第22話 久須 竜也と言う男

久須くす 竜也たつやは血を吹き出しながら全く動かなくなった黒戸 白の様子を薄気味悪い笑顔を浮かべ眺めていた。


「クックックッそれにしてもやっぱいたぶり殺すのはたまらねーな、あの何度も何度も刺しては立ち上がる悲鳴ひめい……まるで楽器を奏でている様じゃねーか、なぁ礼子?」

久須は手に付いた返り血を舐め、オーケストラの指揮者の様な動きで恐怖で震える礼子を見下ろしながら語りかける。


「あぁ……あ……く、狂って、狂ってるわ……」

礼子は久須のあまりの狂気じみた行動に腰を抜かしながら震え、周囲の野次馬も現場を見ようとする者と悲鳴を上げて逃げ出す者で大混乱を起こしていた。


「いいね、いいね……色々な奴らが俺とお前の為に悲鳴のシンフォニーを奏でてくれてるぜ。 さぁ、邪魔者は始末した、次は礼子……お前がいい音色ねいろあえぎ声を上げてくれ」

久須は周りを見渡し不気味な笑顔を浮かべると礼子を睨み、鮮血に染まったナイフを指揮棒の様に振るとジリジリと礼子に近づき、ナイフを振りかざそうとした。


「貴様、何してる!」

礼子が襲われそうになる瞬間、多数の警察が久須を取り押さえ直ぐにナイフを奪取だつしゅ、久須は何の抵抗もなく素直に捕まった。


警察の犯人確保を見計みはからい、その後に続く様に担架たんかを押して救急隊員も駆けつけた。


「礼子!! 覚えておけ……俺はいつかお前を食ってやるからな……クックックッ」

久須は取り押さえられながらも礼子に向かって大声で叫び高笑いを浮かべ、警察車両へと押し込められた。


ーー

ーー

ーー


〜警察車両〜


「おい久須、大便さんの知り合いだからってあまり好き勝手やられては困るぞ」

久須に手錠をかけた警察官の一人が久須に話しかける。


「クックックッ、あれぐらいの事なら今までも何度もあったろうが? 後処理は警察でなんとかしてくれ」

久須は話しかけてきた警察の方を振り向き笑いながら答える。


「ば、馬鹿野郎! 骨川財閥の縄張りならまだしも、あそこは全組織中立地域だ、下手したらまた昔の様な抗争に発展しかねないんだぞ」

警察官は呆れた口調で注意をうながす、すると久須は手に掛けられた手錠をいとも簡単にぶち切り。


「おい、お前……殺すぞ! 偉そうに俺に説教垂れてんじゃねーぞコラァ! 抗争? いいじゃねーか、俺らに逆らうやつはどんな奴でも、老若男女を問わず皆殺しだよクックックッ」

久須は警官の口元を手ではさむ様に掴むと。低い声で警官の目を睨み脅す。


「おい後ろ! 少し大人しくしろ、久須に何言ってもしょうがないのは昔からだろうが……それより向かう場所は骨川刑務所でいいのか?」

警察車両を運転している運転手が後部座席で騒いでる二人を注意しつつ、行き先を尋ねる。


「あぁ、そこで暫く身を隠して置いてくれって上からのお達しだ」

後部座席に座る警察官が答える。


「クックックッ」

久須は深々と椅子に座り直し高笑いを浮かべ、久須乗せた車両は骨川財閥が管理する骨川刑務所へと走り出した。


ーー

ーー

ーー


〜骨川邸〜


「旦那様失礼いたします、先程警察の方から連絡がありまして、久須 竜也がショッピングモールで揉めた男子高校生を滅多刺しにしたと言う連絡が入ったのですが」

執事の服装をした老紳士が骨川ほねかわ 大便だいべんの部屋の入り口付近から伝える。


「そうか、なら報道機関と警察に上手いこと手を回しておいてくれ、久須に対して批判的な事を言ったり書いたりする者は取り敢えず拉致っておいて構わん」

大便はワインを飲みながら告げると、さらに老紳士に歩み寄り。


「久須は一騎当千の猛者もさ、そこいらのゴミ庶民が死んだぐらいで潰されては勿体ない男だ、もしその滅多刺しされた学生ガキの親族などが騒ぐ様ならそいつらも消してしまえ」

大便は悪そうな笑顔を浮かべ老紳士に耳打ちする様に話す。


こうして警察、報道機関すらも骨川財閥の支柱に収めていた骨川 大便は、一瞬騒がれた久須 竜也の事件をすぐに鎮火させた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る