いたか、サツキ。」

「ええありがとう。 それにあの殿方、何者だったのでしょう。」 「さあ……私も展開が急すぎて名を聞くのを失念してしまった。」

「それにしても失敗してしまいました。 あなたがあんなに美味しそうに生のお魚を食べていたものだから、私も真似したら……」 「まあ今回は危うきに至るまでではなかったからな、次からは火で炙ってからにしよう。」


今回私は同行している幼馴染みであるキサラギの機転のお蔭―――と、名乗らじの殿方のご厚意に甘えて事なきを得た。 あの時はキサラギも空腹だったため、あともう少しで流血沙汰になっていた処をの殿方のお陰もあり騒動にならずにすんでいたのだ。 しかもここ数週飲まず食わずだった私にそのお腹が満たされるまで食べさせて頂いた―――ま、まあ少しははしたない所を見せてしまったけれど……このご恩は必ず報いなければならない。 そう思い、私は私が修めている“イザナミ”の秘術『形代操作』を行使し、彼の殿方の足取りを探ったのです。 すると―――


「アマルガム……」 「アマルガムと言えば、このオプシダン公領と隣接しているグラナティス公領の境に位置する交易都市だな。」

「そんな処に移り住んで何を―――もしかすると新たなる生活を?」 「しかしあの男性―――見ても判るくらいに剽軽ひょうきんとした恰好だったが……」

形振なりふりを見て判断すると言うのは下の中でも下と言うもの。 もしかすると何か考えあっての行動なのかも知れません。」 「ならば私達もそちらに?」

「ええ、すぐにでも追いましょう―――それと私達の由無よしなしを視ていた視線も気になります。」 「エルフ……少し気になりますが、まあ大したことにはならんでしょう。」


彼の殿方が向かった先とは、“中級”魔王オプシダン公が治めていた領内と“下級”魔王グラナティス公が治めている領内の境に位置しているアマルガムと言う都市でした。

魔王の格と言っても差し支えない“上級”“中級”“下級”……その中でも“上級”とは一見聞こえはいいのですが、要は脳筋全開―――言い方を悪くすれば『闘いこそがわが人生』な方々なのです。 だからと言って、とは言うものの私達オーガもそれとは似たようなもので、現在の私達の状況はまさに『国破れて山河在り』(とは言えまだ国は破れていませんですけれどね)―――ヒューマン達との戦いに敗れてしまった私は、幼馴染みであるキサラギと共にこの地に逃げてきた次第なのです。 ところがその道中で私が体調を崩し、その所為せいかこの街でトラブルになりかけた処を派手な色と柄のシャツを着流し、ステテコにサンダル、頭にはサングラスを引っ掻けているという風体ふうていの魔王族の殿方に救ってもらった……その恩に報いる為に行動を起こす事にし、恐らく同じ殿方に目を掛けていると見られるエルフにも気を配りながら、私達は彼の殿方の足取りを追ったのです。



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