第2話

イツキの指先は他の誰よりも研ぎ澄まされている。

それもそのはず、イツキは外科医だからだ。

外科医は手先が器用と言われる。勿論、ひとつ間違えたら取り返しがつかない大出血を招いてしまうので、0.1mmに満たない血管を扱う細かい作業を正確にこなせる指先の技量も必要不可欠ではある。けれど、単にそれだけではない。

上手な外科医はまるで千手観音の如く、片手で腸を抑えつつ別のものを引っ張るというようなことを事も無げにこなしてしまう。凛香の悦ぶ点を幾つも探り当てながら、それらを同時に愛撫することなど、イツキにとっては他愛もないことだ。

加えて、所謂名医と言われる外科医に共通する特徴は、高いコミュニケーション能力を持ち合わせていることである。

いくら名医と言えど、手術は一人で出来ない。助手との連携が大切になるが、いつもいつも同じ助手と手術をするわけではない。

イライラして他のスタッフに当たったりしない精神的な強さ。相手の性格、技量、経験を瞬時に読み取り、ベストなパフォーマンスを引き出す能力に長けている。更には長時間の緊張に耐える忍耐力、そしてそれを支える体力。それらが備わってこそ名医と呼べるのかもしれない。

セックスとて同じこと。強靭な肉体をベースにしながらも、いかに躰も心も従順になれるように誘導できるか…イツキには、それが考えなくてもナチュラルにできる。

「私、失敗しないので」という決めゼリフが有名なテレビドラマがあるが、イツキには必ず女性を満足させる自信があった。自信というより、むしろそれが当たり前、というべきかもしれない。

点と点が絡み合って、快感という線となり、更にはそれらが複雑に絡み合って、凛香は快感の渦底へと導かれていく。断末魔に近い、叫び声を上げながら…


……………………………………………………


毎度のことながら、イツキのテクニックには驚かされる。凛香とて、まあまあ人並み以上には経験を積んできたと思っているけれど、おそらくもう他の男では満足出来ないと思っている。

何も言わないのに、イツキは凛香の弱いところばかりを何度も何度も刺激し続ける。

さざ波かと思えばうねり。絶頂に近くなると、一気に地面に堕ちる。


もう…どうなってもいい…理性が完全に崩壊するまでのほんの僅か、でも永遠にすら感じるこの記憶を境に、凛香は快感のスパイラルに放り込まれる。息が出来ない…でも…苦しくはない。

そして我に帰った頃には、いつもイツキの腕の中に包まれている。


もう…絶対にイツキを手放したくない…いや…手放してはいけない…


今のところ、イツキは凛香ののことを気に入ってくれてはいるようだ。他に誰かと付き合っていたりする様子は伺えないし、何より大切にしてくれている、その気持ちが明らかに伝わってくる。今日のバースデーはほんと最高だったし…けれど…


このままイツキの気持ちを繋ぎ止めていられるのだろうか?

その不安はいつも凛香の胸奥に付きまとう。


「ねえ? ケーキ食べよっか」

「え? 今から?」

イツキは呆れたような笑みを瞼に浮かべている。

「俺さ、甘いのってちょっと苦手なんだよなあ」

「うん。知ってる」

凛香は悪戯っぽく笑いながら、イツキがプレゼントしてくれたホールケーキをテーブルの上に広げた。

「これがいいなあ」

凛香がそう言って選んだケーキは、ホワイトクリームにフルーツがふんだんに散りばめられている。


凛香は産まれたままの姿のまま、クリームを片手の指先ですくい取り、それを自らの乳首、脇腹、唇、そして股の間に塗りつけた。


「ねえ、私を食べて」

凛香は躰をくねらせながらイツキに近寄り、唇を重ねる。

イツキの舌先が、凛香の唇に塗られたクリームを丁寧に舐め尽くしていく。どうやら、こんなお遊びも、イツキには満更でも無さそうだ。やっぱり思った通り、ちょっと変態性がありそうね。


イツキの唇が、凛香の首元を過ぎ乳首に塗られたクリームに到達しようとしたその時…

イツキの頭に鈍痛が走った。

「ウッ…」唸りながら顔を見上げると、そこには般若の顔をした、けれど何処か悲しげな瞳の凛香の顔があった。凛香の手には、フォークが握られている。

先が、赤く染まったフォークが…



……………………………………………………



第二話はここまで。

官能のはずが、ホラーになってきたわ、どうしよ?

ちょっと色々餌撒いたので拾って頂けると嬉しいです。

次は、天才🎓✨座標さんにバトン繋ぎますね。

お待たせして申し訳ございませんでしたm(_ _)m



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