【第一風 風切くん】
私は
今日もいつもと同じように、地下鉄を降りて学校に向かう。小さな公園、駐車場の広いコンビニ、学生に人気のパン屋。今日も変わったところはない。
「おっはよ楓!」
ぽんっと肩を叩かれた。振り向くと、元気いっぱいに笑顔を咲かせているショートヘアの友達がいた。
「おはよう、今日も元気だね」
「にしし、朝ごはんちゃんと食べたからかな」
彼女は
——今日は
ふたり足並みを揃えて、学校に向かう。
「おはようー」
「先生、おはようございまーす」
校門に
これも日常、見慣れた光景でしかない。今日も先生いるねという感想すら持たない。
「おはようございます」
先生の隣にもうひとり立っていた。学ランのホックまできちんと閉めて、生徒ひとりずつ丁寧に挨拶をしている。
これもいつもの光景……なにも変わらない……。
「あ、おはようございます」
——いや、ウインドブレーカー!!!!
「あ、」じゃないのよ。なんで学ランの上からウインドブレーカー着てるの。いつもの光景だけど慣れないのよ。ものすごく
え、なんで着てるの? てか、なんでみんなスルーしてるの?? 私がおかしいの???
彼の名前は
四月から半年経った今まで、見かけた彼はいつもウインドブレーカーを着ていた。どんなときでも、なにをしてても、ずっと、ずーっと学ランにウインドブレーカーを
彼の
でもだれも話題に上げない。私の価値観が間違っているのかなと思うときもある。
「ねぇてまり、ちょっと聞いていい?」
「ん? どした?」
「風切くんのウインドブレーカー、気にならないの?」
「それ! 思ってたわ」
よかった。てまりも同じこと考えていたのね。別に普通の疑問だったのに、なぜか謎の安心感を得る。
「あのウインドブレーカーどこで買ったんだろう。軽そうだよね!」
“トトンッ”
手から溢れた上靴がすのこの上に落ちる。右手は上靴を持っていた形跡を残して固まった。
「そういうことじゃない……」
こうして、高校二年生の後期が始まるのだった。このときはだれも知らなかった。日常が非日常だってことを。
「風切くんは明日もウインドブレーカーなのかな」
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