第48話 緑山 雫と無双演武

骨川財閥、骨川ほねかわ 大便だいべん総帥宅前。


「さぁ、みんな行くわよ!」

「「おー!!」」

緑山みどりやま しずくが声を上げ叫ぶと、後ろにいた隠密部隊、諜報部隊の面々も一斉に大声を上げ自分達の気持ちを高ぶらせた。


「では我々諜報部隊15名は敵背後から囲いこむように攻め込みますので、雫さんと凛は正面突破よろしくね」

肩ぐらいまであるオレンジ色の髪を二つに分けたおさげに束ねた少し冷めた目をした、全体的にスレンダーなAカップの桜野中学二年生、白愛会諜報部隊リーダーの小林こばやし かおる緑山みどりやま しずく渋谷しぶや りんに声を掛けてそれぞれの目的地に拡散して行った。


「任しておいて薫! 貴方あなたも気をつけなね」

凛は薫に向け笑顔でピースサインをする。


ーー

ーー


〜骨川邸門前〜


骨川邸門前には黒服にサングラスをした男が十人ほど各々おのおの持ち場に就き待機している。


雫が門の目の前に歩いて近づくと、二人の黒服が雫に近づき。


「おい! 貴様何してる? ここは部外者立ち入り禁止だ……」

黒服が何かを言う前に雫は男の懐に潜り込み二人に肘をめり込ませ、男二人は一瞬で気を失うと雫におおかぶさる様に倒れ、それを見た他の黒服の面々は直ぐに胸から拳銃を取り出し雫に向けて構えるも撃てない。


それもそのはずだった、雫は覆い被さる黒服を盾代わりにして、拳銃を撃てば味方に当たる、しかも位置的に雫を中心に左右で黒服が銃を構えた為に、下手したら味方同士で同士撃ちにもなりかねないからだ。


「バカね、弾を撃てない銃なんて単なるガラクタよ」

雫はそうつぶやくと、一瞬で左側にいた黒服四人に詰め寄り、腹への正拳突き、からの頭部へのハイキック、そして溝内を狙った回し蹴り、四人目は下からあご目掛けての突き上げる様な掌底しょうていを喰らわせた。


それはまるで功夫かんふー映画を見ているかの様な綺麗な流れで四人の黒服を一瞬で片付け、敵も味方もその華麗な動きに見惚れてしまっていた、だがただ一人だけ雫の攻撃と共に動いていた者がいた。


「よそ見してんじゃないわよ」

渋谷 凛は雫が左側に攻めている時にすでに行動に移っており、右側の黒服四人を一人目をハイキック吹っ飛ばし、次をボディーブローで地面に沈め、次を左フックをテンプルに突き刺し、四人目の男の銃を鷲掴みにすると指の関節の逆に銃を捻じ曲げ、黒服の指をへし折り銃を奪うと躊躇ちゅうちょなく黒服に目掛けて銃を太もも目掛けて発泡し撃ち抜く、黒服の男は泣きながら悲痛な叫びを上げ地面に倒れこみのたうち回っていた。


