戦慄のマジカルヒーローズ

MACK

 第一部

第一章 そしてバトルは突然に

第1話 初めての妖バグ戦


 舞い上がる土煙は蒼天を僅かに濁らせていて、巨大な生物のシルエットが、青空にそそり立つ。


「そこまでだ!」

「クケケケ?」


 人差し指を突き付けてそう叫んだ黒ずくめの少年。


 艶を放つ革ジャンは襟元が未来的な大き目のデザインで、それに合わせているのはシンプルな黒いダメージジーンズ、ハイカットの黒いスニーカーにはスポーティーな赤いラインが入っている。

 太ももには数本のベルトが巻かれ、腰からは何本もの鎖が音を立ててぶら下がっている。

 シャープでしなやかなモデル体型のおかげで、不思議とその路線のファッションが似合っていて、顔立ちは大人と子供の境目という年齢からの、幼さの中に生まれ始めた精悍さを合わせて最高のビジュアル。


 巨大なムカデの”ようバグ”と呼ばれるに至ったモンスターが、今まさに破壊しようとしていたバスから、多数ある足の一部を外して振り返る。足1本が大人の男性の胴の太さともなれば、あと一分遅ければ省エネのために軽量化された車体など完全に潰されてしまったであろう。少年が作った猶予に、バスの乗客たちは運転手に誘導されながら転がるように逃げ出して行く。

 彼は乗客たちが避難していく様子を目の端で見送りながら、長い前髪の隙間から妖バグを睨みつけていた。そんな少年の左目は普通の人間にはありえない、輝く金色。

 その瞳に被せるように一度Vサインを作り、バッバッバッとするどい風を切る音をさせながら五芒星の印を切る。


魔法の勇士マジカルヒーロー漆黒の……漆黒の……」

「ユウ! そこにはルビが振ってあったはずだ」


 リスのような、いや、太ったハムスターのような、不可思議でちょっとファンシーな夢かわいいピンクと水色という配色、なおかつ天使の羽根を持つ小動物がぷかぷかと浮きながら少年を叱咤激励する。声は見た目に反し、乙女心に刺さりそうなイケメンボイスであったから、とてつもなく見た目との間で激しい違和感があるが、周囲にいた人々はすでに逃げ出しており、突っ込む者はいない。


「くっ……」

「ユウ!」


 再度声をかけられながらも顔を覆い、真っ赤になる少年に向けて妖バグは興味深げな様子で向き直り、改めて虫らしく首を傾げたが、本来の目的――街の破壊――を思い出したようで、体を改めてぐっと起こした。

 黒装束の少年を、更に黒い影が覆い隠す。巨大ムカデはその体で少年を潰して適当に終わりにするつもり。


「危ない、ユウ!」


 メルヘン感あふれる謎生物のイケメンボイスの叫びに、覚悟を決めたようにギリッと少年は奥歯を噛み締めると、再び印を結び直し叫んだ。


魔法の勇士マジカルヒーロー漆黒の常闇ブラック・エヴラースティングダークネス、参上! これ以上は秘密結社”屍の惑星”の好きにはさせない!」


 叫び終えた瞬間、両手甲のドラゴンをモチーフとした紋章が光り輝き、光を放ち終えた彼の手には青い刃の日本刀。


 少年は静かに刀を構え、恐ろしげな巨大な虫と改めて対峙した。

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