アポトーシス

成瀬鳴

第1話 非通知

 空気が停滞している。静かな湖面で浮かんでいる木の葉みたいに。

 枯れ葉ではない、青々しい夏草。でも、時折、波紋が広がる。黄ばんだクリ―ム色のはめ込み式業務用クーラーの音だ。羽虫の羽音より低く静かで、でも生命を感じないその音が、ずっと空気を揺らしている。

 夏休みの美術室は、幻想的だ。画材の混ざり合った化学的な匂いと人気ひとけの無い空気は、きっとここでしか体験できない。

 僕は、20号のキャンバスに描かれた景色と向き合っていた。暗い夜空から黒を奪う様に、白い星が光っている。空も真っ黒ではない。輝く星の白と混ざるように、深い群青色だ。

そんな夜空を名前も知られていない山の山頂で、1人の女性が見上げている。

女性の隣に、恋人や友人、家族の姿はない。たった1人で、その女性は星空を見上げていた。影が掛かっている女性の顔はよく見えない。けれど、僕は、笑っているようにも、泣いているようにも思えている。

 ハッキリしないまま、この絵を描いている。

 まだ絵は完成していない。ほとんど完成していると言っていいが、正解ではない気がして納得できない。正直に言うと、筆は進んでいない。

「ねぇ、イヤーワーム現象って知ってる?」

 夏休みの美術室特有の空気を風鈴のように澄んだ声が割いた。

 僕は、この声が嫌いじゃない。夏休みの学校の美術室は、微かな不気味が混在している。自分を知覚している誰かの声が聞こえている方が、くどくない恋愛映画の様で理想的だと思う。

「……確か、同じ音楽が頭の中でループすることだっけか」

 パレットに白と紺色の絵具を出しながら答える。

「正解。 テストの時とか、昔のCMのフレーズがループし続ける事あるよね」

 彼女の姿を見ずに、声だけ聞いていると本当に理想的だ。愛らしくクスクスと笑い、それで擦れる服の音も心地よかった。

 でも、彼女――真辺茉奈まなべまなが僕にとって理想的な女性であると、本人に伝えたことはない。

「じゃ、エポニムってなんだかわかる?」

「元からある物の名前を使って命名された新しい物のことだっけ?」

「また正解。 凄いね」

 パレットの上で作った水色を点付筆に乗せた。僕は、今、絵画の中の女性に涙を付け加えるか悩んでいる。

「じゃ、ウェルテル効果は何だと思う?」

「うーん……わからないな。 でも、ゲーテの小説でウェルテルって言葉が使われた物があった気がする」

「物知りだね。 自殺の報道に感化されて自殺者が増えることだって。 由来は、ゲーテの若きウェンデルの悩みって小説だってさ」

 僕は、絵画に涙を描くのをやめ、筆を置き、声の方を見た。規則性もなく様々な種類の絵具で汚れた学校の机で『身近なアレの雑学』と題された本を夏仕様のセーラー服の上からカーディガンを着た真辺が読んでいる。

