『聖なる夜に、ケーキを二人で』
駿介
1
二月二十四日。
仕事納めまであと四日に迫る中、山と積まれた書類の間で、ひたすら終わる気配のない仕事を黙々とこなしていた。なるべく考えないようにしていたが、正直このままではどうあがいても到底今年中に終わりそうにない。絶望のあまり、思わずその場に突っ伏す。顔の下にはキーボードがあるが、もはやそれに頓着する余裕もない。顔のどこかが当たってしまっているのだろう、「あ」の文字が高速で並んでいく画面を、キーボードのゴツゴツとした感触を顔全体に感じながら、どこか虚ろな目で見ていた。
「はぁー、仕事終わんねぇー」
大きすぎる独り言が、これまた大きな溜息と共に人気のないオフィスに虚しく消えていく。クリスマスイヴに、それももうすぐ日付も変わろうかという時間に、好き好んで残業するような変人は自分以外いないと見えて、自分の周囲以外に明かりの点いている場所はない。薄暗いオフィスに、見渡す限り無人のデスクが並んでいる。普段は一人で残業になろうと全く気にならないが、さすがに今日ばかりは自分が少し惨めに思えてくる。同じ課の社員達は今頃飲み会でもしている頃だろう。
「おーい」
突っ伏してから数分経った時、背後で人の声がした。オフィスには誰もいないはずだ。幻聴だろうか。最近忙しいことには忙しいが、そこまで疲れているのだろうか。そう思っていると、もう一回同じ声が聞こえた。
「おーい、大丈夫かー?」
振り返ると、コートを羽織った男性が立っていた。とうとう幻覚まで見るようになったのかと一瞬思ったが、その姿に確かに見覚えがあった。
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