第2話 運命のルーレット2
俺はありったけの気合いを込めてボタンを押した。
ルーレットの回転が次第に緩み、やがて止まる。
頂点の矢印が示すのは、虹色に輝く領域――
「こ、これは! SSRを上回る
……モテ、死……?
「す、すごい! 噂には聞いていましたが、初めて見ました……!」
カマタさんが興奮している。
なるほど、かなり珍しいらしい。
して、モテ死とは?
「……女の子を侍らせて酒池肉林でいちゃいちゃしながら死ぬ、とかでしょうか?」
女の子を侍らせて酒池肉林できるほど器用な性格ではないが……
「もしくは、享楽と怠惰と放蕩の限りを尽くして、女の子と
享楽と怠惰と放蕩の限りを尽くす予定もないが……
あと、合体をセッションって呼ぶ人初めて見た。
「つまり、ハーレムの
おめでたくない。死の恐怖を抱えながらセッションなんて嫌すぎる。相手の子だってトラウマになるだろ。好きな子のトラウマになるくらいなら一生セッションしたくないよ。
どうやら珍しすぎて、カマタさん自身もモテ死の詳細は分からないらしい。
一回きりのSSR確定チケットで謎の死因を引いてしまった。
果たしてこれは当たりと言っていいのか? モテ死とは一体……?
「それでは、以降は普通のガチャになります。まずは容姿ガチャからいきましょう」
モテ死の衝撃を消化する暇もなく、目の前に鏡が現れた。
「容姿ガチャ、スタート!」
鏡に映った自分の容姿が、次々に切り替わる。
死因は謎の結果だったが、他のガチャで当たりを引く可能性もないではない。運を天に任せよう。
俺は気持ちを新たにしつつボタンを押し――はっととある可能性が頭をよぎる。
ここでもしもイケメンを引き当てたら……?
《 イケメンとして転移する ⇒ 「きゃー、イケメン!」「かっこいい、抱いて!」 ⇒ 死 》
待て待て待て! 容姿によっては、開幕即モテ死の可能性もあるぞ!?
イケメンはいやだ、イケメンはいやだ……!
鏡に向かって必死に祈る俺の横で、カマタさんが「パ・ジェ・ロ、パ・ジェ・ロ!」と声を上げる。
やがて、鏡の中に、長身の男が現れた。
不健康そうにくすんだ青黒い肌に、がりがりにこけた頬。艶のないざんばら髪。濃い隈に縁取られた三白眼は陰険そうにつり上がり、薄い唇からは凶悪なギザ歯が覗く。ひょろりと細長い身体は貧相に痩せ、首の出た猫背が化け物めいた雰囲気に拍車を掛けている。
見るからにモテとはほど遠そうな悪役顔だ。さながら青トカゲ。
うおおおおモテ死回避! やったー! 一生モテないぞー! ありがとう俺の不運! 本音を言うと一生に一度でいいからモテてみたかったなぁ(血涙)!
「ど、どんどんいきましょう! 次は武器ガチャです!」
くっ、モテモテハーレムの夢が絶たれた今、レア武器で無双ルートに賭けるしかない!
SSR武器来い! とにかく無双できそうな強いやつ! エクスカリバーとかグングニルとか、伝説の武器的なやつ!
パ・ジェ・ロ! パ・ジェ・ロ! とカマタさんと声を合わせて合唱する。
そしてルーレットが導き出した答えは――
【ひのきのぼう】
「気張っていきましょう、ガチャはまだまだありますから」
カマタさんが慣れない仕草でガッツポーズをしてくれる。
とても気遣われている。
カマタさんに励まされながら、次々にガチャを引いていく。
名前に種族、年齢、職業、身分、レベルに所持品、所持金。HP、MP、魅力、体力、魔力、攻撃力、防御力、敏捷、幸運、スキル、魔術、スポーン地点、etc…。
やがて、すべてのパラメーターが出そろった。
「それでは結果を見てみましょう。評価によって、AからFでランク分けされています。Fが最低ランク、Cが平均とお考えください。特に良いものは、SやSSの評価が付きます。ステータスを確認したい時は、『アポート・ステータス』で呼び出せます」
言われた通りに唱えると、透明なスクリーンが現れた。
主なガチャ結果は次の通りだ。
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【ステータス】
名前:シリウス・ヒューゴ
種族:ヒト
年齢:23歳
性別:男
Lv:3
身分:平民
職業:なし
所持金:銅貨五枚
装備品:ひのきのぼう F+
布の服 F+
ボロ布のマントF
革の靴 E
所持品:野菜の種 E
木の実 F
ヤギの干し肉 D
称号:なし
スキル:なし
魔術:生活魔術【灯火】 E
【各種パラメーター】
HP:1500 E
MP:200 F
魅力:3 F
体力:13 F
魔力:15 F
攻撃力:5 F
防御力:12 F
敏捷:51 E
幸運:8 F
-------------------------------------
Cが平均……ということは、軒並み普通以下ということか。
つまり。
「……スペック的には、その……最弱と、言っていいかと……」
なるほどなるほど。
……これ、逆にどうやってモテ死ぬの?