「寒い?」

 立ち上がり、窓に手をやる。

「少しだけね。 でも、窓を開けたらすっごく蒸し暑いからヤダ」

 従順に彼女に従おうと窓から手を離しかける。少し悩んで、やっぱり窓を開けた。

「風邪を引くよりはマシだよ」

 静かな湖面の様だった美術室に、夏の日差しに蒸された空気が入り込む。このドロリとした空気は嫌いじゃない。

 僕は、画材の前には戻らず、真辺の突っ伏している机の前に椅子を持っていき「今日は、最高気温更新だってよ」と言いながら座った。

「そんな本買ったの?」

「ううん、昨日、先輩が家に持ってきたから借りた」

 真辺の口から出たという言葉に、胸がムカっとした。

 すぐに自分を落ち着かせる。別に、僕は彼女の彼氏というわけではない。僕に彼女の人間関係に口出す権利は無いだろう。

 出来るだけ会話に無関心を装い「そう」と相槌を打った。

「趣味の悪い本だね」

 悪い癖だ。僕は、真辺に関して神経質になり過ぎる癖がある。

 真辺は、本に落としていた視線を上げて、僕の目を見ながらニヤリと口角を上げる。

「女の先輩だよ。 心配になった?」

 心を見透かされたような気がして、ドキッとした。でも、あくまで無関心を装い「何が?」と答える。加えて、神経質になって言った事を否定するために言葉を続けた。

「雑学は、会話弾ませるコツらしいよ」

「だから、今日の君は、珍しく饒舌なんだね。 この本の雑学をほとんど答えられた」

 僕は、彼女の事を良く知っている。グリンピースが嫌いで、好きな色は水色、いつか大型バイクの免許を取ってみたいってこと。昔から嬉しかったり、楽しかったりして笑うと目をクシャリとさせ、僕にちょっかいを出すときは、口角だけを上げる癖がある。恋人ではないのに、それほど彼女をを知っている理由は、僕と彼女の関係が幼馴染だからだ。

 けれど、真辺は、僕が彼女を知っているよりも、僕を知っている。

 僕が、何も答えないでいると、口角だけを上げて笑い、また本に視線を落とす。

「あ、これなら君でも知らないんじゃないかな。 アポトーシスって知ってる?」

 聞いたことがあるような言葉だ。でも、脳内にぼんやりと存在するその姿を掴もうとすると、靄のようにサラリといなくなる。

「もしかして知らない?」

 僕は、往生際悪く「分かりそう」と答えた。

「どうせ、出てこないよ。 正解は、あらかじめ予定されている細胞の死。 別名、プログラム細胞死だって」

「逆の聞き方をされてたら分かったよ。 細胞に予定されている死はなんというでしょうってね」

 真辺は、子供の秘密を知ったうえでカマをかける母親のように「そう」と含みを持って言った。

 僕の言葉は、事実だ。真辺の質問の答えが『アポトーシス』ならすんなり答えられただろう。でも、このもどかしい感覚を言葉で説明するのは難しい。居心地が悪くて、僕は、椅子から立ち上がり美術室の出口を目指す。

「どこ行くの?」

 真辺に負けた気になって場所を変える、と言えるわけもなく、適当な理由を取り繕った。

「もう少しで昼になるから、いつもの場所に行く」

 真辺は、突っ伏していた体を「えー!」と嫌そうに飛び起こす。

「暑いからここで食べようよ」

「嫌だよ。 画材の匂いとお昼ご飯の匂いが混ざるだろ」

 僕は、それだけ告げて美術室を出た。引き戸は閉めなかった。美術室から「待ってよ、もー」と不貞腐れた声が聞こえて来て、すぐに真辺が後を付いてくる。

 カーディガンを脱ぎ、夏のセーラー服から覗く白く細い腕は、夏の日差しに晒したら、すぐに溶けてしまう雪のようだ。その儚さと全身の線の細さが、とても美しく愛おしいと思ってっしまった。でも、言葉にはしない。

 僕は、幼馴染に『好き』だと伝えたことはない。


 美術室のある3階から1階へ降り購買へ向かう。夏休みだが、平日でも都合よく購買は開いている。といっても、僕のためではない。夏の炎天下の中、部活の練習に励む運動部のためだ。

 僕は、サンドイッチとパックのコーヒー牛乳を買う。真辺は、鮭おにぎりとサラダ、ペットボトルのアップルティーを買った。

 そして、また校舎の3階へと向かう。美術室の前を通り過ぎ、3階から上階へしか繋がっていない階段を上った。この階段は、2階にも1階にも行くことができない。美術室のある3階のフロアから屋上に続くだけだ。

