恋の裁判

「実はマスターからケンジという方の噂を聞き、逢ってみたいとは思ってけど、恋のオーディションに出場する気はありません」


「では恋の裁判とお考えください。私たちは私情を挟まず、公平にマリアさんがケンジの恋人に相応しいか審議する。貴方が望もうと望むまいと関係ないのよ」


「そこまでおっしゃるのなら、恋のライセンスを勝ち取ってみせましょう。自信がなくて、逃げ出したと思われたくないので」


 マリアと貴子が顔を突き合わせて睨み合い、テーブル席の女性たちが固唾を呑み、天使が腕時計を見て指でサインし、悠太は絶妙なタイミングでカウンターを出て進言した。


「僕にマリアさんの弁護をさせてください」

「いいでしょう。適任者だと認めます」

「ありがとう。マスター」


 マリアが振り返って微笑み、カウンターの椅子に座った悠太はコーヒーを一口飲んで喉を潤し、「カミングアウトしてスッキリした」と開き直る。


「僕は一週間前に面接をした第一印象から、マリアさんの雰囲気がケンジくんに似ていると感じ、翌日には紹介したいと思った」


 履歴書に目を通し、清楚なワンピースを着てウインドーをバックにダビンチの名画のよう微笑むマリアを見た悠太は二人が恋人になる運命だと感じた。


「言葉では言い表せないが、向日葵の微笑みがケンジくんの哀しみを癒やして、困難な茨の道でさえ手を握って進める。僕はそう確信してマリアさんを推薦します」


「私も同じです……」


 サングラスを少しズラして悠太の意見を聴いていた怜奈が賛同し、貴子に発言を促されて緊張気味に前に出て証言する。


「カフェにマリアさんが来た時、ケンジの理想の女性ってこんな感じがして、初対面の女性に嫉妬している自分にムカつき、速攻でバイト辞めたんです」


 怜奈はマリアと悠太を見て「改めてお詫びします」と頭を下げて話を続けた。


「しかも翌日、カフェに謝りに来てウインドーから店内を覗き、マリアさんがマスターと楽しそうに働いているのを見て、挨拶もせず帰った。完全に私の負けですね」


「声を掛けてくだされば良かったのに」とマリアが微笑み、悠太からも「今度、コーヒーを飲みに来て」と言われ、怜奈は安堵してテーブル席に戻った。


「対応力は素晴らしいようね。でも果たして女神なのか?それとも魔女なのか?」


 貴子が宙に向かって疑問を投げかけると、天使が『元幽霊』と呟き、マリアと貴子の前を通り過ぎてウインドーから外へ飛び出し、空へ舞い上がって次の時のポイントへ向かう。

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