カマタさんは責任を感じているのか、涙目でぷるぷるしている。
あー! 全っ然、大丈夫です! 前世も似たようなもんだったし、慣れてる慣れてる!
カマタさんはキッと顔を上げた。
「まだです! まだ使い魔ガチャが残っています!」
おお! 使い魔!
「使い魔の性能によっては、全てを挽回することが可能なはず! このルーレットに全てを賭けましょう!」
熱の籠もった言葉に胸が高鳴る。一体どんな使い魔がいるのだろう……! 不死鳥やグリフォン、ドラゴン――異世界を共に生き抜く、俺の相棒……!
そして、最後のルーレットが回り始める。
今まで報われなかった分、全ての運を引き寄せろ! ここで使わずいつ使うんだ!! 見せてやるんだ、俺の本気を……――!!!!
「パ・ジェ・ロ!!!! パ・ジェ・ロ!!!!!!」
俺とカマタさんの魂の叫びがこだまする。
ありったけの願いと祈りを賭して、強く握りしめた拳をボタンに叩き付ける!
そして、矢印が示したのは――【たわし】。
「……どうぞ」
ありがとう。たわしの現物、初めて触ったよ。案外チクチクしないんだな。
「ルーレットにたわしはつきものとはいえ……転移ガチャでたわしが当たった人は初めて見ました」
当たったというか外れたというか。
「本当に、本当に申し訳ございません……!」
土下座しようとするカマタさんを慌てて押しとどめる。こちらこそ運が悪すぎてすみません!
……まあ、考てみれば逆にラッキーだ。このトカゲ男の容姿と最弱スペックなら、万が一にもモテる心配はない。ということは、実質不死身だ。
それに、暴漢に刺されて終わるはずだった人生なのだ。
ルーレットがふっと闇に溶け消え、代わりに光溢れるゲートが現れた。
新たに与えられた身体で、ゲートをくぐる。
別れ際、カマタさんがそっと俺の手を取った。
「どうぞ、お元気で。あなたの新たな旅路が、愛と幸福で彩られたものでありますように」
手を包むぬくもりから、彼女が心から俺の幸せを祈ってくれているのが伝わってくる。
乾いた心に、じんわりと熱が灯った。
ありがとうございました、と礼を言いながら頭を下げる。
カマタさんはそんな俺を見て泣きそうな顔になり、さらに深く頭を下げる。
俺もますます深々と頭を下げ、カマタさんもいっそう深々と頭を下げ、最終的に両者二つ折りになりながら、世界がぼんやりと霞んでいった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――不幸な事故により命を落として転生した善良な男が、その愚直なまでの優しさと勇智を以て最強無双の力を手に入れ、種族・年齢・性別問わず多くの者に慕われ敬われ溺愛されながら幸せな人生を送り、晩年に至るまでモテてモテてモテまくり、愛した家族や仲間たちに見守られ、たくさんの人々に惜しまれながら大往生を遂げるのは、およそ100年後のこと。
最弱パラメーターで転生したその男が、外れアイテム【たわし】の力で無双して成り上がり、数々の伝説を打ち立てようとは、彼自身を含め、今はまだ、誰一人として知るよしもないのであった――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
お読み頂きましてありがとうございます。
主人公は【死因:モテ死】を引きましたが死ぬことはなく、優しさが報われて幸せになります。
最初は最弱ですが、たわしの力で爆速で最強に成り上がります。
サクサク読めるストレスなしのハッピーエンドです。
少しでも「面白い」「続きが読みたい」と感じましたら、★評価やブックマーク等していただけますととても嬉しいです。
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