 夏休みはベタな恋愛映画のように、屋上で昼食をとる。元から屋上が解放されていたわけではない。

 夏休み開始から数日が経った日、今日のように美術室で絵を描いていたが、どうにも作業に集中することが出来ず、校舎を真辺と一緒に散策をした日があった。

 その時、真辺が「屋上に行ってみよう」と言い出した。

 どうせ、鍵が掛かっていて入ることはできないと思った。でも、闇雲に校舎を歩いて、運動部の先生と鉢合わせるのも嫌で、屋上に続く階段へと向かった。

 やっぱり案の定、錆びかけた扉が屋上へ続く道を塞いでいて、よく見れば僕らと同じように屋上へ侵入しようとした誰かの奮闘した跡が、扉に引っかき傷のように残っていた。

 ほらね、開いているはずが無いんだ、と思った。

 けれど、僕がドアノブを捻ったら違和感があった。鍵が掛かって扉は開かないはずなのに、やけにドアノブが回ったんだ。何度が、ドアノブを捻り、ガチャガチャと弄っていると、都合よく扉が開いた。

 扉の側面から鍵を見てみたら壊れていて、絶妙な引っ掛かりだけが鍵の役割をしていた。

 だから、ドアノブを持ち上げる様に力を入れて押せば、簡単に開くのだ。少し知恵の輪を解くような運と思考が必要で、答えを知らない奴が入ってくることはない。

 僕と真辺にとって、本当に都合のいい瞬間で、思わず声を上げて笑ってしまった。

 今日も、僕が慣れた手つきで扉を開き、夏の晴天を天井にした屋上へ来た。日差しは、肌を焼くような強さだ。でも、時折吹く乾いた風が、炎天下の居心地の悪さをあまり感じさせない。

 僕らは、適当な段差に座って昼食をとる。

「真辺、君は、夏休みの大切な時間をわざわざ学校で過ごさなくてもいいんじゃないか?」

 僕は一応、僕以外誰も所属していない美術部の部員で、8月末のコンクールに出す作品を描くという目的がある。しかし、真辺には部活や補修といった、わざわざ夏休みを学校で過ごす理由はない。

「家にいるとママが勉強しろってうるさくてね。 制服を着て外に出かけると、ママったら私を褒めるんだよ。 君と話しているだけなのにね」

 真辺は、クスクスと笑いながらサラダにドレッシングをかける。

「でも、事実、勉強はしなくちゃいけないだろ。 僕らは高校3年生だ」

「君だって、絵を描いてばかりで勉強なんてしてないじゃん」

「僕はいいんだ。 美大への推薦入学が決まっている。 絵を描くのは勉強と同じこと」

 昔から絵を描くことが好きだった。チラシの裏に描いていたのが、いつしか自由帳になり、気づいたらキャンバスに描いている。

 中学生の頃には、漠然と、自分は絵と切っても切れない人生を送り幸福を感じるのだろう、と思っていた。そうしたら、高校3年生の時に、都内にある美大への推薦入学が決まった。

 今描いてる作品が、高校生最後の作品になる。だから、自分にとって完璧で理想的な絵画を作り上げたいのだ。絵の中の女性に、米粒よりも小さな涙色を素直に描けない理由は、そこにある。

「私には、君みたいに将来が見えてるわけじゃないの。 勉強なんて、将来が見えていても面倒なのに、見えてないなら尚更だよ」

 真辺は、眉間に皴を寄せながら、大口でサラダを頬張った。頬をリスのように膨らませながら食べている。十分に咀嚼し、飲み込んだ後「あ!」と声を上げた。

「私が、勉強をしたいって思わせるようなことを教えてよ。 雑学王の君なら簡単でしょ」

 箸で僕を指しながら難しい願望を告げてきた。

 空を見上げながら唸る。人の勉強に対するやる気を出させる理由は難しい。喫煙者に、煙草の害を説明したところで、煙草を辞める人が少ないのと同じだ。当たり前の事を言ってもやる気にはならない。例えば、勉強をすればいい大学に進めて、いい就職先があって、お金持ちになれるよ、といったところで理想の域を出ない。

 青空のずっと先で、小さな白い点が横に進んでいる。理由を考えながら目で追っていると雲の尾を引いた。

 飛行機ってあんな高い場所を飛ぶのか……あ。

「もし君が勉強をせずに就職したら、学生と社会人とでは時間が合わなくて、会うことが難しくなる。 それに僕は、高校を卒業したらこの街を出て都内へ行く。 学生同士じゃなくちゃ、余計に会いづらくなる」

 空を見上げながら、独り言のように言い切った後で、はっとした。

 あまりにも直接的に、真辺との時間を特別扱いしてしまい、気恥ずかしくなる。それに、高校を卒業した後も、今の関係を続けようという告白のようなものだ。

 これをネタにからかわれてしまう。

 けれど、真辺から悪戯な声は聞こえてこない。空から彼女の方へ視線を向ける。

「本気にしちゃうよ?」

 目元をクシャリとさせながら満足そうな笑みを浮かべていた。

 今日の気温は、最高気温を更新したとニュースが言っていた。何度更新したのだろう。

 やけに、体が熱く感じる。


 僕らは、昼食を取り終え、屋上で少しの間の食休みをしていた。

 僕は、この時間がたまらなく好きだ。

 蝉の声が嫌というほど鳴り響いていて、まだ練習の終わらない運動部の声が遠くから聞こえている。じっとりと汗ばんだシャツのボタンを1つ外し、気道を空気がスッと通り抜け、学生服の窮屈さに慣れてしまったな、と物思いにふける。

 休日の学校という独特の空気の中で、満足した腹を撫でながら、何でもないことに思いを巡らせるのは、堪らない贅沢と言える。

 屋上の暑さに文句を垂れていた真辺も、このゆったりとした時間に身を委ねていた。

 すると、予告なく軽快な電子音がピピピピと鳴った。1拍ずれて、もう1つ軽快な電子音がリリリリと鳴る。音の正体が、スマホの着信音とすぐに気が付いた。

 僕と真辺のスマホ、2つ同時に着信音が鳴っている。

 僕らは、それぞれポケットからスマホを取り出す。

「非通知から電話だ」

 真辺が、ポツリと呟いた。

「奇遇だね。 僕も非通知から着信だ」

 スマホの画面を真辺に見せた。真辺は、口角だけニタリと上げて「少し怖いね」と笑う。

「出てみよっか。 僕は、2人とも進学相談センターからの電話にジュースを1本賭けよう」

 高校1年の時、全校生徒が進学サポート会社のアプリに登録させられる。高校と提携し、進学の状況を調査しているうんぬんかんぬん、という説明を受け、特に疑問を持たず登録した。

 すると、高校2年生の春頃からメールが多々届くようになり、高校3年生になる前には、電話が掛かってくるようになった。

 電話に出ると大学のオープンキャンパスの情報などのパンフレットを送るから住所を教えてくれと言われる。それが、僕らは鬱陶しくて「着信拒否にしよう」と夏が始まる前に話した。