「銃を使うならこう使うのよ!」

凛は銃を放り投げ言い捨てた。


それを見ていた隠密部隊の四人、凛の部下は雫や凛の戦いに見とれ感動していると。


「いい、あんた達見とれてないで気を引き締めて戦わなきゃダメよ! これは喧嘩じゃない……殺し合いなの、一瞬の迷いや躊躇ちゅうちょが死につながるの」

凛は勝ち誇るでもなく、自分の部下を思うがためにえて厳しく彼女達に激を飛ばす。


「さぁ本丸へ突入よ! 私達で白君の幸せな生活を守ってあげましょう」

雫が気合の入った声音こわねでみんなに話しかけ。


「「はい!!」」

白愛会のメンバーもそれに同調する様にさらに気合の入った声音で返事を返し、門を開け骨川邸敷地内に入る。


「ほほーう、君達が白愛会とか言う、最近調子に乗ってる組織のバカ者共かな? わっはっはっはっ」

バーコード頭の鏡餅かがみもちの様な体型をした糞みたいな顔をした初老の男が、広い敷地の真ん中にそびえ立つ屋敷の三階のベランダから、拡声器を使い雫達に話しかけた。


「奴が骨川ほねかわ 大便だいべんです」

凛が雫の耳元でささやく。


「これはどーも、わざわざ糞財閥のトップがお出迎えしてくれるなんて光栄です……まぁそのトップも今日で終わりですけどね」

雫は喋りながら少しずつ周りを警戒して邸宅に近づく。。


「こ、小娘が! おい、お前たちっちまいな!!」

大便は側近にそう告げるとベランダから部屋に戻り姿を消すと、敷地の四方八方から黒服の連中が数千の規模で雫達に襲いかかり。


「フッ、数が多ければ勝てる……そう思ってるから雑魚だって言うのよ!」

雫は大勢の黒服共が襲いかかって来ていても全く慌てる様子もなく、一人一人を確実に仕留めていく。


「白様に害をなす者共は皆潰す!」

隠密部隊の面々も同じように次々と雫の様に敵を片付け、敵の悲鳴は止まることがなかった。


しばらくくすると敵の背後からも悲鳴が鳴り始め、諜報部隊のメンバーも雫達の逆の左右後方から攻め入り、敵は挟まれた状態で戦う事になった。


見る見るうちに数千もいた黒服の男達はどんどん姿が減り、黒服の男達の中には戦意喪失し逃走するものも現れ、骨川陣営は事実上壊滅状態と化していた。


「さぁ雑魚は片付けたわ、これから親玉である大便を始末するわよ……ん!?  ちょ、ちょっと待って……所で薫はどうしたの? あなた達と一緒に行動していたのでわないの?」

雫は後方から来た諜報部隊と合流すると、その諜報部隊リーダーの小林 薫がいない事に気づき、諜報部隊のメンバーに問いかける。


「我々もそれぞれの持ち場に拡散したので途中までしか一緒にいませんでしたが……薫さんは一番奥の後方からこちらに攻め入る算段だったので……」

諜報部隊の一人がそう話していると。


「お探しの小娘はこいつかな?」

屋敷の方から知らない男の不気味な声が聞こえてきた。


「誰!?」

凛が警戒し構えると、屋敷の裏手から全身真っ黒な服に丸縁まるふちのサングラスをかけ、気持ち悪い笑顔を浮かべた一人の男が何かを引っ張ってこちらに向かってくる。


「お前達は黙って降伏しろ、このむすめがどうなってもかまわないのか?」

男は口に猿轡さるぐつわをされて縄で縛られた小林 薫を地面に引きり、顔を踏みつけ周りを舐め回す様に見つめる。


「か、薫!?」


「クックックッ、俺はな世界最凶の殺人者ジャック・ザ・リッパー、俺が出てきた時点でお前達の負けなんだよ」

ジャックは笑いながら自己紹介をし、縄で縛られている薫の服をナイフで切り裂いていく。


「ほらどうする? 早くしないとこいつの服は全部引き裂かれて、最後は内蔵をも露わになっちまうぞ、クックックッ」

ジャックは素早いナイフ捌きで薫を下着姿に露出していく。


「ゔぅぅ……」

薫は猿轡さるぐつわのせいで叫べないが、服が引き裂かれる度にうなり、泣いていた。


「き、貴様!!」

凛は怒りにまかせ、ジャックに突進し攻撃する。


「遅い!」

しかし凛の攻撃は簡単に交わされ、首元に一撃をくらいその場に倒れ崩れる。


「お前たちの動きなど、昔戦ったパープルデビルに比べたら遅く、弱い……雑魚なんだよ、クックックッ」

ジャックは強者の余裕なのか、殺人鬼気質なのか、弱いものをいたぶる事に喜びを感じ、恐怖する雫達をもてあそぶ事に快感を感じていた。


「くっ……! あ、あれは私達じゃ勝てないわ……だから、だからいいわね……私が……私が奴を抑えてるから、その間に貴方達あなたたちだけでも逃げなさい……私が身代わりになってでも薫と凛を……」

雫は勝てない事を悟り、自分なんかについて来てくれた部下達をなんとか逃す事を優先する事に頭を巡らせる。


「い、嫌です! 雫さんを置いてなんて逃げられません……わ、私達も戦います」

隠密部隊の一人が叫ぶ。


「これは命令よ! 貴方達がいたら邪魔なのよ!」

雫は心を鬼にして言い放った。


「「し、雫さん……わ、私達は……」」

白愛会のメンバーは雫が本心でそんな事を言っていないのは分かっていた、だからこそ逃げる事も出来ないし、このまま見捨てれば雫もやられる、白愛会は皆家族以上の気持ちで結ばれた組織なのだから雫を凛を薫をこのまま見捨てる事なんかできない。


「お、お願い……逃げて……お願いだからあなた達だけでも……」

雫は泣きながら彼女達に背中を向けながら頼む。


「……」

白愛会メンバーは動けない、いや動かない。


「ご……ごめんなさい紅ちゃん、私の身勝手な行動で仲間達を……」

雫は天を仰ぎ、呟くように紅に謝り目に涙を浮かべると、遠くから何か叫ぶ声が聞こえた。


「何してんのよ雫……前を向きなさい!」


その声は遠くから聞こえるのにみんなの耳にハッキリと届き、その場にいる白愛会のメンバーを励ますように心に突き刺さる明るい声だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る