恋の鳥籠作戦
貴子は怜奈から『ケンジとマリアを発見した』と連絡を受け、万全の対策を考えてメンバーに指示を出す。
「恋の鳥籠作戦。ユミコとアミとナツコは一階の出入り口でマリアを待ち伏せ。アヤノとキョウコは私とケンジを挟み撃ちにする。恋する鳥は一人じゃ飛べないからね」
「わかりました」
弓子を先頭にして亜美と夏子が一階に戻り、正面玄関は夏子が守り、弓子と亜美は化粧品売り場の玄関口に身を潜めてトラップを仕掛ける。
『マリアを捕獲すれば、ケンジに逃げられても勝利は私たちにある』
貴子の計画は明確であり、メンバー全員が恋の鳥籠作戦の戦略を共有し、恋のリベンジを沸々と漲らせた。
「行くわよ。元恋人の名誉に懸けて、ケンジの思い通りにはさせません」
貴子は彩乃と京子を引き連れてエスカレーターで三階フロアに上がり、エスカレーターで降りてくる付け髭の取れた賢士を見つけ、背後から追う怜奈も視界に入れる。
「マジか?」
賢士はエスカレーターの降り口に貴子と彩乃と京子が両手を広げて待ち受けるのを見て、背後から迫る怜奈と天使を振り返り、エスカレーターを横に飛び降りてフロアに着地した。
「逃すものか」
「ケンジ。待ちなさい」
「マリアは私たちが見つけたのよ」
貴子たちは賢士の動きを読み切り、フロアをダッシュして三方から追うが、賢士はフラワーショップの間を走り抜け、商品棚を飛び越えて逃げ回る。
「さすがケンジ。素早いわね」
怜奈がエスカレーターを駆け降りて、貴子たちのタックルを華麗に躱す賢士に感心したが、金髪の天使は障害物を素通りして移動し、賢士がUターンするタイミングで四角い革鞄を振り回してぶつけた。
『エッ?』
賢士は空気の壁に頬を殴られたようにバランスを崩したが、床を両膝で滑ってスマホで撮影する怜奈の股間をすり抜け、エスカレーターを駆け降りて二階の連絡通路へ向かう。
マリアはその逃走劇を少し離れた階段口から偵察し、レトロショップに預けた衣服の入った紙袋を受け取ってエレベーターで一階に降り、正面玄関へ歩き出すが、ブルーのロングスカートにベージュのデザイントップスを着た夏子が見えた。
『どうしよう?』
時計を見る振りをして立ち止まり、引き返すか迷ったが、『態と目立って、別の出口へ誘導している』と見破り、真っ直ぐ前を向いて歩き出す。
夏子は足を広げてブルーのロングスカートを突っ張らせ、青い防波堤のようにマリアの前に立ちはだかっている。
『最後の砦のつもりかしら?』
マリアは赤毛の髪を手でセットし、タンポポ柄のカラーシャツにジーンズ、派手なニット帽とトンボメガネを掛けて、夏子の横を通り過ぎようとした。
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