 僕は、運よくそれを覚えていたのだ。真辺は、少し悩むように唇を尖らせる。

「そうだな……じゃ、この電話が、私たちの劇的な物語の始まりになることに命を賭けるよ」

「命を賭けるって……小学生じゃないんだから」

「命を賭けるくらいの方が面白いじゃん」

 そう弾むように言い終えると、迷いなく真辺は電話を取った。僕も、呆れながら電話を取る。

「もしもし?」

 電話越しからは何も聞こえない。けれど、無音という訳ではなかった。耳鳴りのような小さなノイズが聞こえる。僕は、もう一度「もしもし?」と尋ねた。

『……が、あと……ます』

 やっと言葉が聞こえてきた。しかし、電波が悪いのかノイズは消えず、言葉も途切れ途切れにしか聞こえない。

「すみません、よく聞こえないです」

 電話越しの声が、一瞬、押し黙る。すぐに咳払いをしたような大きな雑音がザッと鳴った。

『真辺茉奈が、あと48時間後に死にます』

 電話がブツリと切れた。酷い悪戯だと思った。けれど、何故か、心臓が激しく脈打っている。

 悪戯だと笑い飛ばしたい。なのに何故か、根拠のない残酷な電話に、底の無い恐怖心を抱いてしまった。

 真辺の方を見る。いつの間にか、彼女も電話が終わっていたようで、目が合う。

彼女は「電話、なんだった?」と目をクシャリと細め微笑んだ。

「ただの間違い電話だった。 僕の負けだ。 ジュースを1本奢るよ」

 残酷な電話の内容を真辺本人に伝えれるわけもなく、嘘を答える。鼓動は、早いままだ。

 電話の内容を忘れてしまおう、と腰を上げた。けれど、真辺は、立ち上がらない。

「どうしたの? 早く、行こうよ」

「本当に、ただの間違い電話だった?」

 真辺は、空を見上げながら答えた。鼻先から顎を通り、喉元を抜ける顔の線が美しく、夏空に彼女が滲んで消えてしまいそうだ。

「ただの間違い電話だよ」

「……嘘でしょ? 私が、死ぬって言われたでしょ?」

 真辺は、僕が彼女を知っているよりも僕を知ってる。だからといって、彼女が僕の全てを見通せる超能力を持っているわけではない。ただ可憐で愛おしい女子高生だ。

 それでも、僕には、彼女が魔女のような恐れられる存在に思えてしまう。

 僕は「まさか」と鼻で笑った。

「私は、電話で『あなたは48時間後に死にます』って言われたよ。 偶然、同じタイミングで非通知から電話が掛かってきて、私は非現実的なことを言われる。 君も、似たようなことを言われたって疑っちゃうな」

 真辺は、空に向けていた視線を僕へ向けて、口角を上げるだけでもなく、目元をクシャリとさせるわけでもなく、夏の夕暮れのように微笑んだ。

 僕の心臓は、自分を誤魔化せないほど脈打ち、今にも食べたばかりの昼食を吐き出してしまいそうな感覚が全身を這う。それが嫌で、正直に打ち明ける。

「確かに、僕も、君が48時間後に死ぬって告げられた。 けれど、誰かのイタズラだろ? 君が、気味の悪い偶然で僕の嘘を疑ったなら、僕は気味の悪い偶然で、悪戯を疑うよ」

「そっかー……ただの悪戯か」

 真辺は、不自然なくらい自然に、悪戯だと許容した。

 悪質な悪戯だ。きっと女子高生の彼女は、酷く落ち込んでいるだろう。けれど、僕は、気が利いたようなセリフで慰める気にはなれなかった。今を取り繕った言葉は、この悪戯を他人事だと投げ出してしまう気がする。

 悪戯だとしても、他人事だと投げ出せない何かが、僕にはある。

 だから「君が死ぬときは、僕も一緒に死ぬよ」と言った。

「ほんと? 嬉しい」

 真辺の表情を見て、狂いそうなくらい愛おしさを感じた。抱きしめてキスをして、肌を重ね合いたいと思う純愛と同じ感覚だ。けれど、僕は、彼女を抱きしめないし、手すら繋がない。

 僕たちは、もっと別な方法で、好きを伝え合っている。

 ただ、その日は、日が暮れるまで彼女と一緒に美術室に居た。絵を描くわけでもなく、くだらない雑学を一緒に勉強したり、くだらない話をずっとしていた。

 運動部も部活が終わり、運動部の顧問の先生に「お前らも、もう帰れ」と注意を受け、やっと学校を出た。僕は、学校から駅まで続く田んぼのあぜ道を遠回りをして、真辺と歩いた。

 今日は、彼女に抱いている純愛を時間という形で表現したかった。

もっと簡単に言うなら、僕は真辺とずっと一緒に居たいと思ってしまった。

 母と別れたくないと思った幼稚園に行く前の朝のよう、あるいは大切にしていたぬいぐるみを無くしてしまった日の夜のように――

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