添えられた手紙

「あ、たいちょー!」

 リュードが訓練場から北側の庭へ戻ろうと歩いていると前方からエミリオが元気よく駆けてきた。食後に追いかけてきたのだろう。

「おかえりなさい!ルペル大隊長への用事は済みましたか?」

「ああ。」

「良かった!じゃあ、僕らの駐屯所に帰り…って制服はどうしたんですか?!」

「庭に置いてきた。」

「ええ!お庭!?またなんで?」

「色々あってな。」

「色々?」

「色々。」

「色々って、あちょっと、置いていかないでくださいよー!」

 置いて行かれそうになったエミリオは先を歩くリュードの後を慌てて追った。

 垣根の迷路を何度も曲がり事件のあった場所へ制服を回収しに行く。

 最初は事情を話す気のなかったリュードだが、この件に関してエミリオには迷惑をかけるかもしれないと道中で事情を説明していた。

「へえ、そんなことがあったんですね。」

「ああ。この件で駐屯所を留守にすることがあるかもしれない。その時は留守を頼めるか?」

「もちろんです!隊長がいない間は僕が必ず守ってみせます!」

「ありがとう、エミリオ。あと、この件は広めないでくれ。」

「…どうしてです?」

「このようなことで女性の名前が有名になるのは避けた方が良いのではないかと思ってな。」

「なるほど。分かりました!でも別に騎士団会議で名前を公表したりしないですよね?」

「念には念を、だ。」

「了解です!」

 そんな会話をしているといつの間にやら目的の場所に付いていた。

「あ、ありましたよ!隊長!」

 エミリオが指を指す先にはぴっちりと綺麗に畳まれた白色の制服がベンチに置いてあった。

「畳み直してくださったのか。」

「うわあ、めっちゃ綺麗。」

 ベンチの側まで来ると制服の胸ポケットに何やら紙が入っていることに気が付いた。

「隊長、胸になんか入ってます。」

「…?本当だ。紙?」

 リュードが取り出してみるとメッセージカードサイズの紙が入っていた。

『有難うございました。』

 紙にはとても美しい字でそう書かれていた。

「めっちゃマメな方ですねー。あ、名前!どっかに書いてないですか?」

 エミリオにそう言われて裏返してみても名前は見つからない。

「ないな。」

「せっかく名前が分かると思ったのに!ルペル大隊長から連絡が来るの待つしかないんですね。」

「ああ。」

 リュードはその紙が折れないように胸ポケットにしまい直しながら短く答え、制服を着直した。

「エミリオ、帰ろう。」

「はい!隊長!」

 いまだに名前が分からずしょんぼりと肩を落とすエミリオにリュードがそう声を掛けると、エミリオからは勢いの良い返事が返ってきた。


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