カクテル(休止中)
連夜
第1話 襲い、襲われ
「はぁ、はぁ……」
深夜三時半、白いレース姿の少女が人気のない街中を逃げ回る。
「お嬢さん!俺たちと遊ぼうぜぇ」
「大丈夫、お兄さんたち怖くないよ~」
少女を追うのは酒酔いの男二人、一人は髪を紫に染めており、一人は首元にタトゥーを入れている。
こんな柄の悪い野郎たちならまだしも、普通の一般人であろうと少女を襲うのは無理もないのだろう。彼女は特別なのだから。
シルクのような純白の肌に似合う、黄金に輝くブロンズヘアー。Sラインの美しい曲線を描く華奢な身体は、無垢な少女の容姿に反して色気を帯びている。
そして、圧倒的な印象を与えるその真っ赤な瞳。その瞳は写した者の身も心も魅了する。
「へへっ。追~いつ~いた~」
「外だけど、人も来ないしココでおっぱじめるか~」
不埒な男二人は逃げ場を失った少女の怯える眼差し、小さく震える身体に、更なる性欲の高まりを覚えた。眼球は乾くほど開き、その挙動は変態を物語っている。
「もう逃げられないぜぇ!」
魅了された男二人が路地裏の袋小路にて不運ながらも逃げ場を失った。
そう、これは勘違いだ。狩られる側と狩る側の勘違い。
「ふふっ」
先ほどまでの怯えた表情とは一変して、少女は上品にも袖で口元を隠しほほ笑んだ。途端その場の、街の、夜の雰囲気が変わった。
その変化には魅了され我を失っていた男たちも流石に気づき、身構える。鳥肌が立ち始め、緩んでいた表情筋が固まる。
「おい、なんかヤバいぞ、これ」
「に、逃げるぞ!」
男二人は少女が醸し出す怪しげな雰囲気に怖気づき、息をそろえたかのように来た道を戻ろうと後ろを振り返る。
だが、そこに道はなく、あるのは謎の肉壁だった。
「な、なんだよこれ……」
その得体の知らないうごめくモノに驚き、腰を抜かした金髪男は隣にいたはずのもうタトゥー男が見えないことに気づく。そして、タトゥー男が居たはずの場所に零れ落ちる赤い液体。
金髪男は恐る恐る、その頭上を見上げて。言葉をなくした。
そこには大きな口の様なものに食われているタトゥー男の下半身だった。
「うぇ?」
その衝撃と恐怖と諦念が入り混じった感情の声が、金髪男の最後の言葉となる。
わずか一瞬、抗うことも叫ぶこともなく、静かに男二人がか弱い少女に喰われた。
「まっ、ずぅーーー」
体格が全く異なる男二人を殺し喰った少女が放った言葉は二人への弔いの言葉でも、その弱さを蔑む言葉でもなく、まるで苦手な食べ物を無理して食べた後の子供のような発言だった。
「やっぱり見た目からマズそうだと思ったのよねー。髪染めてるし、墨いれてるし。でもお腹すいてたからしかたがないか……」
少女が彼らを虐殺という食事のターゲットにしたのは、憎しみや恨みはおろか、食欲や他の欲求など関係なく、ただただバカそうで騙し食いやすそうだから。
少女の瞳の色がいつの間にか、赤から金色に代わっていた。夜空に輝く月星のような光を放つその瞳は、少女の雰囲気を人間の域から超越させる。
「ふーっ」
少女は食事を終えて、一息し精神を落ち着かせる。すると、瞳の色はゆっくりと光を失い、黄金から魅了の赤に移り替わる。
「まぁ、腹はたまったし、今日はおとなしく帰るかな。奴らが気づかないうちに」
ため息交じりの言葉を吐き、路地裏を出る。少女の後には男二人の体も、血も、存在も消滅していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます