優しいのはどっち?


「エレーナ様こそお優しい方だと思います。」


「え?」



 つい口が滑ってしまったが、一度口にした言葉はもう元に戻せない。



「私の火傷痕を見て手当をされようとしたのはエレーナ様が初めてです。」


「あ、あのあれは!本当に怪我をしたてのように見えてしまって。すみません…。」



 慌ててながら弁明するエレーナ。



「いえ、ただ驚いただけですのでお気になさらず。」



 リュードがそう声をかけると、安堵したのか落ち着くエレーナ。

 しばらくの沈黙の後、エレーナが遠慮がちに質問を口にした。



「その火傷痕は騎士団の任務で負ったものなのですか?」


「………!」



 ルペルとエミリオ以外でそんなことを訊いてきた人などいない。エミリオはそれを訊いてきた当時まだ幼かったので、全てを話したわけではないが。



「込み入ったことをお聞きしました、申し訳ありません。無礼をお許しください。」



 沈黙が質問に対する拒否だと受け取ったのだろう、エレーナはすぐに詫びた。



「いえ。驚いただけです。そんな風に訊いてくださる方はもう随分いませんでしたので。」



 それもそうだ。まずリュードに近づこうとする人がいない。それに今は”紅蓮の子”の噂に尾ヒレがつきまくり、「あの火傷痕は殺した騎士の家族に付けられたのだ。」とか「殺した騎士に呪いをかけられたのだ。」とか。この火傷痕は騎士になる前からあったというのに。人の噂というのは恐ろしいものだ。



「とても痛そうだったので…。思わず…。」


「え?」


「リュード様から火傷痕だと教えていただいても、どうにも痛そうで…。それに…。」


「それに…?」


「いえ、何でもありません。あの…本当に痛くはないのですか…?動かしづらいとか…。」


「全くありません。左眼にも何も支障はございません。」


「そうなのですか。左眼もちゃんと見えていらっしゃるんですね。」


「………?」


「あ、いえ!初めてお会いしたときは、当て布をしてらっしゃったので、左眼に何かご病気を抱えていらっしゃるのかと。」



 そういえばそうだった。エレーナと初めて会ったときは当て布をしていた。それで病気の心配をするとは薬学を修めているからか、優しいエレーナらしい。



「そんなことは全くございません。両眼とも問題はございません。」


「そうなのですね。良かった…。」


「ご心配いただきありがとうございます。」


「あ、いえ。私が勝手に…くしゅん!」


「大丈夫ですか?もっと風の当たらないところに、ベンチに座りましょう。こちらへ。」


「ええ、ありがとうございます。」

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